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難民申請者の財産没収案でノルウェーの極右と他党が対立 孤立する「異色政党」進歩党をあなどれない理由

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
進歩党の事務所で開催された難民セミナー Photo:Asaki Abumi

デンマークの宝石法案がノルウェーで波紋を広げる

26日にデンマーク国会で難民申請者から現金や宝石を没収する法案が可決された。ノルウェーの与党である進歩党は、デンマークに続いてノルウェーでも財産を没収することを求めている。ノルウェーのメディアは同案を「宝石法案」と呼び始めた。

ノルウェー極右政党も難民申請者から財産の強制没収を検討へ 納税者のお金に頼るならまず財産を提出せよ

26日のデンマークからの報道を受け、各政党の政治家は次々と意見を表明しはじめた(国営放送局)。その多くがナチス・ドイツを彷彿させるとして強制没収案には反対している。

首相「強制没収は現実的ではないが、支払う能力がある者はすべての保障が無料になるわけではない」

進歩党と共に与党である保守党では、アーナ・ソールバルグ首相は、ノルウェー通信社NTBを通して、「強制的に難民申請者から財産を没収することは我が国では現実的ではない」として否定している。しかし、首相は同時に「支払う能力がある場合は、すべての保障を無料で受けることができるわけではない」とも強調。

ふらふらする左派最大勢力・労働党

国内で最も高い支持率を誇る野党の左派勢力・労働党も、強制没収には反対しながら、党首は「支払う能力があるのであれば、生活費の一部を負担することは妥当だ。社会保障はそのようにして今日成り立っている」ともしている(国営放送局)。

労働党のヨナス・ガーレ・ストーレ党首の発言が注目を集める理由は2017年の国政選挙で現保守派政権が負けた場合、ストーレ党首が新首相となる可能性が高いからだ。しかし、難民問題においては労働党の立ち位置がはっきりせずにふらついており、各メディアの政治班、党員や支持者、また他党からも「進歩党のコピーか」と非難を浴びている。デンマークの法案可決後、同党首は自身のフェイスブックで「もし進歩党がこのような案を国会に提案したら、労働党は反対する」と投稿した。

保守党や労働党の発言からもわかるように、強制没収はせずとも、支払い能力がある場合はなんらかの形で負担するべきだというのは共通認識としてあることがみてとれる。

「異色」、「非人間的」だと距離を置かれているのに、国民からの支持率を伸ばす進歩党 支持する記者はほぼいない

移民・社会統合大臣(進歩党) Photo:Asaki Abumi
移民・社会統合大臣(進歩党) Photo:Asaki Abumi

進歩党はノルウェーでは政治位置的には、極右となり、「異色な政党」とされている。しかし、その異色な政党が与党であり、国会でナンバーツーの位置にいることがノルウェーの現実だ。進歩党の厳しい移民・難民対策案が、国内や政界で孤立化するというのはこれまでも何度もあった。特にノルウェーのメディア業界では、ジャーナリストや編集者に、進歩党支持者がほとんどいないという調査結果もでているため、報道は極端に批判的になる傾向がある。

だが、昨年より欧州の難民問題が顕著になり始めた頃、進歩党の影響力が強くなった。増加する難民申請者に対して、唯一明確な厳しいルールを提案できたのが進歩党だったからだ。不安になった国民が、一気に進歩党支持者に変わった。「非人間的だ」とラッテルを貼られやすい移民・社会統合大臣も進歩党のリスタウグ氏ほど、精神的にタフでなければ務めることは難しい。

各政党の政策に目を通しても、進歩党だけが突出して移民・難民政策を強く意識してきたことが明らかだ。ノルウェーの規制法案においても、国会の裏でその内容をさらに厳しいものへと推し進めてきたのが進歩党だ。

今月、進歩党の難民セミナーに取材で訪れたところ、党員トビアス・ブレンストゥルム氏が「保守党の移民担当者は対策案に欠けていて、我々に意見を求めてきた。文章をいくつか変更することで、ロシア国境からの入国を厳しくさせることに成功したが、賛成した自由党は、恐らくその小さな変更が何を意味しているのか理解していなかっただろう。自由党が賛成するはずのない内容なのだから。報道陣も、規制案が何を意味するのか理解するのに数週間かかっていた」と誇らしげに語った。

もし進歩党の提案の多くが採用されない場合、「政権から抜ける」と合意体制の他党に交渉のテーブルで宣言していたことも明らかにした。進歩党が抜けることは、首相率いる保守党にとって望ましいことではない。

進歩党は、移民・難民規制法案において、一歩一歩着実に、進歩党の政策を国会法案に埋め込む能力に長けている。またメディアを上手く使い、過激な表現方法で国内に不安を広めることで、保守派の支持率を上げている。これまでにも述べたが、各国で極右と位置づけされている政党が支持率を上げることは、必ずしも国の安定を意味しない。以前は、「非人間的だ」と、卵や石を国民から投げつけられていた政党が、今政権で権力を握っている。これが今のノルウェーだ。宝石法案が、別の形でこっそりと数年以内に採用されていても、あまり驚くことではないかもしれない。進歩党が孤立化するのは、いつものことだ。

Text&Photo:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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