氷川きよしさんのKiina商標登録問題に重要な動き
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昨年の8月に「氷川きよしさんは所属事務所によるKiinaの商標登録を阻止できるのか?」という記事を書いています。マネジメント事務所からの独立が予想されていた氷川きよしさんの愛称(かつ、当時は新芸名になるのではと考えられていました)であるKiina(および、KIINA)を、事務所が商標登録出願していたという件でした。
その記事では、「他人の著名な芸名」(商標法4条1項8号)として、氷川きよしさん本人の承諾書がなければ登録できないのではないかと書きました。そして、先日、文春オンラインの記事で知りましたが、この出願には「公序良俗違反」を理由とする拒絶理由通知書が出ていました。
最近の商標登録出願の審査経過は特許情報プラットフォームで無料閲覧できるはずなのですが、なぜかこの件(Kiina(商願2023-059092)とKIINA(商願2023-059093))は閲覧できないので、料金(600円)を払って特許庁から資料を取り寄せてみました(なお、文春オンラインの有料部分は読んでおりません)。
文春オンラインの記事を読んだときには、拒絶理由が「他人の著名な芸名」(商標法4条1項8号)ではなく「公序良俗違反」(商標法4条1項7号)とは意外と思いましたが、実際はその両方が理由になっていました。
「公序良俗違反」というと猥褻とか反社会的とか、何か大げさなイメージがありますが、商標の審査においては、登録してしまうと業界秩序的によろしくないが、法文上他に適切な拒絶理由がない場合に「伝家の宝刀」的に使われる拒絶理由です。たとえば、歴史上の有名な人物の名前(たとえば、織田信長)を出願すると「公序良俗違反」として拒絶になり得ます。
単なる憶測ですが、特許庁の審査官としては「他人の著名な芸名」をメインとしつつ、念押し的に「公序良俗違反」も理由として挙げたように思えます。商標権でタレントの独立を妨害することは商標制度の濫用であり許容しがたいという考えなのかもしれません。
拒絶理由通知の文書ですが、「公序良俗違反」の方では、「文春オンライン」「日刊ゲンダイDIGITAL」「Yahoo!ニュース」「サイゾーウーマン」の記事を引用して、
氷川きよし氏が歌手活動を休止しているなか、出願人が独立阻止のために商標出願を行ったという記事が確認されることから、出願人には、不正の目的をもって本願商標の出願に至ったことが推認されます。
そうすると、本願商標の出願経緯に社会的相当性を欠く事由が認められ、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するおそれがあるといえます。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当します。
としています。
また、「他人の著名な芸名」では、いくつか証拠記事を引用しつつ、
歌手の氷川きよし氏の芸名として著名な「Kiina」の文字よりなるものであり、かつ、その者の承諾を得たものとは認められません。
したがって、本願商標は、他人の著名な芸名からなる商標であり、商標法第4条第1項第8号に該当します。
としています(こちらは予想どおり)。
なお、旧事務所側がこれに対して異論があるのであれば、氷川きよしさん本人による承諾書を提出すれば両方の拒絶理由が解消するのですが、少なくとも現時点では承諾書は出ていません(4月24日に意見書が提出されているのですが、方式審査未完により現時点では(有料でも)閲覧不可になっています)。この出願はこのまま拒絶されるのではと思います。なお、余談ですが、文春等の記事では「却下」と書いてますが、却下は料金未納等で手続そのものが受け付けられないことを指し、審査を経て商標登録できないとされた場合には「拒絶」と言います。