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チョコレート値上げの真相

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

急激な円安傾向が続く中、国内では輸入品を中心に食料価格の値上げラッシュが続いている。こうした中、5月中旬から下旬にかけては、大手菓子メーカーが相次いでチョコレート商品の値上げを発表している。

明治は、7月から24品目について順次、容量削減(約2~12%)と値上げ(10~20%)を行う方針を打ち出した。例えば、7月14日から「きのこの山」は82gから74gまで9.8%、「たけのこの里」は77gから70gまで9.1%、それぞれ容量の削減が行われる。1箱当たりで、概ね3個前後が減少する計算になる。森永の場合だと、7月14日から「ダース」シリーズが10%の値上げ、「小枝」が5.9%の値上げになる。

明治は今回の値上げについて、「世界的な需要の拡大などを背景にチョコレートの主原料であるカカオ豆やナッツ類などの原料価格が高騰しております」と解説している。また森永は「世界的な需要増などによりチョコレートの原料であるカオ豆等の原料価格が高騰を続けております」と解説している。すなわち、いずれもカカオ豆の高騰で、チョコレート商品の販売を現行価格で維持するのは困難との見方である。

■チョコレート原料の生産はアフリカ西海岸に集中

カカオ豆の価格動向が話題になることは殆どないが、実は2013年後半から急伸している。国際指標はインターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されている先物相場になるが、11年12月には1トン=2,000ドル台を割り込んでいたのが、現在は3,000ドル台前半まで、約1.5倍の値上がりになっている。

国際カカオ機構(ICCO)によると、過去10年のカカオ豆需給は供給不足が5年、供給過剰が5年と、需給に何か大きな歪みが生じている訳ではない。しかし、世界のカカオ豆需要が過去10年で20%もの急増となる中、従来と同じ在庫水準でも、需要規模に対する在庫水準の低さが意識され易く、価格上昇リスクが高くなっている。

農産物分析の専門家は、総需要に占める在庫の比率を表す在庫率(=在庫÷総需要)という指標を使うが、10年前の05/06年度は53.7%だったのに対して、14/15年度は38.2%まで低下している。

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しかもカカオ豆は、世界全体の72%が西アフリカのコートジボアール、ガーナ、ナイジェリア、カメルーンなどの地理的に集中した地域で生産が行われているため、これらの地域で政治・経済・社会・気象要因などで何らかの供給トラブルが発生すると、カカオ豆価格は急伸してしまうことになる。

例えば、昨年秋にはアフリカでエボラ出血熱の感染拡大が報告された際に、カカオ豆農場で働く労働者が居なくなるとの思惑から、一時3,399までの急伸相場が形成されている。そして足元では、ガーナで予想されていた生産量が確保できなくなるとの見方から、再び供給不安が警戒されている。同国政府は従来100万トンの生産高を見込んでいたが、政府高官は70万トンを下回るリスクにも言及している。この差となる30万トンは世界のカカオ豆供給の7%前後に相当する規模であり、ガーナ産のカカオ豆輸出契約が履行できなくなる事態が、国際カカオ豆需給を大きな混乱状況に陥れるリスクが警戒されている。

■カカオ豆は高いが高騰している訳ではない

ただ、3,000ドル台の価格は11年などにも経験したものであり、カカオ豆の歴史において未経験の価格ゾーンという訳ではない。問題は、円安の方である。12年比でドル建てカカオ豆相場は約50%の値上がりになっているが、同じ期間にドル/円相場は約50%の円安になっている。このため、輸入コストの変化等を考慮に入れなくても、原材料時点で円建てのカカオ豆価格は2.2~2.3倍まで値上がりしている計算になる。

実は、国際商品市況は全体として緩やかなダウンンドを形成しており、ドル建てでみた際の食品価格が高騰しているものは多くない。特に、穀物は米国の記録的な豊作が2年連続で続く中、抑制された状態が続いている。しかし、50%の円安のショックを吸収する程の値下がりとなっている食品価格は多くなく、家計はその直撃を受けることになる。今回のチョコレート商品の値上げラッシュも、その直撃の一つである。チョコレートの購入習慣があるのならば、6月中の購入を検討したい。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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