加藤シゲアキ脚本の舞台『染、色』に黒崎レイナが出演 「頑張っても想いが叶わない痛みを伝えられたら」
『仮面ライダーエグゼイド』で注目され、昨年は『ハイポジ』で連続ドラマのヒロインを演じた黒崎レイナ。小説家としての名声も高めている加藤シゲアキが、自身の短編を原作に初めて脚本を手掛けた舞台『染、色』に出演する。デビューから10年で舞台は初挑戦。正門良規(Aぇ!group/関西ジャニーズJr.)が演じる主人公の美大生の恋人だが、実は想いは一方的という役で、新たな一面が見られそうだ。
大きな声を出してトーンを相手ごとに変えて
――『染、色』はレイナさんの初の舞台になりますが、自分で観劇することはありました?
黒崎 結構ありました。印象に残っているのは、福士蒼汰さん主演の『髑髏城の七人』です。全体的な熱量もすごかったし、殺陣を生で見たのが初めてで、きれいで迫力があって。観ているだけで汗が出て、2時間半くらいの舞台が一瞬に感じました。最近だと、『スリル・ミー』というミュージカルを観て、ひとつひとつの台詞や動きを、たぶん自分が思う10倍以上に大きくしないとダメなんだなと思いました。それくらいでないと、奥の席や2階席に熱量が届かない感じがしたので。
――初舞台でも、その辺の心構えはできていたんですね。
黒崎 はい。観ているうちに、自分でも舞台を経験したいと思っていたんです。でも、大きな声を出す習慣はなかったので、稽古では大声で言ったつもりでも「声が細い」と言われます。あと、相手によって声のトーンを変えるようにも言われていて。私が演じる杏奈は主人公の深馬の彼女で、彼には高い声で女の子らしく話して、深馬の友だちには自然体の落ち着いた感じで、先生や深馬のお母さんにはよそ行きの声で……というのを意識しています。
――なかなか難しそうですね。
黒崎 声を大きく出そうとすると、身振り手振りもオーバーになりがちなのも気をつけています。杏奈は人とあまり深く関わってなくて、深馬はいちおう恋人ですけど、実際は自分が一方的に想っているだけ。深馬に会いたい一心で美大に入り浸っていても、深馬のほうはそれほど杏奈を好きでなくて。役を型にハメず、共演者の方がどういう感じで来るかも見ながら、演出の瀬戸山(美咲)さんに導いていただいて作っています。
残酷なことをされるので感情移入ができます
加藤シゲアキが短編集『傘をもたない蟻たちは』の一篇『染色』を、自らの脚本で舞台化した『染、色』。美大生の深馬(正門良規)は周りから作品を期待されているが、思い通りにならず悶々としていた。気を紛らわすように街の壁に落書きしたグラフィティアートが、翌日にわずかに異なるものになっていて……。
――今回の原作・脚本の加藤シゲアキさんの作品は、読んだことはあったんですか?
黒崎 台本をいただいて気になって、『傘をもたない蟻たちは』を読みました。原作はちょっと謎めいた、ダークな感じがあって。主人公と浮気相手のシーンの後に、必ず主人公と杏奈のシーンが入るんですよね。杏奈の前では冷たいのに、浮気相手とは楽しそうにしているところを挟んできて、残酷だなと思いました。だからこそ、杏奈の揺れ動く心情や深馬に対する期待や焦りに、感情移入しやすいところもあります。深馬は人間味があるとも言えますけど、結構ひどい人で(笑)、杏奈にとっては残酷。頑張っても想いが叶わない痛みを、出したいと思っています。
――それでも杏奈は深馬に惹かれているんですね。
黒崎 たぶん杏奈は彼のことを、あまり知らないんです。普段は何をしているのか、何を考えているのかわからないんですけど、出会った頃に、天才的で人と違う唯一無二な感じに惹かれたのかなと思います。どんな関係性なのか、稽古の中で試行錯誤しています。
歩み寄って拒まれたら傷つくと思います
――杏奈について「一途で繊細で少し不器用」とコメントされていました。そう感じたシーンがあるんですか?
黒崎 あります。重いと思われて嫌われたくないから、感情を表に出さないようにしているのに、深馬の家の近くで待ち伏せをしていたり。どうしても会いたくて「そろそろ帰ってくるかなと思って」と言うんですけど、深馬には「何でいるんだよ?」みたいな空気を出されます。いちおう杏奈とつき合っているので、拒否ではないんですけど、そこまで杏奈を好きでない分、「そんなことをされても……」という。
――なかなか辛い状況ですね。
黒崎 演じているうちに、自分もどんどん切なくなってきます。杏奈がストレートに「好きだよ」と言っても、深馬にはやっぱり届かなくて。泣きそうになりながら、悲しい空気にしないように、わざと笑うシーンもあって、女子大生の恋心が身に染みます。辛いのに健気というか、「こんなにされても好きなんだ」と思います。
――そういう杏奈の感覚は、レイナさんもわかりますか?
黒崎 恋心に関しては未知な部分もありますけど(笑)、自分が歩み寄っても相手が「ちょっと……」みたいな感じだったら、やっぱり傷つきますよね。
配信の映画で韓国のゾンビは動きが速いなと(笑)
――稽古も感染対策をしながらやっているんですよね?
黒崎 皆さんマスクを付けて演じているので、目から下の表情が見えなくて、どういう感情で言っているのか、わからないところがあります。本番でマスクを外したときに受けるものも、たぶん変わってくるので、それはそれで楽しみたいです。
――レイナさんの日常生活も、このご時世で変わった部分はありますか?
黒崎 体調管理にめちゃくちゃ気をつけて、家からなるべく出ません。家で筋トレをしてます(笑)。もともとキックボクシングをやっていたんですけど、今は1人でシャドーボクシングやダンスをしていて。あとは、配信で舞台や映画やドラマを観るようになりました。
――定番の韓国ドラマとか?
黒崎 私は海外ドラマは好きですけど、韓国や中国の作品は初めて観ました。最初に観たのが『新感染』で、みんなが「面白くて何回も観た」というのがわかります。全体的にダークですけどスピード感があって、韓国のゾンビは動きが速いと思いました(笑)。日本のゾンビみたいにウロウロしてなくて、ダッシュしているんです。国によってゾンビの速さが違うのがわかりました(笑)。
――初舞台に関して、生でお芝居をすることにプレッシャーはありませんか?
黒崎 今の段階(取材日は初日の3週間前)では、みんなに追い付くことに必死で、稽古を積んで良い作品にできるように頑張りたい気持ちが強いです。緊張や不安より、早く皆さんの前で披露したくて、ワクワクしています。
ドラマのメイキングを観て女優になりたいと
――レイナさんは今年でデビュー10周年ですよね。
黒崎 そうなんです。10年前は小6から中1で、もともとドラマや映画が好きで、自分もやってみたいと思って事務所に入りました。
――その頃、どんな作品が好きだったんですか?
黒崎 釈由美子さんの『スカイハイ』とか天海祐希さんの『女王の教室』とか、子どもながらダークな感じが好きでした(笑)。
――『女王の教室』は小学校が舞台で子役がたくさん出ていて、自分もやりたい気持ちが高まったり?
黒崎 それはありました。観ていて「このシーンを撮るのにどれくらい時間をかけるんだろう?」とか考えるようになりましたし、DVDに入っているメイキング映像で「教室はスタジオというところにあったんだ」と知ったり。自分も出られたら楽しそうに感じて、家族に相談したのがきっかけでした。
――女子小学生で『花より男子』みたいなラブコメは観なかったんですか?
黒崎 そういうのも観ましたけど、『スカイハイ』みたいなほうが好きでした。海外ドラマの『スーパーナチュラル』がすごく好きで、その影響も大きかったかもしれません。
『エグゼイド』でニコを1年演じたのは大きくて
――今までの自分の出演作の中で、特に大きかったものというと?
黒崎 ふたつあって、ひとつはデビュー作の『ハガネの女 season2』です。架空の国の女の子で、親が国外退去になって、自分も後に退去させられる結構重い役でした。学校でもみんなにいじめられて、家の近くに「帰れ」というビラを貼られて。でも、現場では吉川愛ちゃんとか同年代の方たちと、すぐ打ち解けました。監督さんやスタッフさんもやさしくて、初めてで何も知らない状態から、学べたことがたくさんありました。国外退去になったあとのシーンは、フィリピンのスモーキーマウンテンという、ゴミの山のスラム街で3日間撮影したんです。自分の日常からは想像もつかないところでしたけど、みんなが家族のように過ごしているのは素敵で印象的でした。
――もうひとつはやっぱり……。
黒崎 『仮面ライダーエグゼイド』ですね。ドラマや映画でひとつの役をずーっとやることは、なかなかありませんけど、西馬ニコの役を1年間やらせてもらいました。初めての連続ドラマのレギュラーで、特撮も『(忍風戦隊)ハリケンジャー』とか『仮面ライダーカブト』とか観ていたんです。家には『(人造人間)キカイダー』のビデオもありました。
――それはお父さんが買ったもの?
黒崎 そうです。本当に昔から観ていたので、『仮面ライダー』が決まったときはすごくうれしかったです。監督さんが話ごとに替わって3~4人いて、それぞれニコのイメージがちょっと違っていた分、現場で話し合ってキャラクターを作り上げるのが楽しくて。キャストもみんな仲良しで、厳しいことも言われましたけど、家族みたいでしたね。
――放送は4年前でしたが、いまだに「仮面ライダー女優」と書かれますよね。
黒崎 1年間やりましたから。今もみんなで集まりますし、『仮面ライダー』つながりで他の作品のキャストだった方と「出てましたよね?」と話すこともあります。映画で共演した高杉真宙くんや、今度の舞台でご一緒する松島庄汰さんと、ライダーの話をしました。
壁にぶつかるのは幸せなことだと思います
――10年やってきて、演技への考え方や大事にすることが変わってきたりもしました?
黒崎 それはあります。あまり型にハメないようになりました。自分で「これだ」と固めてしまうと、「違う」とか「こうしてほしい」と言われたとき、できなくなってしまうので。「こんな感じで」と言われたら、自分の中で落とし込んでいくのが、一番いいのかなと思います。あとは、ひとつひとつの台詞に「こう言っているけど本心はどうなのか?」と考えたり、台本には出てないところでどう過ごしてきたのか想像するのも好きです。
――今までで特に難しかった役というと?
黒崎 今度の舞台の杏奈かもしれません。今までも恋人役はありましたけど、自分の想いが一方的で何をしても叶わないような役はなかったので、杏奈に同情しちゃう部分もあって。相手との距離感も難しいです。あまり近づいてもいけないし、近寄らなすぎても離れてしまう。それと、彼の友だちからは好意を持たれていて、わかっていながら彼とのことを相談してしまったり、他の人物との距離も難しくて。杏奈として、みんなとの関係性をはっきりできればいいんですけど、それぞれと微妙な距離感なんですよね。
――壁にぶつかった感じですか?
黒崎 どの作品でも壁はありますね。でも、壁にぶつかるのは幸せなことだと思うんです。突破するために自分を高めて、日々積み上げていく感覚を味わえるのは、いいなと感じます。
稽古初日から財産になる作品だと感じました
――『染、色』の初日までにクリアしておきたいことは、他にもありますか?
黒崎 杏奈は就活生で、面接のシーンはお客さんの後押しにもなればいいなと思ってます。私自身は就活をした経験はないので、面接の動画を観ました。立ち方、話すときの間、言葉の区切り方とかいろいろあって、平坦なトーンで感情の抑揚を出さず、聞きやすいのがいいみたいです。面接のシーンの稽古では、目の前に瀬戸山さんたちがいて、「ここで決めなかったらヤバイ」という空気はリアルにあります。
――この舞台が、レイナさんの女優人生の転機になるかもしれませんね。
黒崎 稽古の初日から、この作品は自分の財産になると感じました。脚本も素敵で、キャストさんも素晴らしいですけど、初めての舞台の演出が瀬戸山さんで良かったと思いました。ひとつひとつ丁寧に教えてくれて、ひと言ひと言に納得できるんです。動きや発声から私のわからない部分を汲み取って、寄り添って助けてくれてます。
――長い目で、今後伸ばしていきたいことはありますか?
黒崎 英語を頑張りたいです。海外の作品に出演することに憧れは持っていますし、英語を話せたら、お仕事でも日常でも大きいと思うんです。一番手っ取り早いのは留学なので、のちのち考えるとして、今はリモートで先生に教わっています。あと、アクションができる女優になりたいです。お芝居の幅を広げる意味でも、クルッと1回転とか(笑)、そういうことができたらいいなと思います。
撮影/S.K.
Profile
黒崎レイナ(くろさき・れいな)
1998年11月11日生まれ、愛知県出身。
2011年にドラマ『ハガネの女 season2』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『仮面ライダーエグゼイド』、『サイン-法医学者 柚木貴志の事件-』、『ハイポジ 1986年、二度目の青春。』、『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』、映画『仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』、『世界でいちばん長い写真』など。
『染、色』
原作・脚本/加藤シゲアキ 演出/瀬戸山美咲
5月29日~6月20日 東京グローブ座
6月24日~6月30日 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ