スタージョン首相が英国民に呼びかけ:「ブレグジットが嫌なら、スコットランドにいらっしゃい」
「北の赤いライオン」ことスコットランドのニコラ・スタージョン首相が、SNP(スコットランド国民党)の春の党大会で、英国のブレグジット反対派の人々にスコットランドへの移住を呼びかけた。
スコットランド首相の不敵なスピーチ
スコットランド独立をめぐる二度目の住民投票実地を要求したスタージョンは、党大会の党首スピーチでこう言った。
喋っている途中で3回もスタンディングオベーションが起きた迫力あるスピーチだった。テレビで演説の様子を見ていたが、「今しかない」というような、ただならぬ光が彼女の瞳に宿っていた。が、独立を狙うどころか、志を同じくする英国人はスコットランドに引っ越して来いと言っているのだから、さすがにニコラ・スタージョンは大胆不敵である。
しかし、独立は本当にそんなに追い風なのか
EU離脱をめぐる投票では、スコットランドの人々の62%が残留を望んだ。
ならば、ハード・ブレグジットの方向に進んでいる英国からは独立したがっている人が増えているだろうと思いきや、実は先週の世論調査の結果でも、独立派と残留派の数字は51%対49%と拮抗している。つまり、ブレグジットは嫌だけど、英国からの独立からも嫌だという人々がけっこういるということだ(ちなみに、英国民全体の調査でも、「スコットランドは独立したほうがいいと思うか」の答えはイエスとノーが同じように拮抗しており、英国の半分の人々は「スコットランドが独立してもかまわない」と思っていることになる)。
また、スコットランドの独立を他のEU加盟国がどう思っているかというのも微妙なところだ。カタル-ニャという火種を抱えたスペインのアルフォンソ・ダスティス外相は早速こんなことを言っている。
スコットランドがEU残留を訴え、英国政府に反抗してくれるのはウェルカムだけど、独立云々を言い出されると、うちの国にもそういうことを狙っている地域があるからやめてほしい。ということだろう。
女性指導者たちのバトル
テリーザ・メイ首相は、スタージョンの住民投票再実施の要求に対し、「いまはその時期ではない」と肘鉄を食らわせ、ブレグジットのプロセスが終わるまでの延期を望むことを示唆した。この2人の女性指導者たちの戦いは、「ザ・バトル・フォー・ブリテン」という見出しで伝えられ、ヒョウ柄のハイヒール(メイ首相のトレードマーク)がタータンチェックのハイヒールを踏んでいるイラストを使ったメディアもあった。
メイ首相にしてみれば、2019年の春までには住民投票を再実施したいというスコットランド側の要求を飲むわけにはいかないだろう。たとえ「拒否すれば傲慢な独裁者のように見える」というSNP側の思惑に自らはまることになろうとも、「日和見主義者」と呼ばれてきた自分の「ハード・ブレグジット」という一世一代のギャンブルをスコットランドに邪魔させたくないと憤っているはずだ。「ブレグジットはゲームじゃないのです」という言葉にそれが滲み出ている。しかし、ここで重要なのは、メイは二度目の住民投票にダメ出しはしていないということだ。
これを受け、スタージョンは、2019年の春よりも数カ月延期するぐらいなら構わないと譲歩している。が、メイが望んでいるという2021年実施はあり得ないと主張している。「彼女が2019年の春、私が提案した時期よりも少し延期することを希望しているのなら、話し合いの余地はあると思います」と言っている。
しかし、そこは強気の火の玉ファイター、スタージョンである。ツイッターではビッチ性を発揮してメイにキツい一撃をかました。「メイ首相はまだ誰にも選出されたことがありません」と書き、彼女が率いるSNPは選挙で大勝したが、前回の総選挙では保守党の首相はメイではなかったし、保守党はSNPほどの圧勝はおさめていないことをほのめかした。
保守党内では早期に解散総選挙を行うべきという声が高まっていると報道されており、5月4日という具体的な総選挙の日にちも噂されているが、これなども、「メイはスコットランドのスタージョンに『私も選挙で大勝したわよ』と言うためにやるんじゃないか」とニュース番組で言っていた識者もいる(実際、労働党がいまだゴタゴタと揉めている状況では、本当にいまやれば大勝する可能性が高い)。
「我ら」と「彼ら」の問題
こうしたニュースが日々報道されるなかで、最近、周囲の英国人たちが言い出しているのが、「どうしてイングランドは住民投票で独立を決めちゃいけないんだ?」ということである。スコットランドが自分たちで英国からの独立を決められるのなら、イングランドだって英国という連合から独立したっていいじゃないかというのだ。
こういうことを言う人々が出て来るほど、英国では、独立と離脱、連合の問題がもつれ、何が内向きで何が外向きなのか混沌としてきた。
例えば、よく考えてみれば、スコットランドのEU離脱派で英国残留派の人々は、昨年のEU離脱の投票では「テイク・バック・コントロール」を叫んだくせに、スコットランド独立問題では「テイク・バック・コントロールはダメ」と言っているのだ。
他方、SNP支持者のようなスコットランド独立派でEU残留派の人々は、EU離脱の投票では「オープンな世界を望む」と言ったのに、スコットランド独立投票では「英国から離脱したい」と言っているのである。
そういえば、数カ月前にはロンドン市長のサディク・カーンが、スコットランドのナショナリズムとトランプ現象やブレグジットを比較する発言をし、スタージョンが「とんでもない無分別」と激怒したこともあった。SNPはナショナリズムの脱民族化を図り、市民的ナショナリズムを謳ってきたが、在住地によって人を分けることもまた「我ら」と「彼ら」という分断の構図をつくる考え方には変わりないのでは。という批判の声は労働党の中から根強く上がっている。
「我ら」と「彼ら」の線をどこでどう引くのか。
あるいは、「我ら」と「彼ら」の線は、何を基準にしようとも存在してはならないものなのか。
だとすれば、同じ思想の人々は集結して一緒に住みましょう、も分断の構図をつくることには違いない。
この二、三年、英国の人々は庶民レベルでこの「我ら」と「彼ら」の問題をうんざりするほど考えさせられていて、こう言うのも何だが週末のパブでの会話がやけにディープになってきている。