大切なのは「結婚する」も「結婚しない」も、自由に選択できること。
今回はトルコに生まれフランスで映画を学んだ女性監督デニズ・ガルゼ・エルギュヴェンによる大評判の映画『裸足の季節』をご紹介します。この作品、主人公はトルコの田舎町に住む十代の美しい5人姉妹で、第一印象は「トルコ版『ヴァージン・スーサイズ』」という感じ。いつも5人一緒で、その年齢の女の子にありがちな甘い空気を振りまき、フワフワ、キラキラして本当に美しいのですが、ぽわわ~んと見ているうちに、あら?あら?あらあらあら!と大変な事態になっていく作品です!ということで、いってみましょう。
物語の始まりは学校の放課後、大好きな学校の先生がイスタンブールにいっちゃう、みたいなことで、末っ子のラーレが泣いています。でも上の4人はそんなのお構いなし。パーンと走り出した5人が向かったのは海、制服のまま飛び込んで、何人かの男の子たちも含めて騎馬戦が始まります。黒くて長い髪と浅黒い肌、エキゾチックな顔立ちで、びしょぬれになるのも構わずきゃっきゃと跳ねまわる姿はワイルドさとセクシーさに満ちていて、「中東の女の子ってなんてキレイなのかしら」とウットリ。映画の原題「マスタング(野生馬)」という言葉がまさにピッタリの5人です。
ところが!これが大騒動の発端になります。家で彼女たちを待っていたのは祖母からの折檻。彼女たちを見ていた近所の年配女性が、「男の首で淫らなことをしている(←騎馬戦の肩車のこと!)」と告げ口したのです。ええええ!
彼女たちは両親がいないのですが、育ての親である叔父さんが帰ってくると、騒動はさらに加速。彼女たちは罵倒されビンタされ、病院で「処女検査」を受けさせられ、挙句学校に行くことも禁じられ自宅軟禁状態。もちろん彼女たちも黙ってはおらず、なんとか抜け出してサッカーの試合を見に行くなど小さな勝利をおさめるものの、その度に家の塀は高くなり、窓の外に鉄格子がつけられ、完全な牢獄と化してゆくんですね~。
映画はここからイスラム圏の知られざる結婚事情が明らかにしてゆきます。
叔父と祖母は彼女たちにおそろいのクソ色(字幕ママ)の服を着せてレストランに連れてゆき、あえてそこらを歩かせます。これ要するに顔見世で、ここで「あの子を息子の嫁に」と気に入った人が、ほどなく家に訪ねてくるわけです。でもって本人同士初対面でお見合い――かと思いますね、違います。本人たちが並んで座ると、やにわに男の父親が「若いものはお互いに気に入ったようですし、私が息子に代わって求婚します!」。すると娘の祖母が「お受けします!」と答え結婚成立。ひやああああああああ!なんでなんでなんで!と私なら大暴れするところですが、ここで大暴れしてたらその先で絶対に死にたくなるに違いありません。結婚する女子は処女でなければ許されず、なんと夫の両親が初夜のシーツをチェックするのです。もし血痕がなければ、またしても「処女検査」のために医者に直行……。
恐るべき処女信仰はイスラム教が「結婚関係内での性行為」以外を禁じているから。もし初夜に非処女とわかるとどうなるんだろう……と不安になりいろいろ調べると、離婚もやむなし、悪くすればコミュニティからはじき出され、婚前交渉を持った娘を父親が銃殺とか、性器切除も女子の欲望を抑えるためとか、イスラム教×セックスの話がもういろいろ怖すぎて再び「ひやああああああああ」となったわけですが、その一方でイスラム、アラブに詳しい人の一部、さらにイスラムの女性にも「こうした社会に生きるイスラムの女性はむしろ幸せ」と言っている人もいるんですね。つまり「女性が“男がおいそれと触れてはいけないもの”として扱われている証拠」とか「外出でベールをかぶるのは夫が他の男から妻を守るため」「婚外交渉がないのでイスラムの夫婦は絶対にセックスレスにならない」とか。
国や地域によって、この映画より大らかなところも、逆にずっと厳しいところもあるから一概には言えないのですが、こういう映画を見ると西欧文化に慣れ切った地域では「イスラムの女性は抑圧されている」とつい言っちゃいますよね。かくいう私も最初はまったくそう思っちゃったわけですが、このあたりを知るにつけ本当の問題は、そことはちょっとズレてるんじゃないかと思い始めたんです。つまり『自分の幸せを自分(の価値観)で決められない」「別の選択肢を選べない」ことなんでは、と。
「生涯未婚でいるくらいなら親の決めた相手と」という人もいれば、「親の決めた知りもしない男と結婚したくない」という人もいるし、「結婚前にセックスしなかったから失敗した」という人もいれば、「結婚前にセックスしなかったのが良かった」という人もいるし、「性の対象として見られたい」という人もいれば、「性の対象として見られたくない」という人もいて、それぞれの選択は同等に尊重されるべき、というのが、やっぱり正しいんじゃないかなーと思ったわけです。
これ忘れちゃったなー、確かどこぞの映画作家の言葉で、その通りだなと思った言葉があります。それは「本当の自由は、すべての選択肢が提示されているところにしかない」。選ぶ選ばないに関係なく、大事なのは選択肢があることなんですね。
人間は与えられた環境の中でもどうにか幸せを探さなければ生きていけない存在で、そうした小さな幸せを生きる人に他人が「あなたは可哀想な人なのよ」なんていうことは、すごく失礼なことだとは思います。でももし別の選択肢があれば、選んでいたかもしれない。選びたかったかもしれない。どんどんと保守化してゆく世界を見るにつけ、誰もがそういう共通認識を持つことが、何よりも本当に難しいことなのかなと思います。
こちらでは女性監督D・G・エルギュヴェンさんのインタビューをお送りしています。映画を見れば全女子が感じるに違いない「なんで?」についてもお聞きしていますよー。
『裸足の季節』
6月11日(土)より全国順次
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