築地仲卸の総代選で8割以上が「豊洲移転延期」派に
11月7日に迫った築地市場(中央区)の豊洲(江東区)移転を巡り、8月26日に行われた水産仲卸の東京魚市場卸協同組合(東卸=伊藤淳一理事長)の組合員を代表する総代選挙で、「移転延期」派が多数を占めたにもかかわらず、小池百合子東京都知事の元には、定例会見の直前、都庁職員から「現理事」の情報として「移転延期は少数」という真逆の報告が行われていたことが明らかになった。
知事サイドではこの報告時点ではすでに、新しい総代の8割以上が「移転延期」派だったことをつかんでいた。そのため、小池知事も「なぜ、都庁から上がってきた情報が違うのか」と再度、現場の複数の仲卸から正しい情報を得た上で、知事サイドが事実関係の調査を始めた。
結局、小池知事は今回の総代選挙の結果にも後押しされる形で、改めて移転延期の意向を固めた模様だ。
会見の直前、小池知事に都庁から真逆の報告
東卸の総代選挙は8月10日に候補者の届け出を締め切り、定数86人に対して105人の届け出があったものの、その後、19人が辞退。26日、86人が無投票で当選した。
東卸理事で「三浦水産」の三浦進社長らのグループが、総代選挙当選人リストを基に分析したところ、86人のうち「移転延期」派とみられる総代は「少なくとも69人」、「不明」が10人余りで、「11月7日移転」を求める総代は「数人」とみられると推計する。
「現場で働く人は、移転延期を求める声が多いことがわかったということです。不明の総代の中にも移転延期を望む人たちがいますので、実数はもっと多いです」(三浦社長)
ところが、知事の側近によると、26日の定例会見の直前に、「現理事から聞いたところによると、総代選挙の改選があって、86人中“移転延期派”は13人で、他の73人は“11月7日移転派”です」などと真逆の報告が上がってきたという。
「なぜウソの報告の上げさせたのか。現理事とは誰なのか。今まではウラを取る人がいないから、そのままで終わっていたのかもしれない。また、現理事に聞いた話を伝えただけだから、役人としては責任がないことになる。情報戦だから、おそらく今までもこういうことをやってきたのだろう。こうして上げた情報がそのまま事実になってきたのだろうが、見過ごせない問題だ」(知事側近)
総代は、11月から新しく替わり、来年1月には総代3人が推薦する理事選挙で29人の理事を選出。新理事による初理事会で、新しい理事長が生まれる。
「腹の中は、みんな移転反対。(移転を進めてきた)伊藤理事長は変わることになる。8:2で推進派が勝ったという間違った数字を誰がどういう経緯で流したのか、いま皆で調べているところだ」(当選した総代の1人)
都の中央卸売市場の広報担当に事実関係を確認したものの、「その辺の事実関係については把握していない」という。
また、東卸組合の伊藤理事長にも見解を聞こうと、組合や自宅に電話したものの不在で、FAXで質問を送ったものの、27日朝までに回答は届いていない。
豊洲の新しい施設はドンガラ
「豊洲」の用地は、開場日に設定された11月7日の時点でも土壌汚染対策法に基づく2年間の地下水モニタリングが継続中で、汚染物質の除去がまだ確認されていない「汚染区域」である「形質変更時要届出区域」が解除できない。土壌汚染対策法上では、この汚染区域を解除するためには、もし1カ所でも基準が超えれば、再度汚染対策を講じた上で、さらにそこから2年間のモニタリングが必要になる。小池知事が定例会見で「結果が出る前に、日程をお構いなしに決めてしまう、これまでの当局の対応はいかがなものか」と疑念を示したのも、このためだ。
また、「豊洲」の整備費は、11年3月当時の3926億円から推計5884億円に膨らんだ。都民に情報が知らされないまま、経費だけが膨らんでいく構図は、あの「新国立競技場」にも似ている。
しかも、これほどカネをかけたのに、「トラックが横付けできない」「1tの水槽を持ち込めない」「店舗の間口が狭い」「ヘアピンカーブが曲がれない」など、現場で使う側からの悲痛な声が次々に聞こえてくるのはなぜなのか。
「オリンピック・パラリンピックの予算が膨れ上がる問題と同じ。豊洲の新しい施設は、言ってみればドンガラなわけですよ、あれは。それに何千億もかけるんですか?というのは、都民として普通の疑念だと思うんですね。だからこそ、立ち止まると言ってるんです」(小池知事)
ドンガラとは、名古屋や四日市、大阪などの方言で、「銅殻」「中空」「図体ばかり大きい」という意味に使われるようだ。
この「仲卸ファースト」「ブラックボックスの透明化」の姿勢は、「豊洲」問題を役人任せにして、ずっと放置してきた舛添要一前知事とは明らかに違う。
小池知事は、月内にも臨時会見を開いて、移転延期についての方針を明かす予定だ。