親日・台湾ブランドの勢いが止まらない「台北ファッションウィーク 2024 春夏」詳細リポート
アジア発のファッションが一段と勢いづいてきました。国・地域ごとにそれぞれの強みや傾向がありますが、勢いやポジティブさが際立つのは、台湾発のファッションです。有力ブランドが参加する、台湾最大級のファッションイベント「台北ファッションウィーク」は台湾ブランドの実力を感じ取れる絶好の機会。今回はアジアで飛び抜けて親日的な台湾の新興ブランドを現地リポートの形で紹介します。
台北ファッションウィーク2024春夏
(TAIPEI FASHION WEEK 2024 Spring Summer)
今回の「台北ファッションウィーク2024春夏」(TAIPEI FASHION WEEK 2024 SS)は2023年10月11日~17日の1週間にわたって、台北市内の文化エリア、松山文創園区で開催されました。文化部(日本の文化庁に相当)、経済部(経済産業省にあたる)、台北市などの共同主催という、公的で大規模なプロジェクト。内外から大勢のバイヤーやメディア関係者が招かれました。
10月11日に催されたオープニング・ファッションショー《青・春》では「ユース(若者)カルチャー」をテーマに据えました。6つの次世代ブランドがティーンの好む要素を独自に解釈。台湾のユースカルチャーを探求しながら、今の台湾で盛り上がっているストリートファッションを発信しました。
オープニングショーに参加したのは、「.67ARROW(ドット67アロー)」「(A)crypsis(アクリプシス)」「ANOWHEREMAN(アノウェアマン)」「oqLiq(オークリック)」「PLATEAU STUDIO(プラトウ ストゥディオ)」「JUST IN XX(ジャスティン ダブリューエックス)」という6つの台湾ブランド。ヒップホップやロック音楽、グラフィティ、漫画などのユースカルチャーから着想を得た、思い思いの作品を披露し、開幕に弾みを加えました。
「台北ファッションウィーク」とは、世界の新興ファッションウィークのひとつ
台北ファッションウィークとは、年に 2 回、春と秋に開催されている政府主催のファッションイベントです。ファッションショーが開かれたメイン会場の総合文化エリア「松山文創園区」には日本人建築家、伊東豊雄氏が設計した建物もあります。
世界のファッションウィークに関してざっと整理しておきましょう。発信力が高い「4大コレクション」と呼ばれるのは、開催時期の早い順にニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリです。その次に続くクラスに東京があります。近年はアジア各地のファッションウィークが勢いづいてきました。韓国や香港、北京、上海、シンガポールなどで開催されています。そうしたアジアの新興ファッションウィークの一角である台北ファッションウィークを取材してきました。
台湾ブランドに目立つのは、手仕事技やクラフトマンシップの強みです。丁寧なハンドクラフトは歴史や伝統の重みを感じさせます。しかも、そうしたディテールを古風に扱うのではなく、ストリートやユースカルチャーとミックスしているのが面白いところ。文化の薫りをまといつつ、現代的なパワーも備わっているのが台湾ファッションの魅力と言えるでしょう。
今回、コレクション解説とともに、知っておきたい台湾ブランドをピックアップしてご案内します。どのブランドも国内だけではなく、海外でも取り扱いが広がっているので、今のうちから知っておくと、日本ではレアなおしゃれを楽しめるでしょう。
開幕ショーでは台北流ユースカルチャーを披露 トップブランドが登場
知っておきたいブランド1)
■JUST IN XX(ジャスティン ダブリューエックス)
6組の台湾ブランドがユースカルチャーを感じさせるコレクションを発表しました。6ブランドのショーのラストを飾ったのは、エッジの利いたブランドとして人気を博す「JUST IN XX (ジャスティン ダブリューエックス)」です。
2023年9月に伊勢丹新宿店でポップアップイベントを開いたほど、日本でも関心が高まっています。「よりローカルに、よりインターナショナルに」がブランド精神。ニューヨークコレクションにも参加しています。東京 2020 オリンピックに出場した台湾チームのオープニング衣装も担当しました。世界的な有力ブランドとのコラボレーションが相次いでいます。
今回のコレクションでは「AI(人工知能)」をテーマに選んで、テクノロジーとファッションを交わらせました。デザイナー周裕穎氏とチャットロボットが対話して、実在しない漫画『獣鎖精神病院』に登場する 6 人からコレクションを組み上げました。ラグジュアリーエッジィなイメージが漂います。台湾の芸術や工芸、文化を融合するデザイン手法に強みを持ち、今回は台北の故宮博物院、国立歴史博物館とコラボレートしました。
東京ファッションウィーク参加組によるショー 2ブランドが登場
知っておきたいブランド2)
■Seivson(セイヴソン)
「Seivson(セイヴソン)」は東京コレクションに何度も参加していて、日本でもファンの多いブランドです。2024年春夏シーズン向けの東コレにも参加。日本で最も知られている台湾コンテンポラリーブランドかもしれません。今回の台北でのショーでは、台湾のセレブリティやインフルエンサーが大勢、会場に現れ、人気の高さを証明しました。
24年春夏では働く女性をテーマに据えて、フォーマルな女性に向けたUネックのスーツを提案しました。ボディラインを強調したピースには、大胆なくり抜きを施しています。解体やレイヤードなどのダイナミックな手法が生かされました。
「服と体を通して、女性の新しい美学を表現しています。東京で発表した後に、台北で発表しました。東京ではセットアップやワンピースのシックなスタイリングが中心でしたが、台北ではシャツやスカートなどをミックスして、遊び心をプラス。楽しみながら演出しました」とデザイナーのTzu Chin Shen(ヅゥチン・シン)氏はインタビューで語ってくれました。
知っておきたいブランド3)
■IRENSENSE(アイレンセンス)
「IRENSENSE(アイレンセンス)」は20年に曽彦維(そう・げんい)氏がスタートしたブランドです。台湾の実践大学のファッションデザイン学科を卒業。19年には「TOKYO NEW DESIGNER FASHION GRAND PRIX」に参加し、優秀賞を受賞しました。東京での活動に力を入れていて、直近の東コレにも参加しています。新コレクションでは「vision(ビジョン)」をテーマに選んで、『不思議の国のアリス』の世界を写し込んでいます。
「東京ファッションウィークに出ることが夢だったので、東京で発表できたのはとてもいい経験になった。東京は様々なスタイルがある点が興味深かった。台北に戻ってから、台北ファッションウィークではよりプレイフルに小物を使ってスタイリングに深みをプラスした」とデザイナーはインタビューでコメントしました。
台湾で人気の若手ブランドはモードでひねりのあるストリート
知っておきたいブランド4)
■RAY CHU(レイ チュウ)
「RAY CHU(レイ チュウ)」は台湾と中国・上海市に拠点を置くコンテンポラリーストリートブランドです。台湾人デザイナーのRay(レイ)氏が16年に立ち上げました。メンズライクなウィメンズラインが得意。多様な価値観や自分の体型を大切にするジェンダーレスやインクルーシブネスを軸に、ミニマルなスタイルを提案しています。
24年春夏コレクションのテーマは環境保護を重んじるブランドらしく「海」。青や赤、緑、砂色を用いるほか、曲線のカッティングで水の波紋を表現したり、服の留め具に貝殻を縫い付けたり。マンタのモチーフもあちこちにあしらいました。リサイクル素材の活用にも環境意識が示されています。
知っておきたいブランド5)
■oqLiq(オークリック)
「oqLiq(オークリック)」は東洋のシンプルさとストリートファッションのコンセプトを融け合わせた、ハイエンドなパフォーマンスファッションのブランドで、アーバンアウトドアウエアを提案しています。台湾出身のKay Hung氏とOrbit Lin氏が創設。シンプルで機能的なシルエットも持ち味です。カラートーンはグレー、ブラック、オリーブといったアースカラーが基調。サステナブルな生地を使い、ミニマルで実用的な装いを手がけています。
24年春夏コレクションのテーマは「拡散」で、デザインコンセプトは「AI 描画」。AIが生成したアートから着想を得ています。解体、再構築、復元、バランスといったアプローチで服のありようを掘り下げました。全体に漫画のイラストをプリントした服も登場しました。
現代の職人技とファッションのクロスオーバー
クラフトマンシップとファッションの相乗効果を感じ取れたのは、今回のファッションウィークでの収穫でした。企画面でも職人技にフォーカスしています。オープニングショーに続いて開催されたのは、国立台湾工芸研究開発センターが企画した工芸がテーマのショーです。
「現代の職人技とファッションの越境」をテーマとしたこの展覧会では、職人とファッションデザイナーの6グループの協力成果と、60組のファッション作品が披露されました。工芸文化とファッションの融合を印象付ける試みです。文化部の王世思政務官、国立台湾美術工芸研究開発センターの陳典麗所長、キュレーターの陸書芬氏ら工芸デザイン界関係者らが出席しました。
ファイバーウィービング(織物)や竹細工、ストーンアートなどを手がける6つのグループが参加して、実験的なファッションデザインを提案。メタルクラフト、テキスタイルアート、天然染めなどとのクロスオーバーも披露されました。台湾に息づく、伝統的な工芸技術の奥行きを感じ取れる好企画です。
・「Fiber Weaving」
「Fiber Weaving」は繊維織物職人のZhong Qiongyi氏と、デザイナーデュオ(Zhang Yajie氏とLi Jiaquan氏)とのコラボレーションです。衣服のシルエットや構造を再解釈して、美意識と合理性を併せ持つ作品を披露。Qiongyi 氏が得意とする素材を巧みに使用して、服に豊かな表情を与えていました。
・「Bamboo Craftsmanship」
竹は東洋的なムードを帯びた植物素材です。日本同様、台湾では古くから工芸品が幅広く作られてきました。「Bamboo Craftsmanship」は竹職人のLin Jingge氏とデザイナーのKe Weilun氏のコラボ。伝統技術と現代アートを衣服に織り交ぜています。
・「Metal craft」
金属はファスナーや金具類を除けば、ファッションとは縁が薄いと思われがちですが、伝統的なメタルワークを服に生かす試みも披露されました。金属加工職人の蘇暁夢氏と、ファッションデザイナーの Jamie Wei Huang(ジェイミー・ウェイ・ファン)氏が協働した「ブルーコレクション」シリーズです。ロンドンのファッション名門校、セントラル・セント・マーティンズで学んだHuang氏が金属織りアートから着想を得て、柔軟性とタフさを兼ね備えた新発想の装いを表現しました。
・「Stone Art」
自然石を生かした「ストーンアート」も発表されました。原石アートの先駆者である職人の邱荘勇氏とデザイナーのSHAO YEN氏が共同で制作した「RAW」シリーズの作品を展示。ストーンアートの深みを印象付けました。
・「Texitile Art」
繊維や生地を主役に据えたアート表現も試みられています。複合メディアを得意とするファイバーアート職人のKang Yazhu氏とデザイナーのTang Zongqian氏がタッグを組みました。「すべては素材であり、素材がすべてを支配する」というインスピレーションから新たなファッションアートが生まれました。
・「Natural Dyeing」
リボンや廃棄繊維、古セーターなどのリサイクル素材と職人の創意工夫を凝らした素材をブレンドし、作品に新たな命を吹き込んできたのは、繊維染色工芸に長く携わってきた職人の林潔氏です。林氏が植物を染料にして染める「天然染色」 を誕生させました。一方、UUIN氏は草木染め、モダンなチェック柄、機能的な生地を組み合わせるのがお得意。植物学者のイメージを服のデザインに変換しています。シルクやコットンなどの天然素材に植物をプリントし、布の質感にストーリー性をまとわせています。
エレガンス系・ベテラン組はニットやサステナブルを打ち出し
ニットが得意な「GIOIA PAN(ジョイア パン)」は潘怡良(パン・イーリャン)氏が2001年に設立したブランドです。日本の文化服装学院ニットデザイン科を卒業し、台湾の輔仁大学でもアパレルデザイン系の修士号を得ています。台湾では「編み物の女王」と呼ばれるニットの創り手。質感とデザイン性の両方をニットで表現しています。編み物ならではの垂れ感や伸縮性を生かして、ボディラインを映すきれいな曲線を描き出す表現が巧み。東コレにはオンラインで参加しています。
24年春夏コレクションでは生成AIを使ったアートを取り入れました。「Bloom 開花」をテーマにアート感の高いニットウエアを発表。AIテクノロジーを追い風に、台湾ファッションがAI時代の新たなステージに至ったことを示しました。
台湾文化をモダンに表現する「WEI.TZU-YUAN(ウェイ ツィイェン)」は魏子淵氏が自らの名前を冠して2018年にスタートしました。今回の24年春夏では、「静物庭園 Still Life Garden」の物語をコレクションに写し込みました。サステナビリティや台湾文化、ジェンダー問題に目配り。取り外しできるボタンジッパーがウィットフルです。
将来のファッションスターを目指す、Youg Talent Show
次世代を担う才能を集めたのは「ヤング・タレント・ショー」です。全く異なるアプローチのデザイナーが台北ファッションウィークの多様性を一段と押し上げました。
楊子瑩氏のブランド「YzY」はシンプルさときちんと感を併せ持つスタイルです。スポーティな機能も組み合わせています。24年春夏では「未来」をテーマに選んで、伸縮性や撥水性を備えた機能素材を採用。常に溶け込む多機能ウエアを提案しています。
郊外の山林で育った陳慧伃氏が手がけるブランド「CHY」は自然環境からインスピレーションを得て、作品を通して自然環境への理解を表現しています。かぎ針編みの技術とニットジャカード生地を組み合わせているのがシグネチャー的な技法です。
陳聖元氏の「JUZHI」ブランドは植物染料や漢方薬を用いて、中国絵画や墨跡のような色や質感を表現しています。シルエットは柔らかさと粘り強さを兼ね備えた、しなやかなたたずまい。時代の風に逆らうイメージを表現しているそうです。24年春夏では伝統的な衣装をモダナイズしたような、ゆったりした量感でオリエンタル感の強いウエアを披露しました。
新世代ブランドショー、デザインアワードを開催
期待の新人が集められた新世代ブランドショー「New Breed」はニューエイジの勢いを示しました。台北ファッションウィークの中で人材育成の意味が大きいシリーズです。郭恒生氏の「HANSEN(ハンセン)」は儒教、仏教、道教から着想を得て、宗教的なグラフィック要素やシンボル、アースカラーを打ち出しました。「WENG_Studio」ブランドはオーガニックナチュラルの取り組みを進め、リサイクル可能な生地を使用。花の蘭(ラン)をテーマに選んで、蘭の文化的意味を再解釈しています。3人のデザイナーが手がける「PCES」は環境保護とサステナビリティを重視し、テクノロジーと自然の折り合いを探っています。24年春夏は宗教、軍事、権威の相互関係を通して歴史と文化の融合を掘り下げました。
「台湾ファッションデザイン賞(Taiwan Fashion Design Award、TFDA)」は台湾出身のフー・ジュン・チェン氏(「江東ハーベスト(Koto Harvest)」)が最優秀賞に選ばれました。古代の織物技術と現代の美学を融合させています。衣服の再解釈が巧みで、素材選びも革新的でした。この賞は国際的なファッション業界が審査委員会を構成。日本からは「ONE O(ワンオー)」の松井友則・代表取締役、デザイナーの藤原大氏が選考に参加しました。
あたたかい人柄が印象的 多様性を認め合う気風
王時恵(Sue Wang)・台湾文化文化部政務次長(Deputy Minister of Culture)はインタビュー時に、「台湾の若手デザイナーは柔軟性があり、受容性が高い。また、地域全体にテキスタイルに強みを持っている。台湾の多面性を生かして、自由と多様性を打ち出していきたい。海外とのコミュニケーションもとっていきたい。東京コレクションでの互いのデザイナー交流などに取り組みたいと日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)の太田伸之理事とも話した。実力のある若手デザイナーと組んで、世界に発信していきたい」と意欲的に語ってくれました。
コメントにもあるように、今後、東京でも台湾ブランドのショーを見る機会が増えてくることを期待させます。「台北ファッションウィーク2024春夏」であらためて感じたのは、台湾ファッションの多文化性です。伝統的な芸術や工芸との融合を試みているのも、興味深いところです。
■ 取材を終えて
滞在中に強く感じたのは、とにかく親日でハートがあたたかいことです。ホテルやレストランなどはもちろん、タクシーも屋台などの人たちもこちらが日本人だと分かると、日本語を話したがり、日本人にとても優しい。滞在中は心があたたまりっぱなしでした。
ファッションの面でも日本への関心が高いようです。たとえば、感度の高いセレクトショップを巡ると、あちこちに日本ブランドの取り扱いがありました。日本人として誇らしくうれしく思いました。滞在したホテルの「リージェント台北(晶華酒店)」のショップフロアで欧米ラグジュアリーブランドがずらりと並ぶ中に入っていたのは「イッセイミヤケ」のブティック。日本ブランドへの評価は極めて高いようです。食べ物、マッサージ、雑貨など、台湾のいいところはいっぱいありますが、ファッションもぐっと身近に感じることができました。今回、ご紹介したブランドをきっかけに、台北から吹き込むおしゃれの新風を感じてみませんか。
「2023 台北ファッションウィークSS24」開催概要
会期:2023年10月11日(水)~10月17日(火)
公式会場:松山文創園区(Songshan Cultural and Creative Park)
主催:行政院文化部
プロデュース:台湾コンデ・ナストグループ CNX Taiwan
公式サイト:https://tpefw.com/
Facebook:@tpefashionweek
Instagram:@tpe.fashionweek
YouTube:https://www.youtube.com/@taipeifashionweek4596
台北ファッションウィーク・セレクトショップ
開催期間 :2023年10月11日(水)~10月29日(日)
開催場所 :台北 SOGOデパート復興館5階
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