「そもそもCPUってなんなの?」観る将棋ファンのためのコンピュータ講座(1)
松本 渡辺明名人が新しくコンピュータを購入という記事、おかげさまで大変な反響がありました。ありがとうございました。多くの方のツイートを拝見したところ、共通した疑問、質問があるようです。私はコンピュータに関して級位者レベルの知識しかありませんので、またコンピュータ将棋ソフト「水匠」開発者の杉村達也さんにいろいろとうかがえればと思います。
杉村 よろしくお願いいたします。
松本 第1回のテーマは「そもそもCPUってなんなの?」です。
杉村 え、めっちゃ難しい質問(笑)
松本 ははは(笑)
渡辺 わかりません(笑)
松本 ははは(笑)
渡辺 コンピュータの略?
松本 名人、ありがとうございます(笑)
渡辺 普通にそう思ってた(笑)
松本 わかります。普通にCPU=コンピュータ(computer)の意味で使ってる人も多いですよね。
杉村 なるほど・・・。見ている方にわかりやすく、かつコンピュータ将棋界に突っ込まれないような回答にしなければ・・・(笑)
松本 大丈夫です。私もたまに「そもそも将棋ってなんなの?」式の質問をいただいて、ひるむことがありますけど(笑)。多くの方に見ていただくウェブ記事ですので、ざっくりでお願いいただければ(笑)。CPUはコンピュータ将棋でも当然重要なのでしょうけれど、特によくその性能に関して言及されているような気がします。これはなぜなのでしょう?
杉村 CPUは中央演算処理装置(Central Processing Unit)のことで、演算をつかさどる部分で、コンピュータにおける頭脳の役割とされています。
松本 はい。
杉村 頭がいいと計算スピードが速い。
松本 なるほど、わかりやすい。世界コンピュータ将棋選手権のページを見てみると、参加チームのコンピュータのCPUの性能が詳しく書かれています。そこに「クロック」という欄があって「GHz」(ギガヘルツ)という単位で数字が記されています。この数字が大きければ大きいだけ、性能がいいということでしょうか?
杉村 その通りです。それとコア数も重要です。
渡辺 コア数はよく聞きます。多いほど強い。
松本 コアとはいわば頭脳の数ですね。
杉村 複数のコアがあると、並列して演算をすることができます。
松本 なるほど。
杉村 最近の強い将棋ソフトは、並列して演算できるような仕組みになっているので、コア数が多ければ多いほど、速く読むことができるようになっています。
松本 最近、将棋界でよく聞くCPUの名が「Ryzen Threadripper 3990X」です。藤井聡太二冠が使っていることでよく知られ、また最近渡辺名人も購入し、杉村さんや他の開発者も使われている。これはなんと64コアもあるんですね。
杉村 その通りです。
松本 ざっくりなイメージなんですけど、1つのコンピュータに64人の棋士が入ってるみたいな感じですか?
杉村 イメージとしてはその通りでしょうか。さらに、最近のCPUは1コアで2つの並列演算が出来るような仕組みになっているので、64コアで、128並列演算をするのが最大効率となります。
松本 論理コアというやつですね。勝手なイメージですけど、能力の高い64人の棋士が、将棋盤を2面ずつ使って検討してるようなものですかね。
CPUの発展
松本 CPUの性能も向上してきたんですね。
杉村 時代を経るごとにアップし、同じくらいの性能のものはどんどん安くなっていきましたね。
松本 今からちょうど30年前の1991年。第2回コンピュータ将棋選手権・・・この頃はいまと違って大会名に「世界」はついていないんですけれど、いまに続くコンピュータ将棋の競技会が開催されています。当時の文献によれば、YSS開発者の山下宏さんが使っていたコンピュータはNEC製のPC-6601。CPUを見ると「Z80」で「4MHz」と記されています。メガヘルツですね。そもそも単位が違うんですけど、いまと比べて1コアの性能あたりでどれぐらい違うものなんでしょうか?
渡辺 もう、ちんぷんかんぷんだ(笑)
松本 ははは(笑)
杉村 単純にHzの差でいうならば、例えばThreadripper 3990Xは2.9GHzですので、2900MHzということになります。
松本 仮にこのHzを「戦闘力」と言ってしまえば・・・それが適切な表現かはわかりませんが、戦闘力4と戦闘力2900ほど違うということでしょうか?
杉村 Hzの比較ではそうですね。
松本 30年前といまのCPUをざっくり比べると、戦闘力4が1人と、戦闘力2900が64人という感じなんですかね。
渡辺 え、そんなに。
杉村 厳密ではないかもしれませんが、そのようなイメージです。
渡辺 ドラゴンボールで思うと勝ち目ないな。
松本 今からちょうど15年前の2006年。私はこのときから中継担当として大会スタッフを務めているんですけれど、当時の熱気はよく覚えています。というのも、彗星のように現れたBonanzaが初出場し、初優勝を飾れるかどうか、という大会だったからです。
松本 開発者の保木邦仁さんは当時カナダ在住だったので、代理操作の方が会場に来られました。多くの参加チームが大きなコンピュータを持ち込む中で、Bonanzaチームはノートパソコン1台だったのが目を惹きました。このときのCPUが「CoreDuo T2600」で「2.16GHz」と書かれています。戦闘力2160か・・・。
杉村 それが2人ですね。
松本 なるほど。当時、山下さんはすでにコンピュータ将棋の権威でしたが、私がBonanzaのことばかりいうので「Bonanzaが勝てばいいと思ってるんでしょう?」と笑われました。まあそうなれば面白い、と思ってたことは事実なんですけどね(笑)。私だけでなく、他の多くの人もそう思ってたはずです。いまの藤井聡太さんがプロ棋界に現れたときのような感じに似てますかね。で、結局Bonanzaが優勝した。そのときに大盤解説を担当していただいたのが当時の渡辺竜王でした。
渡辺 そうでした、そうでした。もう、Bonanzaは広まってましたよね。
松本 そうです。将棋会館の控え室で、よく皆さんとBonanzaで対戦してもらいました。で、コンピュータ将棋選手権の山下さんのコンピュータ、これがとても大きかったんです。CPUは「Opteron852」で「2.6GHz×4」とあります。むきだしになってて、普通の大きな扇風機で冷やしてた。これが当時、個人レベルで入手できる最高クラスだったと聞いた記憶があります。
杉村 確かに、クアッドコアは当時珍しそうです。
松本 戦闘力2600が4人ですか。
杉村 そうなりますね。
将棋関係者は高性能CPUを使う
松本 コンピュータ将棋の発展はハード、ソフトの両面あります。ハードに関していえばコンピュータ将棋の強さは、このCPUの性能に大きく依存してきたということなんですね。
杉村 現在の将棋ソフトにおいては、読みのスピードが2倍あると、レーティングが150~200ほど上がるとされています。
松本 レーティングは強さを示す相対的な指標ですね。
杉村 勝率でいうと7割~7割5分くらい勝つようになります。
松本 渡辺名人のパソコンを比べると、古い方は設定をいじってない状態でNPS(1秒間に何局面読むか)が300万ぐらい。今回購入された新しい方が6000万でした。
杉村 20倍の差がありますね。
松本 ということはレーティングにすると・・・?
杉村 コア数が違うので単純比較はできないのですが、500以上の差がありそうですね。
松本 はあ・・・
杉村 同じ水匠を動かして500違うと、95%勝つようになります。
松本 恐ろしい。最新のスレッドリッパーのお値段は50万円。ほとんどの人にとってはびっくりという価格なんですけど、長くコンピュータやってきた人にはお得感があるんですか?
杉村 そうですね。サーバー用のCPUであるIntel Xeonの時代からしたら、とても安くてお買い得といえるかもしれません。
渡辺 これってどういう人が買うんですか? よくゲーミングPCって言いますけど。
松本 熱心なゲーマーか、開発者か・・・。
杉村 映像を扱う人もよく使いますね。エンコードの時間を短くできるので。ただ、最近はパソコンショップに行って、Threadripper 3990Xが欲しいというと「将棋に使うんですか?」と問われるほど有名になっているらしいですよ(笑)。最近のCPUを紹介するニュースサイトのベンチマークには「やねうら王」が使われていますし。
渡辺 棋士が買いまくってるんだ。
杉村 買いまくってるんでしょうねー。
松本 将棋関係者、お得意様・・・。
渡辺 連盟割引して欲しい(笑)
杉村 開発者もよく買っています。知ってるだけでも5人くらい。
松本 CPUのメーカーって、ずっと「インテル入ってる」のインテルが有名でしたよね。それが最近、AMDの名をよく聞くようになった。なにか劇的な技術革新があったんですか?
杉村 みたいですね。めっちゃ天才技術者がAMDに入ったと。
松本 へええ。将棋界みたいだ。天才が現れると技術革新が起こる。続けてGPUについてうかがいたいと思います。
渡辺 それは次回にしましょう(笑)
松本 はい、そうですね(笑)。次回は「CPUとGPUはどう違うの?」という話をうかがいたいと思います。ありがとうございました。