ジャッキーもトム・クルーズもお手本にする男。命知らずの俳優のヤバすぎアクションを再び劇場で!
昨秋公開が始まると連日大盛況! コロナ禍でありながら、異例の大ヒットを記録したのが<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>だ。
本特集は、あの「ルパン三世」や「コブラ」のモデルにもなり、アラン・ドロンと人気を二分するスターとして活躍したフランスの俳優、ジャン=ポール・ベルモンドに再注目。
ジャッキー・チェンやトム・クルーズにも確実に影響を与えている彼のアクションが詰め込まれた珠玉の主演映画8本を上映した。
とはいえ、ベルモンドが活躍したのはもう半世紀近くの前のこと。ここ日本においてはほぼ忘れかけられた存在になりつつあった。
だが蓋を開けると、劇場にはベルモンドの全盛期を知る中高年層から、ベルモンドをまったく知らないミレニアル世代までが押し寄せ、全作品をコンプリートする熱狂的なファンも続出。
CGのない時代、今となっては撮影不可能といえる数々のヤバいアクションに挑んでいたベルモンドとその作品には絶賛の声が多数寄せられ、一気に作品の再評価が高まった。
そして、今回、待望の第二弾<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2>が組まれることに! 前回に続き本特集の仕掛け人、配給プロデューサーで映画評論家の江戸木純氏に登場いただき、今回の特集について訊くインタビューを2回に分けてお届けする。
第一弾は尋常じゃないぐらい問い合わせの電話が
はじめに前回の<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>の話から。この異例の大反響をどう受け止めたのだろう?
「(ヒットの)予感はあったといいますか。いまは予約状況がわかるので、公開の少し前からいい感触はあったんです。
でも、ここまで大きな反響を呼ぶに至るとは予想していませんでした。
実は、公開が始まる前に、劇場の方から連絡が入っていたんです。『尋常じゃないぐらい問い合わせの電話が入っている』と。
直接電話をかけてくるということは、あまりネットになじみのない世代が確実に興味をもって劇場に足を運びたいと思っていることの現れといえる。
なので、ある程度、『いけるかな』という手ごたえはあったんですけど、やはり公開が始まってみないとわからない。
で、実際に公開が始まったら、連日、多くの方が劇場に足を運んでくださって、SNSにはいろいろな方から感想の声が寄せられた。長年、温めてきた企画でしたから、ほんとうにうれしかったです」
ベルモンドがかつての映画少年たちを映画館に呼び戻してくれた
それは、改めて、ベルモンドおよび彼の出演した作品のパワーを実感する機会にもなったという。
「昨年の日本映画界の興行を振り返る上で欠かせないぐらいの大反響企画になったのは、ジャン・ポール・ベルモンドをすでに知っていた層プラス、まったく知らない若い世代までに届いたからにほかなりません。
前回のインタビューでもお話しましたけど、ジャン・ポール・ベルモンドは、1970年代前半ぐらいに映画を観始めた我々の世代にとっては大スターで、とりわけ男子はみんな主演映画をみて熱狂していた。
昔の資料を見てみると、1970年代の半ばぐらいは、毎日のように外国映画がテレビで放送されていて、そのかなりの割合でベルモンドとアラン・ドロンの主演映画がプログラムされていた。テレビで放送される外国映画の双璧といっていいぐらい、二人の映画はよく放送されていたんです。そして、放送された翌日の学校は、ベルモンドの話でもちきりになっていたりした。
そういう原体験はあるものの、しばらく劇場から足が遠のいていた人たちが、前回の特集上映では、『ジャン・ポール・ベルモンド』という懐かしい響きと記憶に吸い寄せられるようにして映画館に戻ってきてくれたというか。
ベルモンドの映画に夢中になっていたかつての少年たちが、久々に劇場に戻ってきてくれたような感触がありました。あのころの教室の熱気を再現するような盛り上がりが我々の世代にはあった。
実際に、特に映画業界に関わっているわけではない、もう何十年と連絡をとっていなかった小学校時代の友人から連絡がきたんですよ。『<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>に行ったんだけど、お前が立てた企画だったんだ』と(苦笑)。
僕自身も、我々世代はそういえばブルース・リーの熱狂の前にベルモンドの熱狂があったよなぁという、少年時代の記憶が甦りました。
そういった人たちの間で『ベルモンドの映画だから面白くないわけがない』という連鎖が起きて、劇場から足が遠のいていた人までが来ている感じがありました。それは、ジャン・ポール・ベルモンドがかつての映画少年たちを映画館に呼び戻しているようにも映って、『やってよかったな』と幸せを感じました。
ベルモンドのアクションの凄さが若い世代に口コミで拡散
一方で、我々の世代のあとの世代にとってベルモンドは、諸事情あって主演映画に触れる機会も少なくなり、いつの間にか、忘れ去られた存在になりつつあった。
でも、みて観ると、ありえないようなアクション、いまのアクション映画のお手本となっているようなアクションをやっている。しかも、生身で。度肝を抜かれますよね。『こんなことやっているのか、CG全盛の今じゃ考えられない』と。
その新鮮な驚きが口コミで広がって若い世代も劇場にやってきてくれた。
結論としては、本物の映画の力というのは時を経ても消え失せない。時代を経ても、伝わるんだなと思いました。ベルモンドの映画には世代も時代も関係なく観客を魅了する映画としての力がある。
これは僕もスクリーンで観て再確認したことなんですけど、ベルモンドの映画は、映画館で見るために設計されている映画なんですよね。アクションのひとつひとつがモニター向けというよりは、スクリーン向け。フランス映画界の大巨匠といっていい超一流の撮影監督がとっているので、どのシーンもスクリーン映えする。
スクリーンでみると、モニターなんかでみるよりも数十倍、アクションのすごさが伝わってきてびっくりするんですよね。
それで、最初は1本観たらいいだろうと思ってたのが、やめられなくなって8本全部『みちゃいました』みたいな人がいっぱい出た(笑)。
でも、ほんとうにスクリーンでみたくなる映画なんです。ベルモンドの映画は」
前回開催中に「ベルモンド映画総選挙」を実施。投票結果を踏まえての第2弾
こうした反響を即座に受け止め、<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>の開催中から「ベルモンド映画総選挙」を実施。今回の<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2>は、その投票結果を踏まえての第2弾となる。
「もともと2弾、3弾と続けられたらということは考えていたんですけど、それも支持がなければ成立しない。
でも、こちらも予想しないぐらい大きな反響を得たので、『じゃあ』ということで急遽、ベルモンド映画の人気投票を実施して、その結果を中心にしたプログラムを第二弾として考えようと話がすぐにまとまりました。
投票結果は、ある意味、順当といいますか、やはり知名度の高い作品がランクインしました。
たとえば、1位に輝いた『リオの男』は、すでにソフト化されていて見れるチャンスがある。ということで、前回はあえて選ばなかったところがある。
ただ、前回のベルモンド映画への皆さんの熱をうけとめるに、いわゆる一般的なところのベルモンドの代表作をきっちり上映して紹介する意味はあるなと。
なので今回の第二弾は、ベルモンドの王道をメインにした特集といっていいかもしれない」
第二弾でこだわったひとつが「字幕」!
日本語字幕翻訳の第一人者、松浦美奈さんの翻訳で新たな発見が
上映作は「リオの男」「アマゾンの男」「相続人」「エースの中のエース」「アマゾンの男」の5本。開催に当たり、ひとつこだわったのは字幕と明かす。
「実はこれまでちょっと見過ごされてきたんですけど、字幕がけっこう誤訳が多かったり、細かいところまで訳されていなかったりということあったんです。専門の人から見ると『あれ?』というところがけっこうあった。
当時、フランス映画の場合、フランス語の台本と英語の台本があって、英語の台本から訳す場合があって。それが誤訳につながったのかなと推察されるのですが。
いずれにしろ『?」の訳があって、それによって作品の世界がきちんと伝えきれていないところがあったんです。
そこで、今回は日本語字幕翻訳の第一人者である松浦美奈さんに新たに字幕をお願いしました。
実は松浦さん、<ベルモンド傑作選>の初日に一観客として足を運んでくれていたんです。それもあってお願いできないかと思ったんですけど、なにせ忙しい方。松浦さんに字幕翻訳をどうにかお願いできないかと思っている人が山ほどいますから、無理かなぁと。
そうしたら、『ベルモンドだったら面白いから逆にやらせてください』とうれしいお返事をいただいて、5本すべての新たな字幕をお願いできることになりました。『ベルモンドが大好きということ』で、乗りに乗ってやってくださいました。
これまでの作品とはまったく別物にみえるぐらい、格調高く、かつ奥の深いところまで訳された字幕になっています。
DVDを持ってても見る価値があるものにできたというぐらい、スクリーンで確認して驚いてほしい字幕になっていると思います。
僕もびっくりしたんですけど、松浦さんの新訳のおかげで、名コンビであったフィリップ・ド・ブロカ監督、ベルモンド主演の『リオの男』と『カトマンズの男』が実はつながっていることがはっきりとわかった。ネタバレになっちゃうので詳しくはもう劇場で確認してほしいんですけど。
そういうことが松浦さんの字幕のおかげで明らかになっている。だから、一度みたことのある人も字幕によって新たな発見があると思います」
(※次回に続く)
<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2>
5/14(金)より新宿武蔵野館にて公開。
テアトル梅田、名演小劇場、京都シネマ、シネ・リーブル神戸にて上映決定!
詳しくは公式サイトへ
「リオの男」の写真は L’HOMME DE RIO a film by Philippe de Broca (C) 1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.