中学生の自殺を防ぐために
■二人の女子中学生が
東京で二人の女子中学生が手をつなぎ電車に飛び込んだと報道されています。人間関係の悩みなどが書かれた遺書めいたメモも見つかりました。「2人は仲良しで、いつも一緒にいた。悩んでいる様子もなく、亡くなったなんて信じられない」との周囲の声も報道されています(<中2女子2人死亡>現場に「死にたい」メモ…東急大井町線:毎日新聞 5月10日)。
自殺の中でも、子どもの自殺は、本当に残念なことです。
■中学生の自殺
自殺者で最も多いのは、中高年男性の自殺です。日本の自殺者全体の増減は、中高年男性の自殺動向にかかっています。その中で、中学生の自殺は、割合としては小さなもので、年間2~3万人が自殺する中での数十人です。
しかし、この数年自殺者の全体数が減少する中、中学生の自殺は増加しています。2011年には71人、2012年には78人、2013年には98人、2014年には99人、そして2015年には102名(男子70名女性32名)の中学生が自殺しています。
■子ども若者の自殺の特徴
子どもの自殺の特徴は、衝動性・確実な手段・小さな動機・影響されやすさと言われています。
これまでの二人の子どもが同時に自殺したケースでは、一人の悩みに友人が同情して一緒に自殺したケースがあります。これも、子どもの影響されやすさの表れです。
大人から見れば、ささいな出来事で、突然衝動的に、首をつったり、飛び降りたりしています。これには、まだ死生観が十分に発達していないことも影響しているようです。
また統計的な調査によれば、男子中学生の自殺の動機で最も多いのが学業不振、次が家族からのしつけ、叱責です。女子中学生の場合に最も多い動機は、友人との不和、次が親子関係の不和です。
今回の女子中学生が遺したメモにも人間関係の悩みが書かれていたということですが、女子は男子以上に友人や家族との人間関係の問題が大きくなりがちです。
一方、若者の自殺の特徴の一つは、不確実な方法が選ばれやすく自殺未遂が多いことです。若者が語る「死にたい」は実は「生きたい」だと考えられます。決して演技でも狂言自殺でもないのですが、心の底では生きて幸せになりたいと願っているので、命を賭けた人生の勝負に出たとも見ることができます。誰かが発見してくれて、問題が解決すれば、その人生の賭けに勝ったことになるでしょう。
ですから、自殺のサインも様々に出しますし、死に方にこだわって、美しい死、淋しくない死を考えたりします。
中学生の自殺の場合は、子どもの自殺の特徴が見られる場合と、若者の自殺の得量が見られる場合の両方があるでしょう。
■中学生の自殺を防ぐために
自殺のサインを出してくれるのであれば、見逃したくないと思います。死にたい、消えたい、遠くに行きたい、私なんかいらない子だというのは、直接的な自殺のサインです。死について哲学的に考えたり、成績が急に下がったり、危険なことをしたり、イライラしていつも怒っていたり、大事なものを人にあげるのも、自殺のサインの場合があります。口で話すこともあれば、学校の連絡帳に書かれる場合もあります。
自殺のサインを受け取った人は、大騒ぎもせず、無視もせず、問題を信頼できる人と共有することが大切です。みんなの目で子どもを見守りましょう。
たとえば、クラス担任が気づき、学年主任、教頭校長に報告し、スクールカウンセラーが個別面談をすることもあります(私もそのようなことを経験してきています)。
笑ってごまかしたり、説教したり、一人だけで抱え込んだりせず、チームで対応し、誰かがしっかり話を聞く必要があります。
このようなことを、子ども達にも教えておきましょう。友達がそんなことを話していたら、信頼できる大人に相談するように、事前に教えておくことが、自殺予防につながります。大人に話すことは、友人への裏切りではなく、友達の命を守ることになるのだと、教えておくことが必要です。
ただ子どもの自殺の場合は、ほとんど事前のサインを出さないこともあります。ですから、日ごろから子どもの話を共感的に聞き、孤独感を与えないことが大切です。
子どもを守るためには、親を守ることも必要です。親が生きる意欲も心の余裕も失っていれば、子どもの命も危機にさらされていると考えましょう。
また、このような大きな自殺報道は次の自殺の連鎖を生みかねません。影響されやすい中学生は、特に要注意です。同じ地域や、同じ年齢、同じ悩みを持っている、似たような子達に、特に注意しましょう。
過去に自殺未遂をしている、自傷行為をしている、家族が自殺している、大きな悩みを持っているなど、不安定な状態の子どもに目をとめましょう。
本人はとても悩んでいます。自分は孤独で、この苦しみは永遠に続くと思い込んでいます。しかし客観的に見れば、愛して心配してくれる人が大勢いる前途洋洋の子ども若者です。あなたのひと言が、子どもの命を守ることになるかもしれません。
参考「あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ 」(Forest books) 碓井真史著