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会社を辞めた後、裁判で損害賠償請求される!・・ってありなんですか?

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
(写真:アフロ)

「退職後の労働者へ損害賠償請求」ってあり?

会社を精神的不調を理由に退職したところ、会社が退職した労働者に、約1200万円の損害賠償を請求して提訴してきました。

この事件については、私が労働者側の代理人として関わっており、先日会社にカウンターで損害賠償請求(反訴)を提起したことが、記事なり、ネット上で盛り上がっています。

詳しい報道は、こちら(毎日新聞の報道)をご覧下さい。

「無し」です!

この報道された事件。

私は、会社の損害賠償請求が認められることはないと思います。

*私はあくまで、一方当事者である労働者側の弁護士でので、先入観のあるコメントとして以下お読み下さい。

認められないと考える理由ですが、極めて単純。

会社が損害賠償請求する理由は

「詐病を主張することで労働者が会社を欺き一方的に退社した」

というもの。

でも、仮に「詐病」でも、「欺」いても、「一方的」でも、

労働者は退職する自由がある!(争い無し)

のです。

会社は、どの労働者は採用するのか、採用の自由があります。

他方で、労働者は、どの会社で働くのか職業選択の自由があり、会社を辞める自由があるのです。

要するに、労働者は、

どんな理不尽な理由でも会社を辞められる

辞めるのに理由は不要(契約期間の定めがない契約の場合)

のです。

だから、仮に百歩譲ってこの労働者が仮に「詐病」でも、「欺」いても、「一方的」でも、労働者は退職する自由があり、このように退職したことだけを理由に損害賠償請求が認められるなど考えられないのです。

みなみに、この労働者は実際に詐病ではないし、退職前に医師の診断書も提出もしています

もともと、精神的な不調を抱えていたのに、会社からの1200万円もの損害賠償請求をうけ、心身共に追い詰められ、40日間精神病院に入院しなければならななくなり、現在も医師から就労を禁じられる状況で、社会生活にも不自由を強いられています。

こういった会社の狙いは?

近時、会社が労働者に損害賠償請求をしてくる事案が増えてきました。

ですが、裁判まで起こしてくるケースは、まだまだ多くありません。 

正直なところ、会社が提訴までした理由は分かりません。

このような会社の請求が裁判所で認められないことは、明白だろうと思っています。

にもかかわらず、なぜ提訴したのか。。。

会社の側においても、基本的なワークルールの知識不足が原因の可能性もあります。

それ以上に、当たり前の使用者としてのモラルの欠如が問題かもしれません。

少なくとも、この裁判を起こされたことで、労働者は極限状態まで追い込まれました。

こういった被害が生じた実態は、見逃すことはできません。

二度とこのような被害をうまないように、そんな思いで、この労働者は反訴を決意しています。

会社からの損害賠償請求→支払う前に相談を

今回のケースの様に、会社が労働者に請求する事件が増えています。

労働者の側にも、何かしら後ろめたい気持ちがある場合もあります。

そんな場合、ついつい、請求に応じてしまうという可能性もあります。

ざっくと言ってしまえば、

労働者が会社に対して損害賠償を支払うケースは極めて限定的

です。

最後は個別の事案ごとに結論がでるわけですが、会社の労働者に対する請求が認められるケースは、そうそうあるわけではないのです。

ですから、請求されて困っている場合には、まずは労働側の弁護士や労働組合にご相談下さい。

例えば、私の所属する以下の弁護団では、無料の法律相談もやっています。

日本労働弁護団

ブラック企業被害対策弁護団

皆さん、くれぐれも泣き寝入りしてはダメですよ。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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