高級ホテルに田んぼがある? 星野リゾートが手掛けるリゾナーレ那須の食がすごいワケ
リゾナーレ那須
ローカルツーリズムとは、地域に根ざした文化や日常を体験する観光です。観光客に対して、それぞれの土地にあるオリジナリティ溢れる文化や日常を、より魅力的に提供することが重要。
これまでも地域の特性を生かした興味深いコンセプトが創出されてきましたが、中でもユニークなのが、星野リゾート リゾナーレ那須です。2019年11月1日、栃木県・那須町にオープンしたリゾナーレ那須は、リゾナーレブランドとしては4つ目の施設で、日本初のアグリツーリズモリゾートを標榜しています。
アグリツーリズモリゾート
アグリツーリズモリゾートとは、地域の生産活動に触れる体験を軸にして「地域の魅力xリゾート滞在」を伝える観光です。
リゾナーレ那須は栃木県北部・那須岳の山裾、標高約500mに位置し、その敷地は約42,000坪と広大。明治時代に開拓が始まり、農業や酪農を中心に発展を続けてきた那須高原の魅力をふんだんに引き出しています。
有する施設は、ゲストルームのある宿泊棟、農園「アグリガーデン」、アクティビティ施設「POKO POKO(ポコポコ)」、メインダイニング「OTTO SETTE NASU(オットセッテナス)」、ビュッフェレストラン「SHAKI SHAKI(シャキシャキ)」。
農業にこだわっているだけあって、食に関して目を見張るものがあります。
OTTO SETTE NASU(オットセッテナス)
是非とも体験したいのは、イタリア料理の「OTTO SETTE NASU(オットセッテナス)」です。
イタリア料理は、各地域ならではの素材と調理法を用いる地方料理の集合体。「OTTO SETTE NASU」では、「アグリガーデン」で育てられた食材などを用いて、素材本来の味わいを引き出した料理を提供しています。
シェフを務めるのは、1986年北海道生まれの北浦琢視氏。都内の料亭や有名ホテルのレストランなどで勤務後、2017年にOMO7旭川へ。当時リゾナーレ八ヶ岳の総料理長であった政井茂氏(現 星のや沖縄 総料理長)の薫陶を受けます。開業と同時にリゾナーレ那須に移り、2021年4月には「OTTO SETTE NASU」総料理長に就任しました。
夏のコースを提供中
「OTTO SETTE NASU」で賞玩できるのは、北浦氏がこだわった季節のディナーコース(大人 15,730円、7〜11歳 9,100円、4〜6歳 6,500円)。2023年6月21日から9月15日にかけては、夏のコースが提供されています。
旬の食材である花ズッキーニや稚鮎、胡瓜などを使用。旬の食材とトスカーナの郷土料理を掛け合わせた、全8品のクリエイティブなメニューが体験できます。
では、メニューを詳しく紹介していきましょう。
スプンティーノ
最初からテーブルにあしらわれていた“装飾品”が、アミューズだったというサプライズ。カリカリのクロッカンテは、チーズ、トマト、バジル、イカスミの4種類。軽快な食感で、フランチャコルタの酸味とよく合う塩味です。
彩り豊かな小さな前菜
2段構成になった美しい前菜の盛り合わせです。
上段には黄色とオレンジ色のパプリカのトーストに、鱈とジャガイモのマンテカート、レバーのパテ。どちらともそのまま食べても、トーストにのせて食べてもおいしいです。
下段には6種類あり、茄子のカポナータ、オレンジとペルノーの泡、トマトのパン粥、カリフラワーとリコッタチーズにカラスミ、豚の舌のゼラチン寄せ、空豆のクロケット。様々な食味と食感が取り合わされています。
徐々に味覚が覚醒されていき、フランチャコルタにも白ワインにもマリアージュします。
農園のピンツィモーニオ
大地の恵みを表現したピンツィモーニオ=スティックベジタブル。25種類の野菜をバーニャフレッダソース、オリーブオイル、塩のコンディメントでいただきます。目の前でスライスしてもらえる生ハムや、栃木県の特産魚であり、食味に優れたヤシオマスのコンフィがちょうどいいアクセントに。「アグリガーデン」で栽培された野菜が中心で、マイクロキュウリ、黒ピーマン、UFOズッキーニなど珍しい野菜も体験できます。
稚鮎と胡瓜のフェデリーニ
フェデリーニは断面の太さが1.5mmから1.7mmほどの細いパスタ。旬の鮎はスイカの香りがするということで、同じくウリ科のキュウリとジェノベーゼのソースを合わせています。鮎の塩辛「うるか」を使用したソースも添えられており、こちらはしっかりとした味わい。フェデリーニの上にはカダイフ、その上には稚鮎のフリットが重ねられ、サクサク感も楽しめます。
兎ラグーのパッパルデッレ
トスカーナ州の名物料理である兎のラグーと、幅広のパスタであるパッパルデッレのコンビネーション。目の前でマダガスカル産の柑橘胡椒とペコリーノ・ロマーノがかられます。パッパルデッレには濃厚なラグーがしっかりとからまるので、赤ワインとの相性が抜群です。
岩魚のブロデッタード
蒸し焼きにしてふっくらさせた岩魚の身に、焼き目をつけた卵黄のザバイオーネソース。岩魚の皮目はカリカリのチップにしているので、途中で挟むとメリハリがつきます。付け合わせは、アスパラガス、ポーチドエッグ、フリットしたセージ、バルサミコ酢ソースと、豊かな食味。
牛肉のアロースト
メインディッシュは、炭火で香ばしくローストした牛肉。ミディアムレアの火入れで、ロゼ色が美しく映えます。ジューシーな佳味に溢れていて、食べ応え満点です。付け合せはジャガイモのフリットに、スモークしたスカモルッツァチーズを蕾に包んだ花ズッキーニ。
スイカの小さなデザート
口直しのデザートは、さっぱりとしたスイカの果肉を生かした一品、イタリアのアニス風味のリキュール「サンブーカ」のジュレが爽やかです。散りばめられたマリーゴールドがチャームポイント。
メロンのババ
甘いメロンを大人向けのババに仕上げました。底から順番に、ブリオッシュ生地、ホワイトチョコレートのディスク、メロンの果肉、クレームシャンティ。上品ながらもみずみずしく、最後まで食が進むデザートです。
焼菓子
最後のお茶菓子は、カントゥッチ、ジャンドゥーヤ、バーチ・ディ・ダーマ。濃厚なエスプレッソにぴったりです。
イタリアワインのペアリング
ワインペアリング(8,000円)も充実しており、料理一品一品に提供されるのが、嬉しいです。数グラスを紹介しましょう。
「アジエンダ・アグリコーラ・フェルゲッティーナ フランチャコルタ ブリュット」はきめ細やかな泡立ちのフランチャコルタ。グレープフルーツのようなフルーティなアロマがあるので、夏にぴったりの一杯です。「アッカディーア マルケ・ロザート」はイタリア・マルケ州のロゼワイン。ドライな口当たりながらも、桃のほのかな甘味が感じられます。「農園のピンツィモーニオ」の野菜にはもちろん、生ハムやヤシオマスにも合うでしょう。
「ファネッティ ビアンコ ベッティ」は熟成香のあるイタリア・トスカーナ州の白ワイン。鮎のフリットやカダイフにも負けず、胡瓜の繊細な香りを際立たせてくれました。「ラ・フォルトゥーナ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2011」はトスカーナ州の赤ワイン。落ち着いたタンニンで、果実味も旨味もたっぷりです。牛肉のアローストにしっかり調和し、肉の旨味が何倍にも増幅されるように感じられます。
「ポイエル・エ・サンドリ エッセンツィア」はデザートに合う甘口ワイン。鮮烈で複雑な香りで、柑橘のニュアンスもあるので、甘口ながらも全くしつこくありません。
テーブルウェア
用いられているテーブルウェアにも、こだわりが見られました。
プレートは地元である那須に縁のある陶芸作家、小野澤弘一氏による作品が中心。フランス・リモージュの名窯ベルナルドやシルヴィ・コケも用いられており、質感の変化に抑揚がつけられています。
メインディッシュのナイフは、フランスの名刀であるラギヨール・アン・オブラック。ハンドルがしなやかで、切れ味が鋭いです。
SHAKI SHAKI(シャキシャキ)
「SHAKI SHAKI」は気軽にブッフェを楽しめるレストラン。朝食とディナーに営業していて、野菜をたくさん味わえます。
目玉のあるディナーブッフェ
ディナー(大人 6,200円、7〜11歳 4,340円、4〜6歳 3,100円、3歳以下 無料)には、イタリア料理を中心に約60種類のメニューがラインナップ。サラダから冷菜や温菜、デザートまでが幅広く取り揃えられています。
店名通り“シャキシャキ”としたロメインレタスが印象的な「シーザーサラダ」、キャベツをはじめとしてたくさんの野菜が使われた「豚肉とキャベツの煮込み」は必ず食べておきたいところ。
「生ハム」は、しっとりとして塩気もあるので、お酒にぴったりです。甲州主体で酸味と果実味のバランスがいい栃木県のワイン「オープニングアクト 甲州オールドファッションド」(グラス 1,200円、カラフ 3,300円、ボトル 6,300円)は、生ハムをはじめとして、ほとんどの料理に合います。
目玉は「ロースト野菜とチーズソース」と、日替わりメインディッシュの「ローストビーフ」もしくは「ポルケッタ」。どちらともスタッフがサーブしてくれるので最高の状態です。
「ロースト野菜とチーズソース」は4種のチーズを用いたチーズフォンデュ。野菜の滋味をチーズの複雑味が引き出してくれます。「ローストビーフ」は旨味を讃えた旨味で、しっとりとしてジューシー。ホースラディッシュの辛味がよい刺激です。メインディッシュはお代わりできるのが嬉しいです。
朝食には和食も用意
朝食(大人 2,800円、7〜11歳 1,960円、4~6歳 1,400円、3歳以下 無料)は種類豊富なパン、野菜たっぷりのサラダが好評で、洋食だけではなく和食も用意。朝から味噌汁やご飯が食べられるので、気持ちがホッと和みます。
美しく重ねられたスライスサラダや、テクスチャも楽しめる野菜は必食アイテム。すりおろしオニオン、すりおろし人参、クリーミー胡麻と、3種類のドレッシングが揃えられているので、好きなものをチョイスしてください。
パンは11種類もあって非常に充実。色々と味わえるように、小振りにつくられています。バラエティ豊かでどれを食べようか迷うところですが、人気となっているのはリッチな味わいのヴィエノワズリーです。
那須にある森林ノ牧場の「森林ノ牛乳」も飲み逃せません。森林の中で放牧されたジャージー牛のミルクで、非常に濃厚で風味が豊か。これまで体験したことのない味わいです。
アクティビティ
アクティビティもアグリツーリズモにぴったりな農業や食に関するものが非常に充実しています。たくさんのアクティビティが用意されており、季節によって内容は変わるので、代表的なものを紹介しましょう。
Farmer’s Academy ~夏休みの自由研究~
「Farmer’s Academy ~夏休みの自由研究~」(2023年7月24日~8月31日、6~10歳、10,000円)は、農家の仕事を体験できるアグリツーリズモならではのアクティビティ。スタッフが丁寧に教えてくれ、農作業着も貸してくれるので、安心です。
事前学習、農業体験、振り返りと、全部で3つのパートに分かれています。
事前学習では育てられている野菜を観察し、どのように育てられているのか、どのような状態になれば収穫できるのかを学習。
農業体験では、実際に野菜を収穫することに加えて、洗浄、選別、さらには販売するための梱包や値付けまで行い、施設内のショップに納品します。
最後は一連の作業を振り返り、収穫した野菜を復習。何を学んでどう感じたのかをワークシートにまとめます。
記入が終わったワークシートは、立派な自由研究ファイルになるので、そのまま学校に提出すればよいです。
「POKO POKO(ポコポコ)」のアクティビティ
アクティビティ施設「POKO POKO」でも様々なイベントが開催されています。
「リゾナーレキッズスタジオ」(4~10歳、1,500円)は、パティシエを体験できるアクティビティ。子ども用コックコートを着用して、スポンジ生地、ヨーグルトクリーム、チョコレート、クッキークランチなどの材料を用いてオリジナルスイーツをつくります。どのようにデコレーションするかは自由で、世界でたったひとつだけのオリジナルスイーツが完成。施設内で食べても、ゲストルームに持ち帰って食べてもOKです。
年齢に関係なく体験できるのが「石窯ピッツァづくり」(1枚 2,000円)。生地の成形から始まり、トマトソースを広げ、ズッキーニやサルシッチャ、モッツァレラチーズを配します。その後は、スタッフが石窯でちょうどいい加減に焼き上げてくれるという流れ。テイクアウトできるので、好みの場所で食べるとよいでしょう。
「焚火でおやつづくり」(無料)は、毎朝行われるアクティビティ「木こりの火おこし」の焚火で、火で炙ったマシュマロを自分で焼いて食べるというイベント。
「POKO POKO」のメニューでは、星野リゾートのオリジナルジャム「ミルクジャム」を主役にした「ミルクジャムフラッペ」(990円)も人気です。ケーキやピッツァ、焼きマシュマロと一緒にオーダーして味わってみるとよいでしょう。
屋外でもイベントを開催
気持ちのいい時季には屋外で味わえる「モーニングボックスでピクニック朝食」もオススメ。ゲストルームのテラスではもちろんのこと、田んぼの畦、森の中、小川の側などで、自然を感じながら朝食を味わえます。
夕暮れ時に体験したいのが「田んぼビアガーデン」(2023年7月15日~8月31日)です。約8,500平方メートルもの田んぼの真ん中に特等席が設けられ、3種類のクラフトビール(900円)やシソジュース(無料)、ビールにぴったりな「おせんべい」(300円)を堪能できます。クラフトビールは那須を代表する醸造所から、那須高原ビール「愛」、NASU DE SUNA「ペールエール」、“甘く浮く”の「ナスノシトロン」がラインナップ。飲み比べてみると、より楽しさが広がります。
夜は「大人のひととき」(2023年7月21日~9月2日、無料)が一興。荘厳で落ち着きのあるラウンジで、ナッツやクッキーと共に、シーバスリーガルなどのウイスキーや梅酒を嗜めます。
ゲストルームと温泉
レストランもアクティビティも魅力的ですが、10タイプあるゲストルームも素晴らしいです。
62平方メートルで4人までの「本館デラックスメゾネット」は、1階にリビングスペースとテラス、2階にベッドルームが設えてられており、広々としています。「別館スーペリアトリプル」は38平方メートルで3人まで利用可能。リビング側に水庭、ベッドルーム側に森を望め、屋外のベンチから四季の水庭を眺めることができます。55~69平方メートルで4人まで利用できるのが「別館ガーデンフォース」です。リビングルームとベッドルームを備え、リビングの大きな窓が印象的。
火山性の温泉を備えているのも特長です。森を眺められる外湯と石造りで気持ちが落ち着く内湯があるので、どちらにも浸かってみてください。
アグリツーリズモリゾートは最適なコンセプト
日本の食は世界的にも評価されており、世界ではローカルガストロノミーが注目されています。そのローカルガストロノミーの基本は、その土地の食材をリスペクトし、用いること。
かつてやせ細った不毛な地域であった那須野ヶ原の一帯が、ここ100年足らずで酪農や農業、米産で県内随一の生産地に生まれ変わったのは注目に値することです。
農業をリスペクトしたアグリツーリズモリゾートは、那須に最適なコンセプトであり、リゾナーレ那須で体験する食はとても貴重で忘れられない思い出になることは間違いありません。
※価格は全てサービス料込み