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子育て応援車両への批判は、子連れは遊びに行くもの、応援車両は他の客は乗れないという誤解から生まれる?

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
右:平本沙織さん 左:子育て応援スペースを視察する小池百合子知事 /平本さん提供

今年7月に都営大江戸線の車両全58編成のうち3編成で導入した「子育て応援スペース」が好評だとして、来年3月までに7編成に拡大すると小池知事が明らかにした。

しかし、この「子育て応援車両」またの名を「子育て応援スペース」は、ネット上では炎上しており、先月末には以下のような記事も出た。

◆参考記事

BUSINESS INSIDER JAPAN

悪化する「子連れヘイト」。駅でベビーカーを蹴られ、SNSの#放置子#道路族で追い詰められる母親たち

そこで、「子育て応援スペース」を導入する活動をしている平本沙織さんと、理解が進まない大きな要因はなにかを話し合った。

●9割以上が子連れでの乗車に危険を感じていた

きっかけは、平本さん自身が待機児童問題で、自宅最寄駅から4駅離れた場所の保育園になってしまったこと。一時保育で預けていたため、朝の決められた時間までに子どもを届けなければ、その日一日受け入れてもらえないというルールだった。

本来であれば、自分の子どもを危険に晒してまで、満員電車になど乗りたくはない。もちろん、タクシーで保育園に行くことも念頭に置いていたが、月数万円の出費になり、雨の日はほぼつかまらない。自家用車はない。持つことは経済的に負担だった。

自分も出勤するため、体重約10kgの子どもと仕事用のパソコン、子どもの着替えまで抱えられず、ベビーカーで通わざるを得なかった。しかしそのことで、電車内で冷たい言葉をぶつけられたり、舌打ちされたり、エレベーターで乗客に「下りろ」と言われたこともあった。毎朝の憂鬱に「人を信じられなくなりそうだった」という。

自身の辛い経験を原動力に、今年2月、保護者を対象にアンケート調査を実施。子どもと電車に乗ったとき、抱いた子どもやベビーカーが押しつぶされそうになるなどの危険を感じたことが「ある」「どちらかといえばある」と答えた人が9割を超えた

この調査結果をもとに、子育て応援車両の導入を求める要望書を小池百合子都知事に提出し、今年7月の導入を成し遂げた。

現在、「子育て応援スペース」は、大江戸線の全58編成のうち3編成の3、6号車に試験的に設けられいる。運行時刻については、車両整備などの関係から日々異なるため、東京都交通局のホームページで確認が必要だ。

朝の子連れ出勤や登園だけでなく、通院や子連れの移動にも便利なように、3編成ではあるが、あらゆる時間に運行している。しかし、全58編成のうち3編成なので、本数的にはまだまだ少ないのが現状だ。

子育て応援スぺースの設置場所/東京都交通局HPより
子育て応援スぺースの設置場所/東京都交通局HPより

●子連れは“遊びに行くもの”という思い込みが誤解を招く

決して、子連れだからという理由のみで優遇してもらいたいわけではない」と平本さんはいう。平本さんのケースもそうだが、やむを得ない事情でベビーカーや抱っこ紐で満員電車に乗らなければならないことがある。

ここの理解が進んでいないことから、思い込みで批判に繋がっているものもあるのではないかと私(筆者)は思う。

というのは、以前私が「子連れ出勤」を取材した際、当事者の女性から以下のエピソードを聞いたことがあるからだ。

抱っこ紐で赤ちゃんを抱えて満員電車に乗ろうとすると、目の前の男性から「こっちはこれから会社に行くんだ!後から来る空いている電車を使えばいいだろ!」と怒鳴られたという。仕方なく黙って降りたが、「私だってこれから会社に行くのに…」と心の中では悔しさを滲ませた。

「きっとこの男性は私が出勤するところだとは夢にも思ってなく、これから親戚の家にでも遊びに行くものと思っているのだろう、だから後から来る電車に乗れと言えるのだと思う」

というエピソードを取材のなかで聞かせてくれた。

世の中の多くの人たちが、「子連れ出勤」や「電車での保育園の登園」など、満員電車に子連れで乗る必要性があることを知らない。幼い子どもを抱えて働く女性が周りにいなければ、想像すら付かないだろう。たとえ、周りにいたとしても、当事者でなければ分からないかもしれない。

働く女性よりも専業主婦をメインとする時代があったことで、妊婦や赤ちゃんは家の中に閉じこもっていた。今までは公共の場に、ましてや朝のラッシュ時などにいる存在ではなかったことが、理解が進んで行かない理由だろう。

現に、平本さんも「ラッシュ時にベビーカーで乗る必要があるのか」と非難されたという。

●「子育て専用車両」と勘違いしている人たちがいる

「女性専用車両」の刷り込みで「子育て専用車両」だと勘違いしている人が多いのも、理解が進まない要因ではないかと思う。以下記事も、完全に「子育て専用車両」と勘違いして批判の記事にしてしまっている。

◆参考記事

「子育て専用車両」は的外れ!? 育児中の身でも感じる大きな疑問

私自身も「子育て専用車両」だと勘違いした一人で、平本さんに取材した際に、

「ただでさえ満員の電車なのに、子連れ専用車両を作ることで、他の車両の人口密度が増すことは、どう考えているの?」と質問してしまった。

平本さんの回答では、

“専用ではない”ので、他の乗客もOKで、むしろ、子ども好きな人がこの車両に乗車してくれることはウエルカムだ」という。

子どもに理解のある人、子どもが好きな人が優先的に乗れる車両があることで、子どもは社会で育てるものという意識がこの空間から広まってくれたら」と語ってくれた。

女性専用車両で賄えないのは、「女性だからといって、子どもに優しくしてくれるとは限らないからだ」という。確かに、なかには流産や死産を経験して、子どもの姿は見たくないという女性もいるだろう。

「子育て応援スペース」があることで、子ども嫌いな人や子どもと距離を置きたい人は、そこの場所を避けるという選択肢も生まれる。子ども嫌いな人にとっても分かりやすくていいのではないかと、平本さんの話を聞いて私は思った。

国土交通省は2014年、ベビーカーを折り畳まずに使える優先スペースのマークを決定し、車いすとの兼用のスペースを導入した。けれど、そのスペースでは車いすに遠慮してしまう子連れ女性は多いという。

高齢者・障害者・妊婦や乳幼児連れ(ベビーカー含む)などに着席を優先的に促す「優先席」はあるけれど、満員の車内でそのスペースに辿り着くのは難しい。それに、高齢社会になるこれからの日本の人口構造を考えると、優先席にはお年寄りや障害者が座ることが多くなる。労働力不足の日本では女性の労働力は必須で、ワーキングマザーは益々増えるのだから、「子育て応援スペース」があるのは、時代に合わせたことではないかと私は思う。

●平本さん本人の発言に対するバッシング

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上記は、この問題に関して最初に呟いた平本さんのTwitterの投稿。確かに、平本さんのTwitterには過激な回答もあり、そのことによって炎上が止まらないという側面もある。止まらない炎上は、平本さんの容姿や家族など、関係ないところにまで飛び火していて、それは本筋とは違うので、誹謗中傷でしかない。

私の希望だが、できれば感情論ではなく建設的な議論ができるといいように思う。この問題については、批判だけでなく、「子どもが危険ではないか」「子どもが可哀想ではないか」という心配の声もある。

そもそも、満員電車がなければ、子どもをベビーカーで乗せても安全だ。また、待機児童問題がなければ、子連れ出勤や電車での保育園の登園なども必要ない。この2つの問題がなければ、ベビーカーでの乗車が迷惑・心配という議論はなくなるはずだ。

本来であれば、この2つの問題は国が解決していくべきもので、「子育て応援スペース」は、この2つの問題が緩和していくまでの対処療法でしかない。

「子育て応援スペース」に反対な方々もいずれ歳をとり、高齢者となっていく。子育てに優しい国は、高齢者や障害者などの弱者にも優しい国のはずだ。理解の輪が進むことを願っている。

平本さんより提供
平本さんより提供

平本沙織(ひらもと さおり)

ソーシャルアクティビスト / フェミニスト

日本女子大学家政学部家政経済学科卒業。女子大生から丸の内OL、2度の転職と夫婦起業を経てソーシャルアクティビストとして活動。2016年生まれの息子を持つ。拡張家族実験プロジェクト「Cift」メンバー。

2017年「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」発起人

2018年「子連れ100人カイギ」実行委員長

2019年「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」代表

満員電車や公共交通機関でのベビーカーや子連れの安全のために1,000件規模の実態調査アンケートを実施。小池百合子東京都知事に要望書を手渡し、都営大江戸線に子育て応援スペースの導入を実現。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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