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災害ボランティアが見た熊本の今:熊本地震から半年たって

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
熊本県益城町にて(筆者撮影)

■熊本訪問:熊本地震から半年の西原村で

学生たちとともに、熊本を訪問した。西原村で活動し、家具を作り、家具を壊し、ゴミを捨て、草むしりをした。空は青く、真っ赤な彼岸花が美しかった。

西原村は、6割の家屋が被害を受けている。

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■地震後の片付け

西原村災害ボランティアセンター
西原村災害ボランティアセンター

先月末、熊本を訪問した。西原村や益城町では、壊れたままの家がある。ブルーシートをかけた家もたくさんある。取り壊された家もある。熊本空港も、通常の運行をしているが、まだ改修中の部分もある。通行止の道も見えた。

益城町にて(筆者撮影)
益城町にて(筆者撮影)

熊本城も手付かずに見える。

熊本城の崩れた石垣(筆者撮影)
熊本城の崩れた石垣(筆者撮影)

取り壊すことになっている家から、家財道具を運び出した。ボランティアの依頼主の目の前で、思い出があるだろう家具を壊し、トラックに住み込み、ゴミ集積場に運ぶ。

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益城町にて(筆者撮影)
益城町にて(筆者撮影)

学生の中には、心の苦しさを感じるものもいた。本来なら、粗大ゴミもそのままトラックに積み、家人の見えないところで取り壊されるのだろうが、ここではそんな余裕はない。ハンマーをふるい、力いっぱいけとばし、次々と豪快に壊してはトラックに積む。

作業終了後、取り壊しの期日に間に合ってよかったと、依頼主は私たちを笑顔で送ってくれた。

半年前に割れた窓を、今回片付けた家もあった。避難所と仮設住宅での暮らしを続けながら、少しづつ片付けている。割れたガラスを片付けるのに、半年かかった。

地震前の水害でやられ、地震でやられ、地震後の水害でもやられたと語っていた住民もいた。

住居の一部が壊れ、割合としては大きくなくても、農村部の大きな家では、壊れた部分も広いのだと、嘆いている人もいた。立派な家を直すのは、金がかかる。屋根瓦を直すだけで、200万、300万という声を聞く。

屋根のブルーシートも、2〜3ヶ月で傷む。シートはもらえるが、かけるのは自分だ。ボランティアが出来れば良いが、素人にはできない。自分でできなければ、技術を持ったボランティアか、業者頼みだ。

真新しいブルーシートも見えたが、ボロボロのブルーシートも見た。だが私は、屋根には登れない。

西原村にて(筆者撮影)
西原村にて(筆者撮影)

屋根に登れないどころか、危険の赤紙が貼られた家の中に入って片付けはできない。私たちも西原村の災害ボランティアセンター経由で来た。そのようなボランティアを、赤紙が貼られた家に入れると、怒られるそうだ。

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■草むしり

「草むしり」は、災害ボランティアたちにとって、評判の悪い作業の一つだ。大抵の災害ボランティアさんは、瓦礫の片付けなど、災害ボランティアらしい作業を求める(最初から農業支援を目的とする農業ボランティアは別として)。

しかし、草むしりは現地のニーズがある作業だ。

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今回私たちは、西原村にある障害者自立支援センター「にしはらたんぽぽハウス」の豆畑の草むしりを行った。ここは、日常の活動に加えて、災害ボランティアを活発に行っていた。自分たちが活動し、また活動団体のコーディネートを行なっていた。災害ボランティアセンターでは、動きにくい部分も、彼らは動いていた。

私たちが施設内にいたわずかな時間にも、何人もの人が訪ねてくる。電話はひっきりなしに鳴っている。私たちに、スタッフの事務仕事を手伝うことはできない。

農作業も、素人だ。大した戦力にはならない。それでも、10人で行けば、いくらかはできる。今回の草むしりは、もちろん災害ボランティア活動だ。

■家具作りボランティア:役立つボランティア活動とは

西原村の仮設住宅で、家具作りのポランティア活動「西原村木もくプロジェクト」に参加した(この日は、NHK「あさイチ」が取材に来ていた)。

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仮設住宅は、均一的だ。しかし、住民のニーズにはバラエティーがある。そこで、住民の要望に応えて、棚や下駄箱や、椅子やテーブルや、仏壇の台など、様々な手作り家具を作るボランティアだ。

学生も、私も、ほとんど木工などしたことはない。朝、まず私たちが練習する。活動が開始され、住民の皆さんがやってくれば、みんなで家具を作る。不慣れな学生も、高齢の住民も、一緒に参加する。笑顔がこぼれる。中には、記念だからと言って、学生と一緒に日付を入れている方もいた。

そのお宅によっては、寸法を測り、ちょうど合うサイズに作る。完成後は、記念写真をとってから、ご自宅までお届けし据付ける。

このボランティアのアイデアは秀一だ。今回が3回目だったそうだが、毎回多くの人が以来に来る。住民のニーズにあった活動だ。ボランティアの学生は、ど素人だが、参加できる。住民の皆さんも、ただ作ってもらったものではなく、一緒に作るから、愛着も湧く。みんなが共に参加できる活動だ。

材料集めや難しい部分は事前に整えられている。ボランティアの中には、木工に詳しい人もいる。だから、不慣れなボランティアや、一般住民も、楽しみながら木工に参加し、作品を完成できる。

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明るく元気に笑っていた高齢住民の家に、完成品を運び入れた学生。仮設住宅の中で、お茶をご馳走になった。この半年の生活を、涙とともに語ってくれたという。

「話ができて良かった」とおっしゃっていたと、学生から聞くことができた。

感傷的にならず、笑顔で元気で前向きな人々に共感したい。同時に、ただにぎやかなだけでなく、悲しみと不安を語る人々に共感したい。

■自己満足とボランティア

訪問中に、レクチャーも受けた。その中で、学生たちは自己満足でしかないボランティの話が心に残ったようである。

どこの被災地にも、ニーズもないのに、自分の得意分野を生かしたいという人が来るらしい。これは、熊本ではなく東北で聞いた話だが、ギターを弾いて歌っていた人のギターが、怒った被災者によって壊されたこともあったという。

益城町災害ボランティアセンターの「よくある質問」には、次のようにあった。

Q.資格(技能)を持っているのですが、それを活かしたボランティアができますか。

A. 2016年8月以降は団体ボランティアの事前受付を中止しています。一般のボランティア同様、当日、一般のボランティアのみなさんと同じように受付をお願い致します。

今回の学生たちは、私の勤務校新潟青陵大学で臨床心理学を学ぶ大学院生たちだったのだが、ある災害心理学者は、災害現場に行こうとしている心理臨床家に次のように言っている。

「名札をはずせ、白衣をぬげ、一緒に冷たいおにぎりを食べろ。そして、そこで、あなたの心理臨床家としての知識と技術を活用しろ」。

歌でも、カウンセリングでも、その他の才能や技術も、大いに活用できることもあるだろう。ただし、ニーズに応じて、状況次第で、柔軟に活動したい。

ただ、それでは素人の私たちが災害ボランティアに行くこと自体が、自己満足ではないのだろうか。たしかに、わがままで邪魔になるだけのボランティアなら、そうだろう。

しかし、いくらかででも何かができて、少しでも喜んでもらて、その上で自分も満足しているなら、それはただの自己満足ではない。それは、「ボランティア」だと言えるだろう。と、そんなふうに社会福祉協議会の人に、言ってもらえた。私は、少し胸が熱くなった。

何もできない若者たちが、それでも元気にやって来て、活動する。その姿を見るだけで、笑顔になると語って来る日人々もいる。

「たんぽぽハウス」の玄関に、全国各地から来た災害ボランティアたちの書き込みがあった。その中の一つ。まだ少年の文字だろうか。

「少し、できた」。

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みなさんにご迷惑をおかけしながらも、私たちも少しだけできたかと思う。

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お世話になった全ての皆さんに、深く感謝している。学生たちは、多くのことを学んだ。大学は、費用をかけて学生を現地に送ったが、そのかかった費用以上に、学生たちは多くのことを学んだと思う。本人が学んだだけではない。この体験を、彼らは語り継ぐ。彼らは、熊本が大好きになった。この体験は、彼らの将来の心理臨床に、またいつか地元にも来るかもしれない災害発生時に、きっと役立つ。

新潟市内にて筆者撮影
新潟市内にて筆者撮影
社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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