テレビ局のアニメ“熱”を決算から見る 「フリーレン」「薬屋」はプッシュ 「鬼滅」はスルー
テレビ局は、近年アニメ事業に力を入れる流れにあります。昔からアニメを重視しているテレ東は別にして、日テレ、テレビ朝日、TBS、フジの4社が、2024年3月期の通期連結決算でアニメについてどう言及しているでしょうか。決算での扱いを比較してアニメへの“熱”を考えてみます。
決算は、経営に対する考えがダイレクトに出てきます。上場会社は四半期(3カ月)ごとに結果を発表しており、通期決算は1年間の企業の“通信簿”になります。売上高や利益などが書かれている「決算短信」と、グラフなどを用いて視覚的に分かりやすくした「補足資料」を組み合わせ、投資家に対して何を説明するかです。アニメに対する熱があれば、当然目立つ書かれ方をされるのです。
◇日テレ「フリーレン」「薬屋」をプッシュ
決算を見る限り、最もアニメに前向きに思えたのが、日本テレビホールディングス(売上高4235億円、営業利益418億円)です。決算短信でこそ、スタジオジブリの子会社化(買収金額155億円、第3四半期で開示済み)について説明するものの、他のアニメビジネスには、業績に与える影響度が小さいためでしょう。そのものにはさほど触れていません。
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ただし説明資料になると、一気にトーンが変わります。アニメに割くスペースが前年度よりも格段に増えていて、スタジオジブリ関連で2ページ、アニメビジネス展開で1ページ。「葬送のフリーレン」と「薬屋のひとりごと」はビジュアルまでつけています。アニメファンからすると、ニヤリとしてしまうかもしれません。
◇テレ朝 夏配信予定のスマホゲームをアピール
続いて、テレビ朝日ホールディングス(売上高3078億円、営業利益123億円)も、アニメの言及が目立ちました。決算短信には、出資した映画事業で、「クレヨンしんちゃん」と「ドラえもん」「窓ぎわのトットちゃん」の各アニメ映画について触れています。
そして決算説明会資料では、「IP戦略」のページで、スマホゲーム「メテオアリーナ」(2024年夏予定)を取り上げています。人気ゲームクリエーターの岡本吉起さんが総合プロデューサーを担当しており、可能性だけでいえばアニメを含めた次の手がありそうな雰囲気。またスタートしてから数年たった深夜アニメ枠「NUMAnimation」にもスペースを取っているのも、アニメ好きからすると好感が持てるでしょう。他にも傘下におさめたフィギュア製造の「壽屋」の名前も出てきます。
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◇TBS「アニメ事業強化」とあるものの…
TBSホールディングス(売上高3943億円、営業利益151億円)は、アニメへの言及は控えめです。決算短信では、アニメ映画「五等分の花嫁」の言及があるのですが、「~の反動により減収となりました」とあるだけ。説明資料でも、アニメはほぼ触れられておらず、「五等分の花嫁」と「プラチナエンド」が前年度の人気を受けての減収減益……ということでした。アニメファンからすると、モヤモヤがあるかもしれません。
「アニメ事業強化」という文言に加え、中期経営計画でも「創出するコンテンツIPに磨きをかけ~」とあるものの、踏み込んだ記述は見当たらず。資料を読む限りでは、バラエティーやドラマの次……というような優先順位が、何となく感じられました。また、配信サービス「TVer」が好調で、U-NEXTにも第三者割当増資をしているので、そちらに力点が置かれていました。
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◇フジ「鬼滅」の文字なく
フジ・メディア・ホールディングス(売上高5664億円、営業利益335億円)は、決算短信、説明資料ともに、アニメへの言及が最も消極的な印象でした。何せビッグタイトルである、アニメ「鬼滅の刃」の文字が見当たらないのです。同作の知名度を考えると、投資家に最もアピールできるタイトルなのに惜しい限り。せめて文字ぐらいは出した方が良いし、個人視聴率の好調ぶりをアピールしても悪くないはずなのですが……。
フジHDの場合、都市開発・観光事業(売上高1000億円以上)を抱えていて、そちらの業績への影響が大きいのはあります。傘下に、増収増益のポニーキャニオンを抱えていますが、やはり軽く触れるだけ。ポニーキャニオンは、アニメファンをざわつかせている話題があり、そこに触れられたくないのかもしれませんが……。いずれにしても、アニメに本気であるなら、アニメ事業への意気込みを感じるような言葉が欲しいところです。
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◇アニメに対する“温度差”あり
各局からすると、アニメ事業の規模はまだまだでしょう。ですが、未来への期待があるならなおさら決算で目立たせてほしいと思います。実際、日テレとテレ朝は相応のページを使っているのですから。いずれにしても、各局の決算資料からは、アニメに対する“温度差”があり、二極化しているように思います。