公取委の検討会で芸能人の“働き方改革”は進むのか?──ファンが抱く芸能界の疑問に答える〈1〉
芸能人にも独禁法適用へ
昨年8月から続いて生きた公正取引委員会の「人材と競争政策に関する検討会」。全6回の会議を経て、その報告書が2月15日に公正取引委員会から発表されました。
すでに報じられているように、芸能人やスポーツ選手など、フリーランスの個人事業者にも独占禁止法が適用されることが確認されました。また、これを受けて芸能界の業界団体である日本音楽事業者協会(音事協)は統一契約書の見直すという声明を発表(音事協「諸課題検討委員会「専属芸術家関係等に関する競争法上の論点に関する研究会」 ご報告」)。ジャパンラグビートップリーグとバレーボール・Vリーグも、それぞれ選手の移籍規定を変更すると報じられています。
詳しい内容については後日あらためて記事にしますが、昨今の芸能界で生じている問題についてTwitterで質問を呼びかけたところ、50以上の疑問・質問が寄せられました。ありがとうございます。今回から、取材や調査で得た知識を交えながら質問に答えていきたいと思います。
まず第一回目は、私でもお返事できるふたつの質問に答えたいと思います。
独禁法を後押しするためには
■質問1:ファンは、独禁法をどのように後押しすればいいのかわかりません。
■各芸能人のファンのみなさんが声を挙げることは、とても大切なことです。それにはいくつもの方法があります。すでに行われていることとしては、署名活動があります。これは芸能人のファンのみなさんが公取委宛で行っているものです。7カ月前から始まり、すでに1379人の賛同が集まっています。
また公取委は、今回の「人材と競争政策に関する検討会」報告書について、電子メールで意見募集をしています。3月16日まで受け付けるようです。
Twitterやブログで自分の意見を表明することも大切ですが、こうした窓口から直接公取委に意見を伝えることも大切です。
独禁法は法律なのでたしかに難しいですが、A4で2ページの「概要(PDF:160KB)」だけでも読むと理解が進むと思います。
「JYJ法」ならぬ「SMAP法」は可能か?
■質問2:韓国の「JYJ法」のような「SMAP法」を日本で作る動きはないでしょうか? 放送法改正を働きかけるためには、どうしたらいいと思いますか?
■知らないひとに説明しますと、JYJとは、韓国の人気男性グループ・東方神起を脱退したメンバー3人で構成されるグループのこと。「JYJ法」とは、韓国で2015年に成立・施行された改正放送法のことを指します。2010年、裁判の末に所属事務所であるSMエンタテイメントを脱退した、ジェジュン、ユチョン、ジュンスの3人は、JYJとして活動を始めました。しかし、その後彼らは芸能界で強い圧力を受けることになります。JYJ法は、この問題を解決しようとした放送法の改正のことです。
JYJ法を日本で広く知らせたのは、筆者による以下の記事でした。「公開処刑」とも呼ばれて批判された、『SMAP×SMAP』(フジテレビ)における例の“謝罪会見”の2日後に発表したものです。
それから2週間後の2月3日、民進党(当時)の井坂信彦衆議院議員が、内閣に対して質問主意書を提出しています。「質問主意書」とは、文書による内閣への質問のことですが、このなかでJYJ法について触れられており、安倍総理からの回答もなされています。ただし、安倍総理からは「お答えすることは困難」とほぼゼロ回答でした。
さらに井坂議員は、2週間後の2月26日にも再質問しましたが、こちらも「(前回)お答えしたとおり」と相手にされていません。
いまのところ、それ以降に目立った動きはありません。井坂議員も昨年10月の解散総選挙に出馬したものの落選。現在は浪人中です。
では、法改正にはなにが必要か? そのためには、国会議員や官庁を動かす必要があります。なぜなら、国会は唯一の立法機関だからです。よって、論理的には国会議員や官庁に働きかけて(陳情して)、法改正するのが正攻法です。
ただし法改正は簡単なものではなく、しかも放送法となると十分に慎重であることも求められます。なぜなら、井坂議員が最初の質問主意書を提出してからわずか5日後、高市早苗総務大臣(当時)による“「停波」発言”があったからです。
これは、テレビ局が放送法で定められている政治的公正を欠く放送を繰り返した場合に、電波停止(停波)を命じる可能性がある──とする発言でした。結果、放送局はこの発言に強いプレッシャーを受け、2016年の参院選では政治報道が前回比で16%も減ったことがデータ上明らかになっています(朝日新聞朝刊「TV・ネット分析、世論探る」2016年8月2日付)。
ただし、この“「停波」発言”は、そもそもそれまでの法解釈を変更している(大意)とNHK放送文化研究所から指摘され(村上聖一「放送法第1条の制定過程とその後の解釈」 『放送研究と調査』2016年6月号)、また学者などからも憲法違反の可能性があると見なされる向きにあります。
個人的には、現政権における放送法改正は、政権側に都合良く改変されて表現の自由を脅かす可能性があると考えています。また異なる政権であっても、表現の自由に関係する以上は十分な慎重さが求められます。
以上、今回はふたつの質問に回答しました。今後も断続的に回答していきたいと思います。
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