岸田内閣支持率低下で注目の「青木率」とは 知られざる「第二法則」と世論調査の見方
時事通信の最新の世論調査では 内閣支持率が32.3%、自民党支持率が22.4%を記録し、毎日新聞の最新の世論調査でも、内閣支持率は29%、自民党支持率が23%となりました。
この世論調査における内閣支持率の低調傾向は、旧統一教会と自民党をめぐる選挙協力など様々な問題が要因と言われているほか、国葬を行うことに対する世論の批判的な意見も反映されてるものとみられます。
ところで筆者もオーサーコメントでたびたび指摘しているように、世論調査における数字の見方のひとつに「青木率」と言われる指標があります。政治関連の報道に触れたことがある方は一度は聞いたことがあるかもしれません。
青木率には「青木の第一法則」と「青木の第二法則」がある
青木率とは、青木の法則などと呼ばれ、自民党参院幹事長・内閣官房長官などを経験した青木幹雄氏が唱えたとされる指標で、 内閣支持率と与党第一党(自民党)支持率の和が50ポイントを下回れば、「現政権はもうもたない」と言われるものとして広く知られています。
実は、この「青木率」と「青木の法則」は一般的には同一視されますが、 厳密には異なるものです。
青木の法則には、正しくは青木の第一法則と青木の第二法則があり、先程の青木率の解説は、 青木の第一法則を説明したものです。青木の第二法則は、あまり一般的に知られたものではありませんが、青木率に、現在の衆議院の与党第一党の議席数を掛け合わせれば、 衆議院解散総選挙の与党の新たな議席数を指し示すと言われています。 例えば青木の第一法則でひとつのベンチマークとなっている「50%」という数字は、 青木の第二法則では、「与党が現有議席を半分(50%)を減らす」と言う意味にもなります。
青木率が正しいのか
そもそも青木率は青木幹雄氏が自身の長い政治的キャリアから基づく経験則だと言われています。この青木率を、私も幾度と無く政治的な解説をするたびに引用してきましたが、果たしてこの経験則は実際に正しいのでしょうか。
この経験則が正しいかどうかを検証するためには、実際に内閣が倒れた直前の世論調査の数字を確認すれば良いように思えるかもしれません。しかしながら事はそう単純ではなく、世論調査の数値は報道各社によって大きくばらつきがあります。
例えば世論調査の中でも産経新聞や読売新聞は内閣支持率が比較的高めに出る傾向がある一方、時事通信や毎日新聞は反対の傾向にあります。これは世論調査の手法や設問の設計が微妙に異なることから起きている現象で、不思議なことではありません。 事実、同時期の報道各社の世論調査を横並びに比較する事は難しくても、報道各社の世論調査の推移を比較するとどの会社も同じような折れ線グラフを作ることから、各社の絶対的な数字を比較することができなくても、相対的な推移はおおむね一致するということが知られています。
そこで、直近複数回の内閣総辞職のタイミングと総選挙のタイミングで、 その当時の青木率がどのぐらいだったのかを見ていきたいと思います。引用する世論調査の数値は、報道各社の数字の中でも、中立的と呼ばれるNHKの数字と、青木幹雄氏が参考にしていたとされる読売新聞でみていきます。
過去の青木率の理論と実際
〇第49回衆議院議員総選挙(2021年10月31日)
NHK世論調査(2021年10月11日)
岸田内閣を「支持する」49%
自民党を「支持する」41.2%
=青木率は「90.2%」
読売新聞(2021年10月16日)
岸田内閣を「支持する」52%
自民党を「支持する」40%
=青木率は「92%」
総選挙結果(自民党)
公示前議席 276
獲得議席 261
=実際は「94.5%」(青木の第二法則)
〇菅内閣総辞職(※2021年9月3日に表明)
NHK世論調査(2021年8月10日)
菅内閣を「支持する」29%
自民党を「支持する」33.4%
=青木率は「62.4%」(青木の第一法則)
〇安倍内閣総辞職(※2020年8月28日に表明)
菅義偉内閣総理大臣が辞職
NHK世論調査(2020年8月12日)
安倍内閣を「支持する」34%
自民党を「支持する」35.5%
=青木率は「69.5%」(青木の第一法則)
〇第48回衆議院議員総選挙(2017年10月22日)
NHK世論調査(2017年10月10日)
安倍内閣を「支持する」37%
自民党を「支持する」31.2%
=青木率は「68.2%」
読売新聞(2017年10月9日)
安倍内閣を「支持する」41%
自民党を「支持する」33%
=青木率は「74%」
総選挙結果(自民党)
公示前議席 284
獲得議席 284
=実際は「100.0%」(青木の第二法則)
〇第47回衆議院議員総選挙(2014年10月22日)
NHK世論調査(2014年12月8日)
安倍内閣を「支持する」47%
自民党を「支持する」38.1%
=青木率は「85.1%」
読売新聞(2014年12月4日)
安倍内閣を「支持する」40%
自民党を「支持する」37%
=青木率は「77%」
総選挙結果(自民党)
公示前議席 295
獲得議席 291
=実際は「98.6%」(青木の第二法則)
〇第46回衆議院議員総選挙(2012年12月16日)
NHK世論調査(2012年12月8日)
野田内閣を「支持する」20%
民主党を「支持する」16.1%
=青木率は「36.1%」
読売新聞(2012年12月6日)
野田内閣を「支持する」22%
民主党を「支持する」15%
=青木率は「37%」
総選挙結果(民主党)
公示前議席 230
獲得議席 57
=実際は「24.7%」(青木の第二法則)
〇第45回衆議院議員総選挙(2009年8月30日)
NHK世論調査(2009年8月10日)
麻生内閣を「支持する」23%
自民党を「支持する」26.6%
=青木率は「49.9%」
時事通信(2009年7月16日)※読売新聞調査の代わり
麻生内閣を「支持する」16.3%
自民党を「支持する」15.1%
=青木率は「33.4%」
総選挙結果(自民党)
公示前議席 300
獲得議席 119
=実際は「39.7%」(青木の第二法則)
青木率は当たらずとも遠からず?
ここまで見てきたように、青木率のうち「第一法則」については、少なくとも直近の総辞職である菅義偉氏・安倍晋三氏では50%を下回っておらず、青木率の手前で総辞職に至っています。ただ、安倍晋三氏の総辞職については体調不良だったことなどもあり、必ずしも「政権転覆」という青木率の本来の趣旨が適用されるべきではないのかもしれません。
青木率のうち「第二法則」については、少なくとも直近2021年の岸田内閣における総選挙では、ほぼ的中と言っても過言では無いでしょう。それ以前の総選挙をみても、多くは当たらずとも遠からずといった結果です。例外は2017年の衆議院議員総選挙で、青木率は60%台〜70%台でしたが、自民党は現有議席を維持しました。この選挙では小池百合子氏が率いる希望の党の発足から失速といった野党勢力分裂の影響も大きく、選挙期間中にダイナミックに情勢が変わったとも言えます。
いずれにせよ、青木率は第一法則・第二法則ともに厳密な意味で計算に使えるほどの精度ではないにしろ、「当たらずとも遠からず」という点においては意識するには十分に意味のある精度とも言えるでしょう。今後の岸田内閣における世論調査の数字が10月以降の臨時国会以降もどのように推移するか、注目です。