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目下防御率0.00! オリックスの“勝利の使者”ヒギンスは独立リーグから這い上がってきた苦労人

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
中継ぎ投手陣の中で最も安定した投球を続けるタイラー・ヒギンス投手(筆者撮影)

【中継ぎ投手陣に苦しむオリックス】

 シーズン開幕後翌週のロッテ6連戦で全敗を喫するなど厳しいスタートを強いられたオリックス。今も日本ハムと最下位争いが続いているが、6月30日以降から現在(7月19日)までの成績は8勝8敗2分けと、持ち直しつつある。

 打線はチーム打率こそリーグ5位の.232に留まっているが、本塁打数は24本でリーグ2位タイにランクするなど、MLB通算282本塁打のアダム・ジョーンズ選手が加わった自慢の重量打線は徐々に機能し始めている。

 また先発投手陣も好調だ。今や球界屈指のエース投手に成長した山本由伸投手を中心に好投を続け、長いイニングを投げる投手も現れている。目下の課題は中継ぎ投手陣で、明らかに中盤以降の試合づくりに苦しんでいる。

【今やオリックスの“勝利の使者”になりつつあるヒギンス】

 そんな中継ぎ投手陣の中にあって安定した投球を続け、獅子奮迅の活躍をみせる投手がいる。今シーズン新加入した、29歳右腕のタイラー・ヒギンス投手だ。

 シーズン開幕時は1軍登録されていなかったものの、6月27日に晴れて1軍に合流。現在は主に守護神ブランドン・ディクソン投手に繋ぐセットアッパーとして起用され、ここまで8試合の登板で1勝0敗4ホールドを記録するとともに、未だに失点を許さず防御率0.00を続ける。

 またヒギンス投手が登板した引き分け、もしくはリードした試合では、彼のNPBデビュー戦となったロッテ戦(6月27日)には敗れたものの、それ以降は4勝2分けとチームも負け知らず。今やチームにとって“勝利の使者”といっていい存在だ。

【最大の武器は三振を奪える150キロ超え速球】

 ヒギンス投手は間違いなくパワー派に分類される投手だ。その最大の特長は150キロを上回る速球だ。セットアッパーにとって打者を圧倒する必要不可欠な武器といっていい。

 特にNPBにはパワーで押せるタイプの投手は少なく、150キロ超えの速球を投げられる外国人投手にセットアッパーや抑えを任せるのがリーグの潮流になっている。

 ヒギンス投手の米国時代の成績をみても、速球を武器に確実に三振を奪える投手だということが理解できる。彼は2018年と2019年はMLBに最も近い3Aに在籍していたのだが、2年間で計90イニングに登板し、103の奪三振を記録している。

【日本の野球にも適応し自信も芽生え始める】

 7月11日の日本ハム戦でNPB初勝利を飾ったヒギンス投手は、試合後初のお立ち台に立った後、報道陣に対し以下のように話している。

 「自分は米国でも8回を任されることが多かったこともあり、そこで投げるのが凄く気に入っているし、自分らしく投げることができると感じている。日本でもいい感じで投げられていると思う。

 今は日本の野球がどういうものなのかを理解してきている。まだ来日して4ヶ月しか経っていないのですべてを理解するのは不可能だが、日本の野球でも自分の投球ができそうだという自信を感じ始めている」

【一時は契約チームが現れず独立リーグへ】

 すっかり頼もしい存在になり始めたヒギンス投手だが、実は米国時代は茨の道を歩んできた苦労人だった。

 高校を卒業した2009年にレンジャーズからドラフト指名を受けるが、チームからあまり期待されていない47巡目の指名だった(当時は50巡目まで指名可能だった)。

 そこで彼は、プロ入りせずにコミュニティカレッジ(日本の短期大学)に進学することを決断。2年後の2011年に改めてマーリンズから23巡目指名を受け、プロの道へ進むことになった。

 だがマーリンズに7年間在籍し、2Aまでしか進めず念願のMLB昇格を果たせないまま、2017年シーズン終了後にFAに。しかしオフに契約するチームが現れず、2018年シーズンは独立リーグのアトランティック・リーグで開幕を迎えるしかなかった。

 そこから這い上がりをみせ、シーズン途中でマリナーズとのマイナー契約を獲得。自身初の3Aに回ると、28試合に登板し1勝1敗、防御率2.83の好成績を残すことに成功した。

 そしてそのオフにパドレスとマイナー契約を結び、2019年のスプリングトレーニングでは招待選手として初のメジャーキャンプに参加。オープン戦にも7試合登板し、MLB初昇格まであと一歩のところまで辿り着いていた。

 むしろ挫折を味わった後の方が投手として成功し、オリックス入りの道を切り開いたといっていい。

 これから日本は暑い夏を迎えるが、ヒギンス投手は「高温多湿は大好きだ」と、といいむしろ歓迎する。彼はマーリンズ時代の7年間、日本より高温多湿のフロリダ州にあるチーム(ルーキー・リーグから2Aまで)で投げ続け、現在は同州に居を構えている。高温多湿は、まさに彼が得意とするところなのだ。

 このまま防御率0.00を続けるのは至難の業だ。いつかは失点を記録することになるだろう。それでもヒギンス投手が本領発揮するのは、むしろこれからなのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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