フェミニズムとIS問題
『ザ・レフト』という本でジュリー・バーチルというライターのことを書いた。この人はUKパンク世代ライター(要するに50+)の女王的存在である。で、彼女が昨年11月22日にSpectator誌に発表した記事を最近ずっと思い出していた。以下は抄訳。
ジュリー・バーチルは、ミリタリー系フェミニストを自称するコテコテの男女同権主義者だ。が、わたしの周囲でも英国の女性(&同性愛者)はたとえアナキスト系の人でもISIS側に寄り添うようなことは言わない。というのも、やはり「ISISは拉致してきた少女たちを倉庫に押し込め、3人ずつ呼び出してはレイプしている」だの「同性愛者たちをビルの上から突き落として『処刑』している」だのいうニュースを読むと、「彼らの気持ちもわかるわあ」という方向には行かないからだ。
ここまで来ると、いかにもジュリー・バーチルらしいコントラヴァーシャルなアマゾネスの筆致になってきた。
UKでもここまではっきりと書く女性ライターは珍しい(半隠居の身のバーチルがこういう記事を書いたということは、よほど怒っているのだろう。実際、彼女はにわかに復活モードに入りつつあり、ISISと女性に関する火炎ビンのような記事を書き始めている)。
バーチルは男性たちに噛みついているが、実は女性だってそれほど違わないと思う。左派の女性ライターたちは、だいたい「ISISの理念とイスラム教は別物だからムスリム差別はやめましょう」みたいなことを書いてそこで停止する。ISISへのアンチ感情をストレートに表現するのは左翼としていかがなものか。みたいな空気があるからだろう。
が、ISISが組織文書で兵士たちに9歳以上の女子と性交することを公然と許可し(捕捉されたらレイプされる前に自殺する少女たちが続出しているという報道もある)、バス停で赤ん坊に授乳していた女性の乳房に拷問具が突き立てられ、同性愛者の次は高学歴の女性たちを『処刑』対象にするとISISが宣言している時に、同じ女たちが目を瞑り、耳を塞ぐのはなぜだろう。彼女たちは自国民ではないのでスルーすると言うのなら、フェミニストとはまたずいぶんとナショナリストだ。
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怒った女性は米国にもいた。エリーズ・コリンズ・シールズとジル・コヤマが米版ハフィントン・ポスト2014年9月19日付『ISIS, Torture and World Silence About Women』で嘆いている。昨年の9月と言えば、2人の米国人と1人の英国人がISISに殺害された後で、この問題への関心が高まっていたときだった。
彼女たちは同記事の第一パラグラフで、人質が斬首されたことに人々が激怒し国内外で様々なリアクションが起きている様を淡々と書き綴る。そして言うのである。
自国の人質問題には堂々と怒りを表明できても、異国の女性たちの想像を絶する受難には同性の人間ですらあまり怒りを示さないということだろう。シスターフッドは国境も民族も超えるのかと思っていたが、わりと限定的なものらしい(そういえば、それはなかなか階級も超えられない)。
女はまあ闇雲に(外に向かっても内に向かっても)竹槍を突き上げる衝動的な生物ではない(と信じたい)が、そういう攻撃的ヒステリアではない方向で、「彼女たちを難民として我が国に『積極的に』受け入れましょう」というどっしりとした合唱が、シスターズの間から突き上がって来てもいい頃だ。