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「誇らしい最下位」「100年ぶりの挑戦」五輪初出場のラグビー韓国代表が日本に残した“足跡”

金明昱スポーツライター
11-12位決定戦の日本戦でトライを決める韓国選手(写真:ロイター/アフロ)

 東京五輪での“日韓戦”となればどの競技でも燃えるものだが、個人的に注目していたのが、28日に東京スタジアムで行われた11-12位決定戦の日本対韓国代表の7人制ラグビーだった。

 前回のリオ五輪で4位の日本が今大会は1次リーグで3連敗を喫するなど準々決勝進出を逃していた。

 一方の韓国は五輪に出場すること自体が初めてということもあり、1次リーグではニュージーランドに5-50、オーストラリアに5-42、アルゼンチンに0-56、9-12位決定戦でアイルランドに0-31と敗れていた。

 そして迎えた最終戦の日本との対戦では、19-31で惜しくも敗れた。もっとも、アジア最強の日本を相手にどれだけトライを奪えるのかを見ていたが、試合開始46秒でトライとゴールを奪ってリードしたことに驚きを隠せなかった。

 その後は一進一退の攻防が続いたが、追いつかれたあとは徐々に日本に押される展開となり、最後は19-31で敗れた。

全敗での最下位。実力通りの結果だが、最終戦で日本に善戦した韓国にとっては意義ある敗戦だったともいえる。

 というのも、韓国がラグビーで“五輪”に参加すること自体が初めて。2019年11月のアジア予選では、香港に逆転で勝利し、初めて東京五輪出場の切符を勝ち取った。

 つまり、韓国ラグビーにとっては歴史的一歩となったわけだ。母国メディアもその意義を強調している。

「誇らしい最下位、韓国ラグビーよく戦った!」(毎日経済)

「韓国ラグビーが五輪本大会に出場したのは、1923年にラグビーが国内に導入されてから約100年ぶり」(アジア経済)

「韓国代表、日韓戦で惜敗…挑戦自体が美しい」(ヘラルド経済)

 どれも韓国ラグビーが「新たな一歩を踏み出した」と伝えている。

 欲を言えば1勝がほしかっただろうが、今後の五輪の新たな目標となったはずだ。

底上げが難しい韓国ラグビーの現状

 韓国にラグビーの実業団チームは、現代グロービズ、ポスコ建設、韓国電力公社のたった3つしかない。もう一つ、「国軍体育部隊」のいわゆる軍のラグビーチームが存在する。

 この4チームが年間で争う「コリアンラグビーリーグ」が2018年、大韓ラグビー協会主導の下、新たに導入された。

 ただ、実業団1チームの選手保有数は23人と制限がああったり、試合数も圧倒的に少ない。大学ラグビー部も4つ(延世大、高麗大、慶煕大、檀国大)しかないのが現状だ。

 実業団チームが抱えられる選手数が決められているため、大学卒業後もラグビーを続けられるのはごく一部に限られる。

 全体的な実力の底上げが難しいと言われるなかで、今回の東京五輪出場が「挑戦することに意味がある」と言われる所以だ。

 ちなみに2019年に日本で開催されたラグビーW杯に韓国が出場していないこともあり、当時韓国では開催されていることを知らない国民がほとんどで、日本代表に具智元(神戸製鉄)がプレーしていることも報じられていなかった。ラグビーへの関心の低さに驚いたものだった。

 ただ、東京五輪でラグビー韓国代表のニュースは連日報じられており、母国での関心も大きく高まったに違いない。今後の五輪で歴史的1勝を期待したいものだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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