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「THE W」準優勝、注目の女性コンビ「はなしょー」が明かす葛藤

中西正男芸能記者
「はなしょー」の杵渕はな(左)と山田しょうこ

昨年12月の日本テレビ「女芸人No.1決定戦 THE W」で準優勝した「はなしょー」。杵渕はなさん(26)と山田しょうこさん(32)が2012年にコンビを結成し、女子の気持ちを描いた“乙女コント”で実績を積み上げてきました。「我が家」、サンシャイン池崎、「四千頭身」らワタナベエンターテインメントの所属芸人によるお笑いバトル「AbemaTV presents ワタナベお笑いNo.1決定戦2020」(2月17日午後7時から同局で放送)にも出場。まさに注目度が急上昇中ですが、そこに至るまでには対照的な二人ならではの葛藤、そして、先輩芸人からの支えがあったと言います。

対照的な道のり

 山田:私はもともとお笑いには全く興味がなかったんです。

 学生時代も部活と勉強ばかりで、お笑いをほとんど見てなくて、何とか周りの友達の会話についていくために、かろうじて、芸人さんの顔と名前だけは一致させているというくらいで。

 そんな感じで大学(早稲田大学)を出て、外食チェーンの会社に就職したんです。マネージャーとして店舗に出てたんですけど、たまたまその店舗にアルバイトとして芸人さんが多く来てくれていて、その人たちの舞台を見に行ったりもするようになりまして。

 ちょうどその頃、自分の仕事に疑問を感じているというか、自分はこの仕事で本当に人を幸せにできているのか。そんな思いがずっと頭にあったんです。

 そういう思いを抱えて劇場に通うようになると、より、考えるようになったんです。自分が考えたネタをやって、みんなを笑わせて、楽しませて…という芸人さんの姿を見て、これは100%良い仕事だなと思いまして。

 自分もそこに行きたい。ただただその思いで、会社を辞めて、ワタナベエンターテインメントの養成所に入ったんです。

 杵渕:私は相方とは逆に小さい頃からお笑いが大好きだったんです。幼稚園の頃からあらゆるバラエティー番組を見て、小学校に入ったら長州小力さんのモノマネで笑いをとって、みたいな子だったんです。小学校の卒業文集にも「芸人になりたい」と書くくらいでした。

 ただ、中学生になると、ま、思春期ですし、色気づいて気恥ずかしさもあるし、多少は大人に近づくので現実的な方向に物事を考えるようにもなって、芸人になりたいという思いはなりを潜めていたんです。

 そこから高校に入ったんですけど、なかなか友だちができないことなんかが重なって、2年の時、人とうまくコミュニケーションが取れなくなってしまい。3カ月間引きこもり生活をした末に、高校を中退したんです。

 このままじゃダメだ。何もかも終わってしまう。子どもながらにそんな思いがあったんですけど、じゃ、何をしたらいいのか。そこで思い出したのが「あ、もともと、自分は芸人になりたいと思っていたな」ということだったんです。

 多くの人が歩む道からはフェードアウトした。だったら、本当に自分が好きなことをやってみよう。そう思って、そこからアルバイトを1年半やって、お金も貯めて、19歳の秋に養成所に入ったんです。

互いへの思い

 山田:高校を途中で辞めて、社会人経験もないので先輩との話し方も分からないし、イベントで受付のお手伝いをするにしても対応の仕方が分からない。最初、会った時はそんな感じの19歳だったんですけど、そこから26歳まで成長する姿を見てきて、保護者みたいな感じにもなりましたね(笑)。

 ただ、私は私で、芸人の世界やノリみたいなものを全く知らなかったので入った頃はなにもかもにカルチャーショックを受けました。

 男の子の同期なんかが「ナンパも芸の肥やし」みたいな感じで暮らしているのも驚きましたし、養成所時代にもライブをやるんですけど、そこでいきなりMCの人から「自分の顔、どれくらいのレベルやと思う?“下の中”やで!」と言われたり。

 そういうことを真正面から言われたことがそれまでの人生ではなかったので、それもすごく驚きました。ただ、今は7年この仕事をやってきて、当初の感覚もまだありますけど、新たな回路がしっかりできたというか、ウソがない世界ということに、すごく居心地の良さを感じるようにもなりました。

 もともと、はなちゃんと組んだのも、いろいろな個性を持った同期がいる中、はなちゃんが一人で小道具を作って一生懸命ネタをやっている姿にやられちゃったんですよね(笑)。

 そこで、私から声をかけてコンビを組んだんですけど、ま、はなちゃんも組んでからは遅刻はするし、いろいろと「あんたもか!」と思うところもあったんですけどね(笑)。

 杵渕:相方はしっかりした仕事を捨ててまで芸人になったという覚悟を持って入った人なんですけど、私は逆に何もないところから「何かしなきゃ」という思いからこの世界に入ったので、最初は遅刻もしたし、意識は低かったと思います。

 でも、ライブでスベったら本当に悔しいし、なんとか悔しくないようにしたい。そのためにはまじめにネタと向き合わないといけないし、もちろん遅刻をしてる場合じゃない。

 当たり前のことなんですよ。でも、相方は本当にまじめなんで、そこに触発されてやっていくうちに、少しずつ結果が出て、自分の意識が変わっていったと思います。

 お客さんに楽しいと思ってもらうのが自分の職業で、自分はそれをやりたいと思っている。それを続けるには食べていける状態を作らないといけない。食べていくにはお仕事をたくさんもらわないといけない。たくさんもらうためには賞レースで結果を出さないといけない。出すためには強いネタを作らないといけない。

 そんな風に逆算というか、考えていくと、今日、今、やらないといけないことが見えてくる。自分がそんな考え方になるとは思ってなかったので、そこは純粋に自分でも驚いてます。

 私はしょうこと組んで本当に良かったと思っています。私がだらしない部分があるので、私はしっかりした人と組まないとちゃんとできない。相方がしょうこだから、ここまで何とかやってこられた。本当にそう思います。ありがたいことだなと。

 山田:改めて、そう言われると、これはこれで気恥ずかしいというか…。

 杵渕:ただね、めちゃめちゃキレられたこともありますよ。養成所の時、一緒にお昼を食べてたんです。

 私はお金がなくてコンビニで安いパンを買って、しょうこはパンよりはかなり高い唐揚げ弁当を食べてたんです。唐揚げが5個入ってたんですけど、そこで私がふと「唐揚げ1個ちょうだい」と言ったら、そこでブチギレされまして(笑)。

 「これは私がアルバイトで稼いだお金で買った唐揚げだ!それを何の苦労もせずにもらえると思うな!」と。

 確かに言ってることは間違いないんですけど。あまりにもキレ具合が凄まじくて、今でもしっかりと明確に覚えています(笑)。

 山田:ま、確かにそんな感じでしたけど(笑)、その時が人生で一番お金がない時期でして。養成所の授業料を払って貯金もなくて、いつもは安い食パンに塩コショウをかけただけの食事をしてたんです。

 そんな中、やっと何とか買った唐揚げ弁当。そこに、事も無げに「1個ちょうだい」。それがどうしても許せなかったんです!

 杵渕:今思うと、申し訳なかったと思います。でも、でも、あの怒り方は…(笑)。

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恩人との出会い

 山田:いろいろありましたけど、ここまでやってこられたのは、本当に人に恵まれたというところが大きかったと思います。

 中でも、本当にお世話になっているのが、事務所は違うんですけど本当にかわいがってくださっている(女性コンビ)「ニッチェ」さんでして。

 杵渕:私は引きこもっている時に、夜中にニッチェさんのネタを見て「スゲェ人たちがいるんだなぁ」と。心がボロボロの時でも、心底面白いと思えた。そうやって憧れで見ていた方々だったので、しょうこと養成所時代にお二人の単独ライブを観に行ったんです。

 山田:はなちゃんと中目黒でやってらっしゃったライブを観に行ったんですけど、本当に面白かったし、すごいなと。いつかこんな方々と一緒に仕事がしたい。そう思ってやっていたら、なんと、私たちが初めて「THE W」の決勝に進出した2017年、そこで対戦することになったのが「ニッチェ」さんだったんです。

 杵渕:そこからご飯に連れて行ってもらったりするようになったんですけど、深夜にテレビで見て憧れていた方が横にいる。これはかなり不思議な感覚です(笑)。

 山田:先日(ニッチェの)近藤さんに二人だけでご飯に連れて行ってもらったんです。

 実際にお会いした時も周りに振り回されず、自分たちの面白いことをやり続けているカッコよさもあって。テレビもしっかりやりながら、自分たちが思うネタもやってらっしゃる。憧れですね。今年もお年玉もいただきました

 昨年12月の「THE W」で決勝に行った後、ありがたい話、ロケのお仕事なんかもいただくようになったんです。それはありがたいことなんですけど、そこが私にとっては悩みで。

 ネタはしっかりとライブでかけて練り上げてきたんで自信があるんですけど、普段のトークとかロケというのは自信がなくて。そこを近藤さんに相談させてもらったりもしました。

 近藤さんも相方の江上さんを支えてきた方なので、この上なく、現実的なアドバイスをいただきまして。

 もっとはなちゃんが自由に素のリアクションができるように、私がもっと技術を身につけて、振り回したり、圧をかけたりしながら、はなちゃんに素のリアクションをとらせて、そこに私がつっこむのか、大笑いするのか。

 そんな感じで、本当にリアルなアドバイスをいただきました。そして、お年玉もいただきました(笑)。そして、そして、今日来ている服もいただきました(笑)。

 杵渕:本当にお世話になってますし、恩返しというわけじゃないですけど、今年は「キングオブコント」で決勝に行きたいと私は思っています。まだ女性コンビで行った人はいないので、なんとかそこにたどり着きたいなと。

 山田:今年でいうと、これは昨日決めたことなんですけど、私は痩せます(笑)。今年33歳になるんですけど、代謝が落ちてきたのか、何もしてないのに太ってきて。このまま太り続けると、普通の役ができなくなるので、トレーニングが得意な先輩芸人さんに相談をして、1日1500キロカロリー以下に食事を制限しながら、少しずつ痩せることを目指しています。

 養成所時代から10キロ増えたんです。過去最高に今太ってまして。ま、私の体型事情、どこまで皆さんが興味あるか分かりませんが(笑)、密かに頑張ってみたいと思います。

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(撮影・中西正男)

■はなしょー

1993年5月24日生まれの杵渕はなと、87年6月11日生まれの山田しょうこのコンビ。ともに埼玉県出身。ワタナベコメディスクール17期生として出会い、同スクール在学中の2012年にコンビ結成。最初ピンでやっていた杵渕の一生懸命な態度に、女性コンビを組みたくて相方を探していた山田が惚れ込み、結成を持ち掛けた。ネタは「乙女コント」と言われ、女子学生の恋話や友達などに対する嫉妬、勘違いした気持ちなどを表現しネタが多い。17年「THE W」で決勝進出。19年に決勝進出し準優勝する。「我が家」、サンシャイン池崎、「四千頭身」らワタナベエンターテインメントの所属芸人によるお笑いバトル「AbemaTV presents ワタナベお笑いNo.1決定戦2020」(2月17日午後7時から同局で放送)に出場する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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