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心理学者が解説する「職場でのメンタルヘルス」を改善する5つの根本的解決法

赤田太郎の仕事に役立つ心理学常葉大学(静岡県)准教授 博士(教育学)公認心理師臨床心理士
職場で悩んでいる人は多いが、相談できない人が多い

みなさんこんにちは。仕事に役立つ心理学の赤田太郎です。

普段は大学教員として心理学の教育や研究を行い、また学校や企業でのカウンセリングや、YouTubeやインスタでこころの健康の大切さをSNSで発信しています。よろしければフォローをお願いします。

会社のメンタルヘルスの改善は、働く私たちにとっていいことしかありません。実際アメリカの調査では、心身の健康を優先事項にしていて、感情と心理的健康を重視する職場で働くことに対して、非常に重視するとした人は57%、ある程度重要とした人は35%もいるとのことでした(Work in America, APA2023)。

そこで今回の記事では、アメリカ心理学会で提案されている5つの方法について解説したいと思います(APA,2024)。

かなり根本的な内容なので、実施するためにはかなりのエネルギーが必要ですが、結果的には生産性の低下が抑制される(ハサードら,2017)ので、あなたの職場でも、できることから取り入れてみてくださいね。

1.健康と幸福を促進するために、管理職をトレーニングする

管理職が組織に与える影響は、はかり知れません。そんなことはみんな分かっています。だから、管理職が変わることが最も重要なのです。

リーダーが、アメリカのあるメンタルヘルス啓発のトレーニングを3時間受けただけで、メンタルヘルスに対する態度が改善し、メンタルヘルスを推進する意欲が高まったという研究結果があります(SAMHSA,2023)。

また、アメリカ国立安全衛生研究所(NIOSH)のTotal Worker Hdealth Programを受講し、ワークライフバランス(生活と仕事のバランス)のトレーニングをリーダーが行うことで、なんと従業員の個人的および仕事上の幸福度が向上、さらには離職意識が減少することが示されました(ハーマーら,2021)。

管理職は、従業員に対してメンタルヘルスの健康上の利点に関する理解を促し、メンタルヘルスのプログラムに触れさせることを積極的に行うことを推奨することができると、組織が変化していくのです。

2.従業員が働く場所、時間、方法の選択肢を増やす

あなたの会社は、どこで働くことができますか?コロナを経て、私たちの生活は大きく変化しました。その後、完全に対面に仕事をするように戻ったり、そのまま完全にリモートになったりと、その働き方で私たちは翻弄されています。

あなたはどうでしょうか?好きなところで働きたいと思いませんか?

心理学の研究では、長年従業員に職場環境をある程度コントロールできるようにする方が、従業員のやる気モチベーションとパフォーマンスを高めることを示しています(マリレンら,2005)。

ただ、注意するべき視点として、何らかの働き方の方法を押し付けないようにしなければなりません。想像できることですが、職場に毎日通うことの方が仕事がはかどるという人もいます。また、ハイブリットワークの方が、介護と両立できるという人もいます。また、創造的なアイディアを出すためには、会議室以外から会議に参加したいと考える人もいます。このように、その人にとって「自由であること」が大切です。そのなかで、柔軟性の共有意識が職場に浸透していることが求められます。

3.従業員のメンタルヘルスに焦点を当てた健康保険制度の見直し

日本は、皆保険制度ですのでみなさん健康保険に加入していますが、この健康保険にも、さまざまなメンタルヘルスのサービスがあることをご存じですか?実に知らない人も多いと思います。

健康組合は、昨今のメンタルヘルスが増悪していることを踏まえて、その予防的観点からさまざまなメンタルヘルスのサービスを展開しています。ただ、こういったサービスは、認知の少なさや、利用に対するハードルの高さが課題となっています。

私の実感として、日本ではメンタルヘルスについて「ちょっと気になるから相談してきた~」のような気軽さは全くなく、その相談窓口に訪れるタイミングは、いつも最悪の事態になってからという印象です。早期対応が、回復を早くするのは説明不要ですね。だからこそ、なるべく早く相談に来てほしいのです。

その相談しやすくなる工夫として、「腰痛の件」で相談したいという身体的な悩みは、割と気軽に相談しやすいので、窓口はそのようにしたうえで、その中で、さらに相談したいというニーズを感じた時に「メンタルヘルスの相談もできる」というような案内ができるとよいのではないかと考えています。

4.従業員のニーズに耳を傾け、そのフィードバックを活用して職場改善につなげる

多くの研究では、従業員が組織の決定に対する発言権があると感じることによって、その職場にとどまる可能性が高くなると指摘しています(ダニエル,2017)。

具体的には、匿名アンケート、提案箱、問題解決ワーキンググループなどのツールを利用して従業員の意見を聞く機会を具体的に作ります。そして、会社全体にその意見をフィードバックして共有し、具体的に計画を立て変更します(APA,2024)。従業員の意見によって、会社のルールが肯定的に変更されると、従業員のモチベーションが向上し、より改善できるところを探し出し、意見が提案され、さらに改善されます。これが繰り返されると、職場がより働きやすくなり、好循環するのです。

また、従業員は管理職(経営幹部)から楽観的でサポーティブなメッセージを重視していて、管理職から励ましのメールが定期的に送られることで、従業員のエンゲージメント率(関わろうとする意欲のこと)が向上するとの報告があります(KINCENTIRIC,2020)。経営陣側も感じていることを従業員にフィードバックすることで、従業員を励ますことができるのです。

5.公平性、多様性、包括性についての理解を促進してつねに批判的に検討する

よくわからない言葉が並んでおりますが、具体的に説明していきましょう。

「公平性」とは、組織内に不平等を作らないことです。具体的には、評価基準が統一していて、好き嫌いで評価されない職場環境を作ることです。対人関係や不平等な職場環境は、ストレスと強く関連していて、離職につながる大きな要因となっています。

「多様性」は、いろいろな価値観が認められる職場のことです。いろいろな価値観がビジネスアイディアを生みだし、結果的に業績が良いことが知られています(ビビアンら,2018)。具体的には、経営陣に女性がいることや、さまざまな人種や世代の人がいることなどで、多様性を生み出すことができます。

「包括性」とは、インクルージョンという言葉の日本語で、さまざまな障害を持つ人たちや背景を持つ人たちが、同じ場所で働くことができる配慮された環境のことを指します。今、私たちの社会は、すべての人がその障害を理由に差別されることは認められていません。これらに対応するには、専門的な知識や心理師資格を有するアドバイザーが必要です。こうした専門家からスキルと知識を開発することで、より職場のメンタルヘルスは高まります。

まとめ

メンタルヘルスに取り組むためには、さまざまな背景を持つ人材を受け入れ、また専門的な知識を持つ人材を取り込み、そららを活用していくことが求めれています。

こうした取り組みは、かつてコストがかかることでデメリットとされていました。しかし、現代のビジネス環境は流動性が高いため、多様性のない会社は社会の変化に対応できず、業績を落とし続けています。

いろいろな背景を持つ人たちが公平に働く場所を提供され、自分がどの立場になっても配慮の下で働き続けることができる。こういう会社を従業員は求めています。

あなたの会社を変えるために、ぜひ、この5つの方法にチャレンジしてみてください。きっと従業員はあなたの会社を好きになるに違いありません。

記事を最後までお読みいただきありがとうございました。

赤田太郎の仕事に役立つ心理学では、仕事に役立つ心理学をお届けします。よろしければ フォローをよろしくお願いします。

また次の記事でお会いしましょう!

引用文献

U.S. workers adjust to the changing nature of employment:Highlights from the 2024 Work in America survey.

https://www.apa.org/topics/healthy-workplaces/improve-employee-mental-health(access; 2024/6/25)

The cost of work-related stress to society: A systematic review.Hassard, J., Teoh, K. R. H., Visockaite, G., Dewe, P., & Cox, T. (2018). The cost of work-related stress to society: A systematic review. Journal of Occupational Health Psychology, 23(1), 1–17.

https://www.samhsa.gov/mental-health-awareness-training (access;2024/6/25)

Effects of a Total Worker Health(R) leadership intervention on employee well-being and functional impairment.

Hammer, L. B., Brady, J. M., Brossoit, R. M., Mohr, C. D., Bodner, T. E., Crain, T. L., & Brockwood, K. J. (2021). Effects of a Total Worker Health(R) leadership intervention on employee well-being and functional impairment. Journal of Occupational Health Psychology, 26(6), 582–598.

MARYLE`NE GAGNE AND EDWARD L. DECI(2005) Journal of Organizational Behavior J. Organiz. Behav. 26, 331–362

Daniel G. Spencer Employee Voice and Employee Retention Academy of Management JournalVol. 29, No. 3

KINCENTIRIC(2020) Emerging Trends on the Employee eXperience in Times of COVID-19
Dame Vivian Hunt, Lareina Yee, Sara Prince, and Sundiatu Dixon-Fyle(2018)Our latest research reinforces the link between diversity and company financial performance—and suggests how organizations can craft better inclusion strategies for a competitive edge.Delivering through diversity,Mckinsey and Company

常葉大学(静岡県)准教授 博士(教育学)公認心理師臨床心理士

常葉大学(浜松)健康プロデュース学部心身マネジメント学科/常葉大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻 准教授。立命館大学/武庫川女子大学・大学院非常勤講師。働く人と家庭のメンタルヘルス・ストレス・トラウマが専門。働くみなさんにこころの健康の大切さを伝えるために、誰でもわかりやすい心理学をYouTube・Instagramで発信しています。

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