スズキ・ラパンの完成度に驚く。【試乗インプレッション】
スズキが送り出した新型ラパンを試乗してまず感じたのは、いわゆる“リッターカー”と呼ばれる5ナンバーのコンパクトカーたちの存在が危うい、と思えるほどの完成度の高さだった。
最初に印象的なのがデザイン。スズキは最近、ハスラーやアルトなどで、独自の路線を築きつつあるが、このラパンではさらにデザインが一歩先へ進んだと感じた。ボディカラーでミントやピンクなどを採用するため、ファニーに感じる部分も多々有る。しかし、そのデザイン力は高く、世界のどこに出しても恥ずかしくないオリジネリティと、ディテールにおけるテクニックのレベルの高さに舌をまく。何にも似ていない、確固たるひとつの世界観を感じる。
次に驚くのが走行性能。軽自動車であり、エンジンも自然吸気タイプでターボ等はつかないため、正直走りはイマイチか? と予測していたが、実際に走らせると自然吸気タイプでも十分に走る。理由はボディが600kg台と軽量だから。これはラパンのベースとなるアルトが新世代モデルとなった際に実現した要素で、それをラパンも確実に受け継いだ。しかも先に登場したアルトよりも静粛性等も高く、もはやリッターカーに並ぶどころか抜き去ろうとするほどの実力の高さなのだ。乗り心地等に関しても、脱・軽自動車を感じるしっとりとした感じさえ漂っている。
さらに驚きは燃費の良さ。これも新型アルトから継承される要素だが、このラパンではアルトよりも装備が充実して重量増があるにも関わらず、最も燃費が優れたモデルでは35.6km/Lを実現している。もちろんこれはカタログに記載されるモード燃費値ではあるが、この数字からもはや、軽自動車の燃費性能はたとえハイブリッド技術等を使わずとも、数年後には40km/Lを達成していてもおかしくない、といえる。
そしてダメ押しは充実の装備。上級モデルでは「ナノイー」を搭載したオートエアコンを用意するほか、UV&IRカットガラス、キーレスプッシュスタートシステムおよび連動ドアミラー開閉、シートヒーラーやハンズフリーなど至れり尽くせりの装備となる。また安全装備では、トレンドである衝突被害軽減ブレーキである「レーダーブレーキサポート」を備えるほか、誤発進抑制機能等も与えられている。
それでいて価格は最も装備が充実したXで、138万9960円。軽自動車としては高額…と思える方も多いだろうが、実際にクルマを見て、乗って、装備の内容を把握すると価格以上の価値がある、と思えるはずだ。
そして同時に、これならばコンパクトカーでなくても…という思いが頭をもたげてくるはず。要はそれほど高い商品性を持っている。
ところでラパンは世界的に見ても極めて稀な商品。というのも、ユーザーの9割以上が女性という、驚きのデータを持っている。さらにそのうちの60%が20−30代で占められるという、まさにターゲットにフォーカスがキッチリと当たった商品でもある。
とはいえ今回の新型は、男性が見ても高い完成度にうならされるはず。特にミントグリーンやピンクではない、ダーク系のカラーを選べば肩の力を抜いて乗れる“相棒”になってくれそうな雰囲気が強く漂う。
今や5ナンバーのコンパクトカーはグローバル商品となったために、かなりコモディティ感が強いものが多くなり、正直どれも横並び…といった印象が強い。そうした中にあって、日本独自の企画で開発されたドメスティックな商品は、ひと際魅力あるものとして眼に映るという、逆転現象が起きている。
既に現時点で、軽自動車は日本全体のシェアの多くを占めており、その対極にある高級車とともに売れている商品といえる。そうした状況の中で今回のラパンのような商品が登場すると、ますます自動車の二極化に拍車がかかり、中間に位置する商品は、よほどの策を練らないと厳しくなってくるのではないか?
新型ラパンにはそんなことを考えさせられたのだった。