高校野球の雑談⑤坊主頭はもう、高校球児の象徴じゃない
高校球児とくると、連想する頭髪は丸刈りだ。夏場は涼しいし、練習後に頭から水をかぶってもすぐ乾く。本人にとっては、いたって実用的なのだ。スポーツ刈りでは生ぬるく、5分や3分刈り、いやいや気合いを入れるには試合前日に5厘や3厘刈りにして臨む。スキンヘッドだって辞さない。
もっともこれには、軍隊みたいで気持ち悪いと感じる人もいるようだし、中学まで野球を続けていながら、高校では「坊主がイヤだから」ほかのスポーツに転向するのもめずらしくない。
だが近年は、高校生にしてはちょっと短いかな、という程度のヘアースタイルのチームもよく見かけるようになった。慶応(神奈川)あたりが代表格で、古い時代には甲子園で対戦した相手がその頭髪を見て、
「オマエらみたいに遊びで野球をやっているヤツらに、負けるわけにはいかねえんだ」
とすごむのに対し、
「バ〜カ、野球は遊びに決まってんじゃねえか」
と返した、という痛快な話をOBから聞いたことがある。上田誠・元慶応監督も、髪の毛についてはこんなふうにいっていた。
「自分の高校生のころを考えれば、オシャレもしたいし女の子とも遊びたい。指導者になったとたん、それに眉をひそめるのは傲慢でしょう」
いじれるのが眉毛くらいしかなくて……
確かに。ある時期、高校球児が眉をきれいにそろえるのが目立ったが、本人に聞くと、
「着るものはいつも学生服かユニフォームかジャージ。頭は坊主。手を入れるとしたら眉毛くらいしかないんです……」
と苦笑いしていたものだ。
柳川(福岡)も、1990年代から長めの頭髪にしていたチームのひとつ。同校では、授業の一環で海外研修に出かけるようになったが、そのときに制服に丸刈りではいかにも見栄えが悪い……と、当時の末次秀樹監督、修学旅行に限らず日常から生徒の裁量に髪型をまかせたのだ。すると、
「坊主頭はよく目立つから、目立たないように日常的に引っ込み思案になる。だけど髪を伸ばしてからは、不思議に積極的になりましたね」
ほかに仙台育英(宮城)など、髪が長めの有力チームも増えてきた。
で、日本高野連が加盟3818校を対象にしたアンケート結果だ。それによると、部員の髪型を「丸刈り」としているのは1000校で、これは5年前の同様の調査から200校以上減ったという。スポーツ刈りや長髪を認める学校が、4分の3あったということだ。
初めて調査した93年は、「丸刈り」の回答が50パーセント以上だったから、今回はほぼ半減している計算。脱「丸刈り」が進んだのは、世の中が人権擁護などに敏感になったためか。野球人口の急減も叫ばれているいま、「坊主頭は高校球児の象徴」ではないのかもしれない。