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教師も危ないからLINEを使わないように!?【続報】

森井昌克神戸大学 名誉教授
生徒とSNS(写真:アフロ)

佐賀県教育委員会はこのほど、教職員が生徒と直接メールなどで連絡する場合は文書で校長に事前提出するよう、県立の中高や特別支援学校全48校に通知した。メールやSNS(会員制交流サイト)でのやりとりを通じて教諭が相次いでわいせつ行為に及んだことを受けた措置で、県教委は「適切な距離感を保ち、どういう連絡を取り合っているか管理職にも知っておいてもらいたい」としている。

出典:生徒とのメール、書面で校長に事前報告 教職員に指導、佐賀県教委【Yahoo!JAPANニュース】

亡霊のように、この話題と安易な解決策が取り上げられます。去年の1月にも埼玉県の教育委員会が同様な処置を取っています。その際にも問題点を提起しました。佐賀県教育委員会の結論は極めて正しいと考えられますが、その処置はいささか疑問です。

新聞紙上から読み取れる範囲に限定されますが、「適切な距離感を保ち、どういう連絡を取り合っているか管理職にも知っておいてもらいたい」というのは正解でしょう。ただし、事前に一つ一つの用件について、個々の親や上司の教員(校長、教頭)に承諾を得るのは現実的ではありません。生徒とSNS等で連絡を取り合っていることを校長が周知することは重要で、また内容に関して不測の事態が起きないためにも、同報通信等で、複数の教員が確認することも必要かもしれません。しかし、生徒に連絡を取るために校長の許可が必要になれば緊急の事態に対応できないのではないでしょうか。

今までもYahoo!JAPANニュースに投稿していますが、改めて引用しておきます

『LINEは使い方によって教員と児童生徒との距離を極めて縮める可能性があるのです。それが悪用につながるということで禁止するのではなく、上手に利用することを推奨し、教員も認識を新たにすれば、児童生徒を指導する最良のツール(道具)になるはずです。』

『LINE等のSNSは事実上広く浸透しており、スマホや携帯を持っている高校生のほぼ全員といって良いぐらい利用しています。緊急の連絡や広報の 意味での連絡では最適な情報通信手段であり、情報共有を行うための有効な道具でもあります。LINEを使う事と生徒と私的な関係を持つ事とはまっ たく別です。幼児に対してではなく、教師にまで「ナイフの類は危ないから使用禁止」というのではあまりにも情けなくはないでしょうか。』

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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