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【名古屋・逆転有罪判決】被害者のAさんがコメントを発表「信じてくれる人は少なかった」

小川たまかライター
判決前、支援者らが裁判所の前でスタンディングを行った

 当時19歳の実の娘に性的虐待を行ったとして準強制性交等罪に問われていた男性被告(50)の控訴審判決。3月12日、名古屋高裁は一審の名古屋地裁岡崎支部判決を破棄し、懲役10年を言い渡した。

 判決で堀内満裁判長は、「原審は専門家(証人として出廷した精神科医)の判断を軽視しており是認できない」「抗拒不能の要件を厳しく設定しており、その根拠がない」と一審の判決を厳しく批判。また、父親に意見を言うこともできていたから支配関係とまでは言えなかったとする一審の認定について「日常生活の中で抵抗可能であることと、性交の抵抗ができないことは両立し得る」と述べた。

 判決後、被害者のAさんを支援してきた、NPO法人CAPNAの理事長、岩城正光弁護士らが会見。

判決後、Aさんを支援する岩城正光弁護士らが記者クラブで会見を行った
判決後、Aさんを支援する岩城正光弁護士らが記者クラブで会見を行った

 岩城弁護士は「弁護士として30年以上やってきて、判決で涙が出たのは初めて。今回の判決は被害者の気持ちを受け止めてくれた、常識的かつ良識的な判断だったと思います」と話した。また、Aさんの状況について「無罪判決のときは荒れた。心を閉ざすような状況だった」。現在も専門的なカウンセリングには臨めておらず、「やけどをしてかさぶたがまだできてない状態」と明かした。

 会見では、Aさんが岩城弁護士らの支援を受けて書いたコメントが発表された。全文は下記のとおり(改行部分にスペースを加えたが、その他は原文ママ)。コメントは平成29年12月書いた、一審での意見陳述書を元にまとめたもので、内容の半分以上は一審判決にも提出されている。

◆ 

今日の名古屋高等裁判所の判決を受けて(令和2年3月12日)

1 私は,実の父親からこのような被害を受けてとても悔しい気持ちでいっぱいです。

 「逃げようと思えば逃げられたんじゃないか。もっと早くに助けを求められたらこんな思いを長い間しなくて良かったんじゃないか・・・」。そう周りに言われもしたし,そのように思われていたのはわかっています。

 でも,どうしてもそれができなかった1番の理由は,幼少期に暴力を振るわれたからです。

 「だれかに相談したい」,「やめてもらいたい」と考えるようになったときもありました。そのことを友達に相談して友達から嫌われるのも嫌だったし,警察に行くことで弟達がこの先苦労するのではないかと思うと,とても怖くてじっと堪え続けるしかありませんでした。

 次第に私の感情もなくなって,まるで人形のようでした。

 被害を受けるたび,私は決まって泣きました。「私にはまだ泣ける感情が残っている」ということ,それだけが唯一の救いでした。

 私が一人っ子だったら,何も迷わずにもっと早くに訴えられていたかもしれません。やっぱり大切な弟たちのことが心配だったのです。

 そんな弟たちと離れなくてはいけなくなること,生活が大変になるかもしれないこと,ただそれだけを考えると,嫌でも仕方なくてじっと我慢するしかできませんでした。

 今も弟たちに会いたい。話したい。その気持ちでいっぱいです。今も会えないのは苦しいです。

2 二度と会いたくないのは,父親です。あの人が私の人生をぶち壊したんです。

 返してください。私のこの無意味に空費した時間を!気に病んだ時間を!全部返してください。やってみたかったこと,本当はいっぱいありました。でも全部諦めました。

 今,すべてのことを振り返ってみると,ひたすら悔しい気持ちです。父との毎日は非常識であり,ただただ気持ち悪かったです。どうしたらあんなことができるのか,わかりません。

 私たちはただ普通に暮らしたいのです。暴力も暴行も,無慈悲な言動のない普通の生活がしたいんです。もう二度とこんな思いはしたくありません。

 これから私は無駄にしてしまった時間を精一杯埋めていきたいので,邪魔しないでもらいたいです。私は父を許すことは絶対にできません。

 不安と苛立ちに押しつぶされそうな苦しい毎日でした。そして今も同じです。私や弟たちの前に二度と姿を現さないでほしいです。

3 無罪判決がでたときには,取り乱しました。荒れまくりました。仕事にも行けなくなりました。今日の判決が出て,やっと少しホッとできるような気持ちです。

 昨年,性犯罪についての無罪判決が全国で相次ぎ,#metoo(ミートゥー)運動やフラワー・デモが広がりました。それらの活動を見聞きすると,今回の私の訴えは,意味があったと思えています。なかなか性被害は言い出しにくいけど,言葉にできた人,それに続けて「私も」「私も」と言いだせる人が出てきました。私の訴えでた苦しみも意味のある行動となったと思えています。

4 私が訴え出て,行動に移すまでにいろいろな支援者につながりました。しかし,「本当にこんなことがあるの?」と信じてくれる人は少なかったです。失望しました。疑わずに信じてほしかったです。

 支援者の皆さん,どうか子どもの言うことをまず100%信じて聞いてほしいのです。今日,ここにつながるまでに,私は多くの傷つき体験を味わいました。信じてもらえないつらさです。子どもの訴えに静かに,真剣に耳を傾けてください。そうでないと,頑張って一歩踏み出しても,意味がなくなってしまいます。子どもの無力感をどうか救ってください。私の経験した,信じてもらえないつらさを,これから救いを求めてくる子どもたちにはどうか味わってほしくありません。

5 私は,幸いにも,やっと守ってくれる,寄り添ってくれる大人に出会えました。同じような経験をした多くの人は,道を踏み外してもおかしくないと思います。苦難を生きる子どもにどうか並走してくれる大人がいてほしいです。

 最後に,あの時の自分と今なお被害で苦しんでいる子どもに声をかけるとしたら,「勇気を持って一歩踏み出して欲しい」と伝えたいです。一人でもいいから,本当に信用できる友達を持つことも大切だと思います。    

  以上

    被害者 Aより

 コメントからもわかる通り、性暴力の被害者が置かれる状況や心理について、理解のある人は残念ながら多くない状況がある。Aさんは無罪判決にはもちろん、周囲の人やネット上の無理解なコメントにも傷つけられた。

 現在の日本において、被害者への支援は、あらゆる面で足りていない。せめて、これ以上の二次被害が起こらず、彼女が静かに回復していける環境が整えばと思う。被害者支援は、あってあり過ぎることはない。

 

(記事中の写真はすべて筆者撮影)

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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