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科学ニュースと私たち:母の腸内細菌減が子どもの脳に影響?発達障害と関連可能性?:どう解釈し応用するか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■母の腸内細菌減、子どもの脳に影響か 福井大チーム、発達障害と関連可能性:福井新聞ONLINE 1月21日

Yahoo!ニュースに次の報道が掲載されました。

~腸内細菌が少ない母親から生まれた子どもに発達障害が現れる可能性があることを妊娠マウスの実験で示したと発表~

出典:母の腸内細菌減、子どもの脳に影響か 福井大チーム、発達障害と関連可能性 福井新聞ONLINE 1月21日

■記事への反響

この記事はYahooのトップページにも載りましたので、多くの人が読んだことでしょう。この記事には、Yahooコメント欄はありませんが、Facebookで、意見が書き込めます。そのご意見を拝見すると、否定的な意見や心配する意見ががいくつも見られます。

母親を責める姑が出そう、こんなに簡単に発表するべきではない、母親を責めるべきではない、このような報道は慎重に扱うべきだ、母親をさらに追いつめることになる、などなど。

いずれも、子どもの発達障害で悩んでいる母親に対する保護と支援の気持ちからのご意見かと思います。

■発達障害と母親

発達障害を持っているために、とても手のかかる子どもがいます。そのために、親はとても苦労してきました。「親の育て方が悪い」などと非難されたり、外出時に白い目で見られたりすることもあるでしょう。また、自分で自分を責めることもあるでしょう。

しかし、発達障害自体は親のしつけや育て方の問題ではありません。親を責めることは、間違っています。

発達障害の問題以外でも、子どものことで、母親は責められてきました。また、強い自責の念を持つ母親もたくさんいます。

■科学報道

Yahoo!は、この記事を「科学」の分野に入れています。これは科学記事です。上記のような学術発表があったことを報道しています。もちろん、誰も母親を責めてはいません。客観的な科学の話です。

しかし、読者である私たちは、客観的な科学の話なのに、そこに「価値」を持ち込みます。たとえば、生物学の「進化」の話を聞いて、だから人間様が一番偉いのだなどと考えることがあります。また今回のように、科学記事を通して、誰かを責めたり、自分を責めたくなることもあるでしょう。

この研究をした先生も、記事を書いた記者さんも、そんなことは望んでいません。だから、記事中でいろいフォローしています。第一に、まだマウスを使った実験の段階で、詳しいことはわかっていません。

記事の中では、こんな言葉が使われています。

「可能性がある」、「関連性を示唆」、「期待される」、「原因はさまざま、あくまでリスクの一つ」、「脳の発達に腸内細菌がどう関与するかは不明」。

このような控えめな表現です。たとえ控えめな表現を使っていなくても、科学とはそういうものだと、理解する必要があります。私たちには、正しい科学リテラシーが求められています。

■科学報道と私たち

そうはいっても、やはり傷つく人はいるでしょう。あるいは逆に、ヨーグルトが良いと聞けば、ヨーグルトばかり食べる極端なことをしてしまう人もいます。

この記事は違いますが、記者の中には、派手に書きすぎてしまう人もいます。まだまだ基礎研究の段階なのに、「ガンの特効薬発見」かのような雰囲気の記事になってしまうこともあります。

ある研究者さんとテレビ番組に出演したとき、その研究者さんは「人間の○○は○○だということが科学的に判明した」と断言していました。私は気になたので、出演後に自分で調べてみました。すると、その研究はまだマウスの段階の研究でした。人間に関しては、まだまだわからないと思います。

これは、報道ではなくバラエティー番組の出来事ではありましたが、断言された発言を信じる人もいるでしょう。テレビでは、回りくどい専門的な説明は嫌われ、シンプルに明言する人が好かれます。他のメディアでも、そのような傾向は否定できません。

もちろん、専門的な話をわかりやすく話すことはとても大切です。私も努力しています。ただ同時に、わかりやすく話す時には注意も必要です。

■報道してはいけないのか:科学報道の活用

それでは、科学ニュースを報道してはいけないのでしょうか。そんなことはないと思います。まだ応用段階ではないとしても、今このような基礎研究が行われているという報道は意味があります。しかし、発達障害のやガンのように、私たちの関心が高いテーマの報道こそ、配慮が必要でしょう。

そして私たち自身の、科学を見る目や報道を見る目を養うことも大切なことでしょう。

今回の発達障害と母親の腸内環境に関する記事を読んで、母親を責めるのは完全に間違っています。お母さん自身がご自分を責める必要もありません。ただ、科学記事としてはとても興味深い記事だと思います。

そして、まだ詳しいことは何もわからないけれども、日ごろから腸内環境を整えましょうと思うことは、極端なことをしないかぎりは、良いことでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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