「聞くだけでイライラ」金正恩の思想教育に国民は限界
北朝鮮当局には、苦しい時期ほど内部の引き締めを図るために、思想教育を強化する傾向にある。毎週土曜日の定期的な教養事業(思想教育)に加え、政策を宣伝する場として政治講演会が随時行われる。
ここ最近、全国的に行われているのは「金正恩総書記の偉大さ」を伝える「偉大性教養」だ。
平安北道(ピョンアンブクト)や両江道(リャンガンド)などデイリーNKの複数の内部情報筋によると、偉大性教養は、地元の人民班(町内会)に道保衛局(秘密警察)の保衛員がやってきて、1時間40分にわたって、金正恩氏の偉大さを宣伝する形で行われる。
主な内容としては、国防力の強化、コロナ防疫戦の勝利、子どもの栄養問題解決、住宅建設など金正恩氏の「実績」とされるものを並べ立て、「卓越したビジョン」「先を見通す千里眼のような眼光」「政治・経済・軍事・外交において大勝利」「来年も国の安寧と人民生活を守ってくださる」といったものだ。
「社会主義朝鮮で暮らす矜持と、元帥様(金正恩氏)を指導者として戴いて暮らす自負心で、わが朝鮮労働党と元帥様の思想と意図どおりに動かなければならない」(保衛員)
国民を洗脳して忠誠心を高めるために、中央から一律に下された資料をベースに教育が行われたようだが、住民からの反応は散々なものだったようだ。
まず、北朝鮮国民の最大の関心事である「食糧不足の解決」だが、「われわれの暮らし向きがどうなのか、目があれば見ているはずで、耳があれば聞いているはずだが、どうしてあんなウソを平気で言えるのか不思議」(住民)という声が上がっている。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
極端なゼロコロナ政策で鎖国状態となり、貿易まで止めてしまったことで極度の食糧不足に陥り、食べ物が底をつく絶糧世帯が続出。餓死者も出る有様で、秋の収穫後にも穀物価格が下がっていないのが現状だ。目の前の現実と全く異なる美辞麗句を並び立てられた住民は、呆れ返っているようだ。
また、住宅建設と国防力についても「人々が餓死しているというのに、国防力強化、核開発、住宅建設に何の意味があるのか」と不満が続出。食べ物と燃料がなく、飢えと寒さに震えている庶民にとって、最も切実な問題が無視され、そればかりか、金正恩氏自らが厳禁を言い渡した「税金外の負担」が、住宅建設費の名目で徴収されている実態を槍玉に挙げた。
「税金外の負担をさせるだけでも飽き足らず、家庭の生計という重い荷を背負っているわれわれを(建設現場に)動員した」(住民)
さらに、「平壌と地方の農村住宅建設は『人民への元帥様の愛』だというが、聞くだけでイライラする」などと、的はずれな教育内容一つひとつに不満が爆発。
北朝鮮国民は、小学校に上る前から繰り返される思想教育を、熱心に聞くフリをするだけ、或いはそれすらせず居眠りやお喋りで適当にやり過ごしている。その一方で興味のあるもの、おかしなものには聞き耳を立て、素早く反応する。
それだけに、下手に反発を買わないように、教育内容を吟味しなければならないのだが、頻繁に失敗を繰り返している。