村サッカー、特殊部隊式旅行、大規模AIモデル 2023年の中国十大流行語から見える世相は?
今年も流行語大賞の時期がやってきた。中国でも、例年通り、言語文学雑誌の編集部が今年の十大流行語を発表。「村サッカーリーグ」「特殊部隊式旅行」などの言葉が選ばれた。そこから見えてくる今年の中国の世相とは――。
習氏の言葉も選出された
今年(2023年)の十大流行語は以下の通りだ。
新質生産力(新たな質の生産力)
習近平総書記が今年9月に黒竜江省を視察したときに使った言葉。科学技術やイノベーション主導によって形成される新しい生産力という意味。
双向奔赴(お互いに歩み寄る)
人と人だけでなく、国と国が歩み寄るという意味。
人工智能大模型(大規模AIモデル、LLM)
今年、中国企業も対話型AIを発表。検索大手の百度(バイドゥ)が手掛ける「文心一言」、アリババの「通義千問」などが話題となった。
注目を集めた貴州省の村サッカー
村超(村サッカー・スーパーリーグ)
今年5月~7月、貴州省のミャオ族やトン族が住む自治州の村で行われたサッカー・スーパー(超級)リーグのこと。正式名称は「貴州省榕江和美郷村サッカー・スーパーリーグ」。村BAなどとも呼ばれる。
村が独自に企画したアマチュアのサッカー大会で、1試合の観客は6万人以上、ネットでの視聴回数はのべ480億回を超え、大ブームとなった。斗音(ドウイン)などSNSでバズり、地方の活性化、村おこしの点でも注目された。
特種兵式旅游(特殊部隊式旅行)
短時間でお金をかけず、できるだけ数多くの観光スポットを駆け足で回る節約旅行のこと。ゼロコロナが終了し、国内旅行が自由にできるようになったが、中国人の旅の形態は変わった。短時間で、中身を詰め込んで行う会議のことを特殊部隊式会議と呼ぶなど、関連して別の言葉も誕生。
若者を中心に使われる新語
顕眼包(いい意味で目立つ存在)
ユニークで、楽しい気分にさせてくれる存在。目立つものという意味。人だけでなく、博物館の展示品、文化財などモノに対しても使う。
搭子(~~友、共通の趣味などがある友だち)
同じことを一緒に行う友だちのこと。「めし友」「部活友」「ジム友」「散歩友」などのように使う。主に若者の間で流行った。
多巴安(月へんの安)(ドーパミン~~)
今年はカラフルな色合いで幸福感を感じるファッションのコーディネート「ドーパミン・ドレッシング」という言葉が流行したが、そこから派生し、楽しい気分、幸福になるという意味の「ドーパミン消費」「ドーパミン飲食」「ドーパミンメイク」などの言葉が流行した。
情緒価値(感情的価値)
誰かを楽しませたり、喜ばせたりする能力が高いことをいう。以前、「顔値(インスタ映えすること)が高い、低い」などという表現が流行ったように「あの人は情緒価値が高い、低い」などのように使う。
質疑~~、理解~~、成為~~(~~に疑問を抱き、~~を理解し、~~になる)
10年前に放送された恋愛ドラマの中のヒロインの一人の行動について、当初、視聴者は理解できなかったが、次第に理解できるようになった。そのときの言い回しを使い、SNSで、当初理解できなかったものが、のちに理解できるようになったことをいうときに使うようになった。
流行語は世相を表すというが
人民網の記事によると、流行語を選出した雑誌の編集長は「大規模AIモデルはChatGPTを代表とするAIが新しい時代に突入していること、村サッカーリーグは国民の健康づくり、農村振興が進んでいること、特殊部隊式旅行は、観光が回復していることなどと関連しており、今の時代を反映している」と話す。
中国国家言語資源監視・研究センターが選出し、新華社が報じた今年の十大流行語には、「核汚染水」「デジタル中国」「杭州アジア大会」などの言葉が選ばれたが、それらは人々が実際に使って流行った言葉とは意味合いが異なるようだ。
今年は目立った流行語はなし?
中国の流行語といえば、2020年に「打工人」(労働者、自分は雇われの身であるという自虐的な意味)、「内巻」(不条理な内部競争)という言葉が流行り、今ではすっかり社会に定着し、広く使われている。
共同富裕政策が話題となった2021年は「双減」(宿題時間と学習塾の2つの負担を減らすという政策)、「躺平」(寝そべり族、タンピン主義)、2022年には「大白」(白い防護服を着た係員、医療従事者)などが流行したことも記憶に新しい。
しかし、それらと比べると、今年の流行語は地味な印象で、日本でも話題になったり、有名になったりしたものはほぼなかった。
コロナ禍が終わり、経済悪化が叫ばれる中、今年、多くの中国人が使うほど流行した言葉はあまりなかったといえるが、その中で、ひとつ習近平氏が使った言葉がランクインしているというのが、今の中国を表しているといえるだろう。