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乾癬と心血管疾患の意外な関係 - 最新研究で判明した生物学的製剤の効果とは?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【生物学的製剤が乾癬に効果的である理由】

乾癬は単なる皮膚の病気ではなく、全身性の炎症性疾患です。免疫系の異常により、皮膚細胞の増殖が促進されて発症すると考えられています。生物学的製剤は、乾癬の発症に関わる特定のサイトカインを標的とすることで、炎症を抑制し、皮膚症状を改善します。

今回の研究で使用された生物学的製剤は、IL-12/23阻害薬のウステキヌマブ、IL-17阻害薬のイキセキズマブとセクキヌマブが主なものでした。これらの薬剤は、乾癬の炎症過程に深く関与するサイトカインを阻害することで、皮疹を劇的に改善させる効果があります。

【乾癬と心血管疾患の関連性】

乾癬は心血管疾患のリスクを高めることが知られています。乾癬患者では、心筋梗塞や脳卒中のリスクが健常人と比べて高くなっています。この原因として、乾癬に伴う全身性の炎症が、動脈硬化を促進することが挙げられます。

また、乾癬患者では肥満や高血圧、脂質異常症といった心血管疾患のリスク因子を合併しやすいことも分かっています。こうした合併症は、乾癬の重症度と相関することが報告されています。

【生物学的製剤が心血管リスクに与える影響】

今回の研究では、生物学的製剤による1年間の治療で、乾癬の皮膚症状は著明に改善しましたが、心血管リスク因子である血圧、心拍数、BMIに有意な変化は見られませんでした。ただし、サブグループ解析では、男性患者と、過去に生物学的製剤の使用歴がある患者で、収縮期血圧と拡張期血圧がわずかに改善していました。

乾癬患者の心血管リスクを包括的に管理するには、生物学的製剤による炎症のコントロールに加えて、肥満や高血圧など、他の心血管リスク因子に対する介入が必要だと考えられます。体重管理や生活習慣の改善を併せて行うことで、より効果的に心血管リスクを低減できる可能性があります。

今回の研究は後ろ向きの観察研究であり、サンプルサイズも小さいことから、生物学的製剤の心血管リスクへの影響を結論付けるには限界があります。今後、より大規模な前向き研究により、乾癬における生物学的製剤の心血管リスクへの影響が明らかになることが期待されます。

乾癬は、皮膚だけでなく全身に影響を及ぼす疾患です。皮膚症状のコントロールと並行して、心血管リスクを評価し、適切な管理を行うことが重要です。生物学的製剤は乾癬の治療に有効ですが、心血管リスクへの影響については十分なエビデンスがありません。乾癬患者の健康を守るためには、私たち皮膚科医と循環器内科専門医が連携して、総合的なアプローチを取ることが求められます。

参考文献:

Joseph J et al. Impact of Biologic Therapy on Key Cardiovascular Risk Parameters in a Psoriatic Cohort - a Retrospective Review. Dermatol Ther (Heidelb). 2024;published online May 9. doi:10.1007/s13555-024-01154-8

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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