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加熱式タバコの「受動喫煙」のほうが紙巻きタバコより「有害物質」が増えるのはなぜか

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 最近のある研究によれば、加熱式タバコによる受動喫煙のほうが有害性が高くなる危険性があるという。有害性が低いと喧伝されている加熱式タバコなのに、なぜそうなるのか。研究グループの研究者に聞いた。

加熱式タバコの広がりとその影響

 加熱式タバコには現在、アイコス(IQOS、フィリップモリス)やグロー(glo、ブリティッシュアメリカンタバコ)、ウィズ2(with、旧プルームテック、日本たばこ産業)などがある。日本では2013年にプルームが発売されて以降、アイコスなどが追随し、加熱式タバコのシェアが拡大している。

 ここ十数年のタバコ会社の戦略はこうだ。健康意識が高まりタバコの有害性に対する正しい知識が広まった先進諸国では有害性の低減を強調した製品を広めたい。

 一方、購買力が低いために高額なデバイスを買えず、まだ健康意識が高くない途上国などでは紙巻きタバコの市場を広げ、喫煙者を増やしていく。

 その新製品が加熱式タバコであり、加熱式タバコを製造販売する各タバコ会社は、発売当初から加熱式タバコの有害性の低減という「ステルス化」に躍起になってきた。しかし、有害性が低くなっているというタバコ会社の広告宣伝が、逆にステルス的に周囲の人間へ悪影響を及ぼしている可能性がある。

 喫煙者が非喫煙者の家族や同僚、近隣住人といった他者へ及ぼす悪影響と言えば、まず思い当たるのが受動喫煙だ。タバコ会社は、加熱式タバコの有害性の低減を喧伝しているが、それなら加熱式タバコによる受動喫煙の害も少なくなるはずだ。だが、実際はそうなっていない危険性がある。

 例えば、韓国でも加熱式タバコが広まっているが、韓国の研究グループが加熱式タバコの喫煙者を対象に調査した研究(※1)によれば、喫煙が禁止されている場所で加熱式タバコを吸ったことのある喫煙者は79.2%と8割近い割合になった。また、加熱式タバコのみを吸う喫煙者より、紙巻きタバコや電子タバコと併用する喫煙者のほうがその割合が高かったという。

 つまり、加熱式タバコは有害性が低いと思い込んだ喫煙者が、禁煙されている場所で加熱式タバコを吸い、その結果、周囲の人間に受動喫煙させるようなことが起きているというわけだ。

タバコから出る物質に安全はない

 加熱式タバコを含むタバコ煙に含まれる有害物質は、一般的な基準よりもはるかに多い。例えば、ベンゼンは発がん性物質であり、再生不良性貧血など健康への悪影響を及ぼす。環境省の大気汚染基準によれば、ベンゼンの1年の測定平均値は3μg/立方メートル以下となっている。

 ところが、紙巻きタバコ1本の副流煙には約300μgのベンゼンが含まれ(※2)、タバコ1本吸っただけでその空間の1立法メートルが環境省が定める基準値の100倍に汚染される。タバコ会社がいうように、加熱式タバコの有害性が仮に1/10(90%減)になっていたとしても、ベンゼンの安全な数値を下回ることは全くできないことになる。

 加熱式タバコの受動喫煙の健康影響を調べた研究では、より危惧されることがわかっている。国立保健医療科学院などの研究グループが、紙巻きタバコ喫煙者(13名)、加熱式タバコ喫煙者(8名)、併用の喫煙者(11名)に協力してもらい、喫煙した際のどれくらいの有害物質にさらされるのか、またそれぞれの受動喫煙者(紙巻きタバコ23名、加熱式タバコ15名、併用25名)も同様の数値を調べた研究(※3)によれば、喫煙では総ニコチン代謝物(コチニンなど)は併用喫煙者で最も多く、紙巻きタバコと加熱式タバコで大きな違いはないと考えられたという。

 また、喫煙すると発がん性物質であるニトロソアミン(NNAL、タバコ特異的ニトロソアミン)が発生するが、喫煙では紙巻きタバコ喫煙者が38.2、加熱式タバコ喫煙者が19.1、併用喫煙者が36.1(値はpg/mg creatinine。いずれも中央値。以下も同じ)となった。これによると、加熱式タバコの発がん性物質は約半分、紙巻きタバコと併用がほぼ同じということになる。

 興味深いのは、受動喫煙の数値だ。受動喫煙を受けた人の総ニコチン代謝物は、紙巻きタバコ、加熱式タバコ、併用でそれほど大きな違いがなく、加熱式タバコでも受動喫煙を受ける人に対し、ニコチンの曝露量が減ることがないと考えられる。

 さらに、発がん性物質では逆に紙巻きタバコの受動喫煙者が1.12、加熱式タバコの受動喫煙者が4.07、併用の受動喫煙者が1.26となり、加熱式タバコによる受動喫煙のほうが発がん性物質の曝露量が約4倍も多いということになった。

 ようするに、加熱式タバコに換えたからといって、受動喫煙によるニコチンの曝露量はそれほど変わらない。しかも、発がん性物質は、むしろ加熱式タバコによる受動喫煙のほうが多くなるわけだ。

有害性が低いと思い込んで近くで喫煙か

 いったい、なぜこのようなことが起きるのだろうか。研究グループの一人、稲葉洋平氏(国立保健医療科学院)に話を聞いた。

──受動喫煙者のタバコ特異的ニトロソアミン代謝物量で、加熱式タバコの中央値が特に高かった(4.07pg/mg creatinine)理由はなぜなのでしょうか。

稲葉「今回の場合、加熱式タバコの中央値が高い理由は、可能性として家族の近くで加熱式タバコを喫煙している方が多いためと考えられます。ただ、最終年度に参加者数がさらに増えた結果では、紙巻きタバコ、加熱式タバコ、併用者の受動喫煙者のタバコ特異的ニトロソアミン代謝物量には差が認められておりません。視点を変えると加熱式タバコによっても受動喫煙で発がん性物質の曝露は継続されていることになります」

──参加者が増えたら受動喫煙のタバコ特異的ニトロソアミンの代謝物量で、紙巻きタバコ、加熱式タバコ、併用者の受動喫煙者各群にそれほど違いが出なくなった、というのには何か理由がありますか。加熱式タバコの受動喫煙の被害が少ないと思い込んだ加熱式タバコ喫煙者の行動、家族の近くで喫煙するなどに何か変化が生じたということでしょうか。

稲葉「タバコ特異的ニトロソアミン量に差が出なくなったことについては、理由がある訳ではないと思います。アンケート結果をみても加熱式タバコの喫煙者はご家族の近くで喫煙する行動が多くなっております。ここからはアンケートからは読み取れませんが、加熱式タバコ喫煙者ばかりでなく、そのご家族も加熱式タバコであれば健康被害は低いと考えられたためと予想しております。一方で紙巻きタバコ喫煙者はこれまでの喫煙行動が変わらず、家族の近くでは吸わない方が多いということです」

──今後、参加者数が増えると、結果にはどのように反映されると予想できますか。

稲葉「参加者数が増えても、喫煙者では紙巻きタバコ、加熱式タバコと併用者でニコチン曝露量に大きな差はないと予想しております。タバコ特異的ニトロソアミン曝露量は、紙巻きタバコ喫煙者、併用者では有意差はなくなると考えております。加熱式タバコ喫煙者は、紙巻きタバコ喫煙者、併用者よりも低い曝露量となると思いますが、主流煙のタバコ特異的ニトロソアミン量のように1/10になるとは考えておりません」

 加熱式タバコは、独特の妙な臭いはあるが、確かに紙巻きタバコより煙も匂いも少ない。逆にいえば、それだけ「ステルス性」の高い製品ということで、気付かないうちに本来ならタバコを吸うことができない場所へ入り込んでくることになる。

 集合住宅や近隣から漂ってくる加熱式タバコによる受動喫煙の被害を訴える人も増えてきており、加熱式タバコ喫煙者数の増加とリンクしているようだ。また、加熱式タバコを吸う友人宅を訪問した際、体調を崩したりする例もある。

 今回紹介した研究によれば、加熱式タバコは有害性が低いと思い込んだ喫煙者が、紙巻きタバコなら近づかないような距離や吸わないような環境で喫煙し、その結果、大事な家族や他者を有害物質に曝露させてしまうという事例が起きていることになる。タバコ会社の言うことにごまかされず、喫煙者も非喫煙者もタバコ製品はどれも有害だという認識を共有しておきたい。

※1:Jung Ah Lee, et al., "Use of heated tobacco products where their use is prohibited" Tobacco Control, Vol.32(2), 146-152, March, 2023

※2:稲葉洋平、内山茂久、「喫煙と室内環境」、空衛、2012

※3:稲葉洋平ら、「受動喫煙者の尿中ニコチン代謝物の高感度分析の検討と日本人喫煙者及び受動喫煙者のニコチン代謝物量とたばこ特異的ニトロソアミン代謝物量の分析」(令和3年度厚労省科研費補助金)、2022

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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