兵庫県斎藤知事を応援する人たちの心理とは 維新の対応が遅かった要因とそのリスクを心理学者が徹底解説
皆さんこんにちは。仕事に役立つ心理学/常葉大学准教授の赤田太郎です。
不信任決議案が19日に提出されます。斎藤知事の「なぜ知事を辞任しないのか」について解説した記事をアップすると、大きな反響があり、ハラスメントは容認できないと多くの人から共感を得られています。
しかしその中の一部に、斎藤知事を応援するコメントが私にも届いているのです。おそらくですが、このような応援する声は斎藤知事にもきっと届いていると予想されます。これらは、一時Xで、「#斎藤知事頑張れ」というハッシュタグがトレンド入りしたものと同様の傾向を示しています。
また、自民党会派が辞職勧告を知事に早々に提示した一方で、維新はその調整に時間がかかり全会派一致になるまでに時間を要しました。
なぜ、斎藤知事を応援する人がいるのでしょうか。
私自身は、あくまで中立、フラットな立場、そして兵庫県民です。そこで、今回の記事では、斎藤知事側からみて、その応援したくなる心理について解説したいと思います。
最後にハラスメント実務者として、こうした心理が問題解決のリスクになることをお伝えしたいと思います。
斎藤知事が支持される理由3つ
私の動画のコメントやネットの議論から、応援される理由をまとめると、論点は3点ほどあげられると思います。それは、①斎藤知事の知事としての実績、②被害者のような斎藤知事、③「辞めない方が良いという議論」があるという3点です。
政策実行率98.9%のすごさ
まず、1点目は、これまでの公約実行率の高さをあげる人がいます。これだけの実績があることで、知事としての資質として優れているのではないか、という評価です。そういう評価をすると、ハラスメントは「なかったのではないか」「捏造ではないか」という認知が働く可能性があります。
具体的に取り上げると、・県立大学の授業料を無償化、・知事の報酬カット(給与30%、退職金50%)、公用車センチュリー廃止、外郭団体の天下り改革もあります。また、一部の報道でも指摘されていますが、姫路ふ頭利権の問題を指摘し、これまでの既得権益からの圧力で辞任させられるのではないか、というような推測もされるようです。
こうした情報を重ねていくと、知事は被害者ではないか、応援するべきではないかと思うという人もいるかもしれません。
マスコミや百条委員会の質問者が知事を追及する様子が…
斎藤知事が会見や百条委員会で追及される場面を見て、つらく感じる人もいるようです。
ハイヒールリンゴさんは、ある番組で「私、泣いたときに、『その涙の訳は?』って聞かれるとツラいわ~。ほんまに悪いことしてたとしても。いろんな意味で泣くじゃないですか。涙って」「なんか今マスコミがイジメてる、こうやって扱うこともそうなんですけど、そのような構図に見えたりしませんか」と発言されています。
これに対してネットは反発しているのですが、確かにこのように集団で公開の場面で威圧的に質問する記者や、百条委員会でも委員長ほか質問者が感情的になって知事に糾弾している様子を見ると、心が苦しくなるのがわかります。
私の動画にも、「知事が言っていることが本当だったら、あなたたちは名誉棄損ですよ。」というコメントが付いています。また、マスコミをマスゴミと呼び、「おねだり知事」はマスコミによる編集で捏造されたものだと批判する人もいます。
知事記者会見について、9/18は何らかの理由で中止されましたが、直近から9/11は3時間24分、9/4は2時間24分、8/27は1時間57分と長時間にわたり実施して職責を果たしています。
ここで記者は責任追及の姿勢で問題点を指摘するわけですが、それに対して知事は常に「批判を受け入れ県政を前に進めていく責任がある」というワンパターンで答弁しています。
これらを聴いていると、「追及にもめげす長時間にわたって逃げずに向き合っている」とみることもできるかもしれません。
つまり斎藤知事は頑張っているのです。
辞めない方が良いという議論もある
告発文章が、仮に「捏造されたものである」とすると、本当に捏造だったのかを百条委員会で明らかにしてから、知事に進退を決めてもらうとべきという考えも理解できます。
まだ結論が出ていない状況で辞任してしまうと、委員会が途中で一時休止して結論が出ませんし、またハラスメントと認めない斎藤知事にとっても、自ら辞任する理由がないわけです。不信任決議が提出されても、本人にとっては失職を選択する理由がありません。だから私は、今回の不信任決議が採択されても、「議会の解散」を選択するのではないかと考えています。
当初、維新の会はこの立場に立っていたようで、辞職勧告にすぐに同意しなかったのはこのためのようです。
また、おそらく斎藤知事を近くで支えていたのが維新の会だったと思われるため、先ほど述べた「実績」からの影響を受けて擁護したいと考えていたと思われます。
というのも、橋下徹さんは、9月12日の関西テレビ番組で「(維新も)もともと職員クーデターという認識だから、斎藤さんを守るぞ、世論にふらふらするな、と言っていた。ところが世論がこうなって、衆議院選挙もすぐそこだから、現場がふらふらしている」と話しています。
結果的に、維新は世論に合わせた形で辞職勧告を全会派一致で知事に提示することになりましたが、それに対して高須クリニックの高須克弥院長は13日にXで「知事の涙を拝見しました。僕は戦友と信じていた維新のみなさんが擁護しないことにたいする悔し涙のように感じております。僕は一旦同志と認めた戦友を命懸けで守ります」と擁護しています。
このように、見方によれば斎藤知事は最後の結論が出るまで知事職を続投する意義があるわけです。
◇◇
いかがでしょうか。斎藤知事を応援する心理がわかりましたでしょうか。
このように、物事の認識というものは、立場が違ったりや捉え方を変えると、こんなにも違って見えるのです。これが斎藤知事にとって、一貫して「ハラスメントではない」と認識を曲げない理由ですし、むしろ曲げる必要がないと感じるほど筋が通ったストーリーになっているともいえるわけです。
ハラスメント行為と実績は一切関係ない
ここから、こうした心理に陥ることによるリスクや問題点について、客観的にお話ししたいと思います。
ハラスメントが起きる現場では、実績のある人がハラスメントを行うケースに数多く出会います。その時、実績とハラスメント行為を天秤にかけて帳消しにしてしまおうとする心理が働くことがあります。
これは、もっとも避けなければならないことです。人権侵害行為を、実績で容認する行為になります。こういう状態を放置しておくと、人権侵害が永遠に続きます。また、企業側が実績を優先してしまったときにも同様のことが起きます。「実績のある人を残しておきたい」と考えた時、ハラスメントしている側を擁護する構図が容易に生まれるのです。その結果、ハラスメントの被害者を量産することにつながります。
つまり、今回の兵庫県の場合、斎藤知事の政策実行率は一切考慮するべきではないのです。こうした実績を考慮して、ハラスメントしていないと認識してしまうことは、問題を先送りにする危険な考え方です。
だからこそ、第3者が客観的に見て、起こった事実がどのようだったのかを明らかにしていく調査が必要なのです。
この点で兵庫県には大きな瑕疵(かし)があり、いくら告発内容がデマであっても、当事者(知事側)が犯人探しをすること自体が、重大な法律違反なのです。これは、橋下徹さんも指摘しています。また、私的な情報が漏洩していたという問題も浮上しており、プライバシー保護も行われていなかった疑いも調査が必要となっている状況となっています。
調査は加害者側の人権も尊重しなければならない
では、第3者による調査は、どうあるべきなのでしょうか。先ほど指摘した2点目である斎藤知事が追及されてマスコミや委員にいじめられている(ように見える)構図は正しいのでしょうか。
これについて、私は非常に問題だと思っています。なぜなら、加害者側にも人権が保護される必要があるからです。
百条委員会はあくまで調査委員会であって、事実確認をする場です。被害者側からの捏造の可能性も十分にあります。してもいないハラスメントをでっちあげられて、退職に追いやられたケースを私は知っています。
こうした、捏造によるハラスメントで冤罪を生まないためには、両者の人権に配慮した丁寧な聞き取りが必要です。調査者にとって、加害者側が悪い、被害者はかわいそうというストーリーは一切必要ないのです。あくまでフラットに、何が起こっていたのかを確認することが必要なのです。
だから、百条委員会の中で発言された証言がそのまま認定されるわけではありません。証言も一つのデータとして扱われ、その他のデータも合わせて総合的に判断されます。斎藤知事がパワハラを認めなかったから「パワハラがなかった」とするのではありませんのでご注意ください。
そういう意味で、百条委員会の質疑は見直さなければならないと思います。一方、記者会見で記者が知事を糾弾する姿勢は、ある程度はマスコミの役割として容認されるだろうと思っています。
ハラスメント調査のあり方とは
いかがでしたでしょうか。ハラスメントの調査とは、丁寧な人権配慮が行われたうえで実施されなければらないのです。
ハラスメントは、その人の業績を含めた全体から「人」を評価するのではなく、その人が実際に行った「行為」を問題にするべきなのです。ハラスメントに当たる行為さえなければ、斎藤知事は実績のある有能な人なはずです。
今の時代、ハラスメント行為に該当する手段で実績を上げることは、一切認められていません。目的や実績を達成するために、適切な手段を選ばなければならない時代なのです。
斎藤知事が、告発された当事者にもかかわらず、第3者の調査をせず一方的に独自調査して懲戒処分をくだしました。これは本人も認めています。この行為は、人事権の乱用にあたる明確なハラスメント行為です。そして、その告発された方はなくなられてしまいました。だからこそ、道義的な責任が問われているのです。
こうしたことを踏まえて、ぜひ斎藤知事を応援してほしいと思います。
こちらの動画では、関西弁で分かりやすく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。この記事に対するコメントはこちらにご記入ください。
このような仕事やハラスメントにまつわる心理学についてお話ししたいと思いますので、よろしければ、フォローをお願いします。
また次の記事でお会いしましょう。