原発避難者を見捨てる方針が次々公表される。あまりにひどいその計画とは。
福島第一原発事故から四年以上が経過していますが、被害者の方々に対する政府の施策は本当に不十分なまま進んできました。ところが、連休が明けてからというもの、その不十分な施策をも、最終的に打ち切ってしまおう、という動きがどんどんと出てきています。社会的関心が薄れてきたことに乗じた動き、というべきでしょうか。そのひどい内容を見ていきましょう。
■ 自主避難者への無償の住宅提供を終了へ
まず、唖然としたのはこちらです。
自主避難者、とは、政府が決めた年間20ミリシーベルトという避難基準を下回るため、避難地域として認められなかった地域から、自分の決断で避難をした方々・ご家族のことです。
そもそも、低線量被ばくの健康影響、特に子どもなどへのリスクを考えると、年間20ミリシーベルトという基準自体があまりにも不十分なのです。チェルノブイリを事故などでは、年間1ミリシーベルト以上の地域に居住している人は「避難の権利」が認められ、避難をしたいと決断した場合、政府から住宅支援や十分な賠償、教育・雇用の支援などが行なわれています。
本来、日本政府も同様の施策を事故後いち早く提起し、周辺の住民に提案して、避難したい住民はすべて手厚いサポートをすべきでした。
ところがそうした支援もないまま、自主的に避難を決断された方々が約3万6千人もいる。
子どもたちを健康被害から守りたいという気持ちからその決断は尊重され、国として必要な支援をすべきです。
ところが自主避難者への避難生活のサポートはほとんど何もなく、唯一あったといえるのがこの住宅の無償提供です。
ところが、それすらなくしてしまう、というのが今回の報道です。
当然、自主避難者の方々は悲鳴をあげています。住宅支援を打ち切らないでほしい、という記者会見や要請などが即座に行われています。
こうした声を踏まえ、県がどのような対応をするのか、注目していく必要があります。
■ 避難指示の解除
さらにひどいのは、現在の帰還困難区域を除いて、これまでの避難区域も2017年までに解消してしまう、という動きです。
こちら、経産省のウェブサイトにある現在の避難区域です。
原発事故の後を避難区域に指定されたところは、少しずつ、住民の意向をあまり考えないまま整理縮小されてきました。川内村、広野町、南相馬・伊達市の避難勧奨地点など。南相馬では避難勧奨地点解除を不当として住民が訴訟を提起しています。
そして今では、波江、双葉、大熊などの本当に原発から近く深刻な影響を受けた地域だけが、「帰還困難区域」となり、それ以外の地域は、「避難指示解除準備区域」と、「居住制限区域」にわけられています。
そして、このうち、2017年3月までに、「避難指示解除準備区域」と、「居住制限区域」も解除してしまうというのです。
居住制限区域には、飯館村、南相馬の南側のように、今も深刻な汚染が続いている地域が少なくないのです。
唯一避難地域として今後も残るのは、「帰還困難区域」ですが、この区域の放射線レベルは年間50ミリシーベルト以上。
50ミリシーベルト以下のところは避難区域から外してしまおうということです。
原発事故から事態をウォッチしてきた私としても衝撃・戦慄を覚えるような話です。
「帰りたい人が帰還できるようにするのはいいんじゃないの?」というご意見もあるかもしれませんが、問題は、避難指定解除の一年後に、東京電力の賠償金が打ち切られてしまうということが連動している点です。
避難指示という決定がされると、東京電力は、避難者に支払ってきた慰謝料を支払うのを一年後に止めてしまう仕組みなのです。
これでは、経済的に立ち行かず、放射線量が高く、不安が大きいのに、小さな子どもがいる世帯でも、帰還を事実上強要されることになってしまうのです。
■ 避難指示を解除しなくても賠償は打ち切り
ところが、さらにこの記事には驚きました。
つまり、住民の意向や、放射線量の低下が進まない、インフラ整備が進まない、などの事情で、避難指定の解除が進まないとしても、慰謝料だけははやばやと打ち切ってしまおうというのです。
国策によって起きてしまった未曾有の原発事故。何の落ち度もない周辺住民が避難を余儀なくされ、コミュニティも生活基盤も失い、つらい避難生活を送ってきたのです。こうした人たちに対して、自己に責任を負う政府・東電の進め方はあまりにも誠意がなく、その負うべき責任を果たしていないというべきではないでしょうか。
不便な避難生活を解消するために、集団での移転計画、「仮の村」をつくるなどして、放射線量が低く、インフラも整備され、生業をやり直せるようなコミュニティを整備・提供することを国は考えてもよかった、ところがそんな施策は全くないまま、避難生活に疲れ切った人々を、未だに放射線量も高く、復興も進まない地域に帰還するよう事実上強要するわけです。
国も東電も要するに、これ以上原発事故被害者のために国庫負担をこれ以上したくない、支援策を打ち切って避難者の方々を切り捨ててしまおうということなのでしょう。
■ 今でも避難をしたいと考えている人たちがいる。
原発事故後、「子どもに20ミリシーベルトを強いるのは、明らかな人権侵害」ということが大きな社会問題となりました。
当時内閣府の参与だった小佐古さんという方は、「私のヒューマニズムに反する」と泣いて辞任されたほどです。
ところが、20ミリシーベルト基準に対する疑問や社会的関心は次第に薄れ、勇気をもって避難をした人たちだけが、孤立し、社会的サポートを十分に得られない、国の支援もほとんどない、という状況が常態化してしまいました。
福島県内で検査がされている子どもの甲状腺がんは、確定・疑いの合計が既に127人、今年の1~3月の2回目の検査で新たに16人の子どもががんと確定診断されたそうです。
甲状腺がん新たに16人 福島の子、確定は103人に(朝日新聞デジタル・大岩記者・ハフィントンポスト)
最初の検査の時に甲状腺がんが見つからなかった子どもに約二年後に甲状腺が出てしまう、低線量被ばくの影響を深刻に考える必要があります。
2013~2015年に研究者などによって行われた住民へのアンケート調査の結果によれば、事故後4年が経過しても、25%の母やが「避難したい」と答えたそうなのです。
避難したくても避難できない、そのなかで、子どもの健康被害は進行しているかもしれない、こうした問題が未解決なまま、自主避難者への支援を打ち切り、さらに、避難指示により、避難を余儀なくされた人々への支援を打ち切って帰還を強要するということで果たしてよいのでしょうか。
非人間的、非人道的な措置というほかなく、国際的なスタンダードから見てもあまりにも異例です。
昨年、国連の自由権規約委員会は日本政府に対し、以下のような勧告をしています。
政府はこうした勧告をあくまで無視していますが、原発事故の被害にあわれた方々の人権に関わる重大な問題として、このような方針が許されるのでしょうか。
自主避難の住宅支援は今月末を目途に世論の反応等を見ながら最終判断との予定。それ以外の問題も社会的な批判が集まれば、政府も進められなくなるでしょう。
改めて社会が原発事故の被災者の方々の置かれた状況に関心を持ち、政府の動向に声を上げていく必要があります。