J3に山口旋風。維新陸の応援熱、成長のエネルギーに。
明治安田生命J3リーグ(J3)は昇格したばかりのレノファ山口FCが首位を独走している。4月29日に維新百年記念公園陸上競技場(山口市)で行われたFC琉球戦を4-3で逆転勝ち。この段階で6勝1敗とし、第2節にトップに立って以降、その座を譲っていない。
捨てなかったスタイル
4月29日の第8節・琉球戦。山口は前半9分、カウンターからチャンスメークすると、ゴール前でテンポ良く繋ぎ島屋八徳が先制ゴールを奪う。しかし過去6戦で安定した力を見せていた守備が綻び、前半30分に琉球・松尾昇悟のゴールで追いつかれると、前半44分と後半5分にも失点。試合をひっくり返され、1-3とされる。前半終了間際や後半立ち上がりという最も危険な時間帯に集中力を欠き相手に自由を与えてしまった。
山口はスタイルとしてはポゼッションしボールを動かしながら好機を作るパスサッカーを軸にしている。1-3の状態で次の得点が相手に入れば試合は決しかねなかったが、安易にパワープレーには行かずパスサッカーを捨てなかった。「焦らずにしっかり攻めよう」(福満隆貴)とボールを動かすことに専念。相手が引いたことで保持する時間そのものも増えると、後半11分、福満が鋭いミドルシュートを突き刺し追撃ののろしを上げた。守備面では経験豊富な平林輝良寛を途中投入。対人に強いベテランに追加失点阻止の役目を託し、果たして平林はディフェンス陣を落ち着かせた。
「うまくいけば逆転できるのではないか」(平林)。その感覚のとおり、後半24分、島屋が同点とするゴールを挙げると、後半アディショナルタイム、島屋のミドルシュートに岸田和人が左足で変化を加えて土壇場の逆転勝ち。岸田は「何となく(ボールが)来るかなと思って動き出したら(島屋が)いいボールを出してくれた」と笑みを浮かべ、島屋と抱き合って喜んだ。
チームプレーが呼んだ逆転勝利
狙いとするサッカーのフィロソフィーがしっかりと共有され、ぶれていない。若いチームがゆえの難しさは時折顔を覗かせるものの、数少ない30代の選手でキャプテンの平林が精神的に支えたり、平林が先発しない試合でゲームキャプテンを務める島屋がチームをしっかりとまとめている。
山口は新シーズンを迎えるにあたり、戦力を効果的に補強。とりわけ昨季のJFLで得点ランキング2位に入った福満をヴェルスパ大分から獲得(得点王は山口の岸田だった)。大学新卒の若手選手も積極的に迎え入れ、昨季までの選手との融合を図った。
とはいえまだ成長の途上にあるチームで環境は厳しい。主練習場のひとつ、やまぐちサッカー交流広場(山口市徳地)は山間部にありグラウンドは人工芝。同広場に加えて維新百年記念公園内のピッチや、山口市内からは1時間ほどかかる県立おのだサッカー交流公園(山陽小野田市)などを転々としてきた。まとまったキャンプをしない代わりに長崎県に遠征したり、宮崎県でミニキャンプを張ったりと環境は上位カテゴリーに比べれば恵まれてはいない。
それでもチームを自分たちが作り上げていくという覚悟を持った選手が集まった。練習試合を重ねてコンセプトを浸透。開幕後も試合のたびに内容面が充実していったほか、サガン鳥栖、ギラヴァンツ北九州、アビスパ福岡などJ1、J2勢との対外練習試合も積極的に組んだ。もちろん全て相手の練習場に行っての試合。マイクロバスでの移動にも弱音を吐く者はいない。
チームは開幕5連勝のあと4月26日にAC長野パルセイロに敗れたが、琉球戦では「自分勝手なプレーをしていたら勝てない。チームプレーに徹した」と岸田。「自分たちの力が試される試合になった」と振り返った福満は、チームの厳しいときに誰が支えているかという問いかけに「一人一人、自分たちからやろうという雰囲気がある」と答えた。環境は厳しいが、自らの努力で作ってきたサッカーへの自信と仲間への信頼が結果を呼び込んだ。
ホームスタジアムの熱狂
忘れてはならないのはホームスタジアム・維新百年記念公園陸上競技場の持つ勝利へのエネルギーだ。ホームでは今季はまだ負けていないだけでなく、対Jリーグアンダー22選抜戦(3月21日)の8得点を含め、5試合で18発のゴールが生まれている。
エネルギーの源はサポーターの数。琉球戦には3108人が詰めかけた。相手チームのサポーターがJ3は少ないことや他のイベントが重なる時期であることを考えれば、その数は大健闘だ。同節のJ3では3817人のカターレ富山のホームゲームに次ぐ数字。同日のJ2でも2千人台の試合があった。「3108名の山口のサポーターの声援で勝つことができました」。上野展裕監督の試合後の記者会見は感謝の言葉で始まった。
無策の盛り上がりではない。開幕2カ月前、メディアやクラブのスポンサー、山口市、商工会議所などの担当者が集まって開幕戦に1万5000人を呼び込もうとするプロジェクトが立ち上がった。また、サポーターグループは従前からチャント(応援コール・応援歌)を印刷してメーンスタンドで配布したり、ゴール裏への来場を呼びかけるフラッグを作ったりと雰囲気を醸成。開幕戦は残念ながら目標には及ばなかったが、集客を他人任せにせず、地域のアイコンとしてクラブ、サポーター、メディアなどそれぞれが育て上げようという気迫が感じられるのも山口の特長だ。実際にゴール裏サポーターの数も目に見えて増え、ピッチに向けられる声は増幅している。
チームも入場者数が増えるにつれてサッカーの内容面の充実にもいっそう力を入れている。上野監督は「見ている人に楽しんでもらえるサッカー」を志向。1点でも多く得点が生まれるサッカーを目指すこだわりは選手にも伝わり、異口同音、選手たちも「楽しんでくれるサッカーをしたい」と声を揃える。自分たちが主導権を握ってボールを動かし、より多くのゴールシーンを作り出す。チャンスのたびにスタジアムが沸き上がり、人づて、メディアづてで伝わった熱はまた次の集客へと結び付く。相乗効果が生まれている。
維新旋風はまだ続く
いずれ山口対策をしてくるチームが増え、厳しい試合も訪れることだろう。若い選手が多くリズムを突然崩してしまうこともあるかもしれない。それでも過度な心配は無用だ。
平林は「若いチームだから(前節を落としたことで)前半が難しい感じになった」と連続失点を喫したチーム状況を指摘。「自分としても雰囲気作りは意識した」と話し、経験ある選手が下支えする。また、島屋は試合後、引いた相手を崩す方策に言及した。メンタリティと戦術のチーム内での修正力が高まってきている。「来て良かったなと思える試合をやっていきたい」(上野監督)。チームは成長し、支える熱もますますヒートアップする。維新旋風はまだ吹き荒れる。