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『カムカム』安子(上白石萌音)を思わせる、『ブギウギ』小夜(富田望生)の「戦争花嫁」

碓井広義メディア文化評論家
趣里さんが演じるヒロイン・福来スズ子(番組サイトより)

 今週の連続テレビ小説『ブギウギ』。スズ子(趣里)にとって、大きな「出会い」と「別れ」がありました。

 出会いは、「エノケン」こと榎本健一ならぬ、「タナケン」こと棚橋健二(生瀬勝久)です。

 喜劇王・タナケンと共演した舞台『舞台よ!踊れ!』の成功は、スズ子を更なる人気者へと押し上げていきます。

 そして、「別れ」のほうは、スズ子の付き人を務めてきてくれた、小夜(富田望生)の渡米でした。

「戦争花嫁」という生き方

 小夜の相手は、進駐軍のアメリカ人兵士・サム(ジャック・ケネディ)。

 当初、スズ子はこの交際に猛反対し、小夜は反発しました。しかし、小夜とサムが2人そろって自分たちの思いや決意を語ったことで、スズ子も納得し、祝福したのです。

 小夜はサムと共にアメリカへと向かいました。いわゆる「戦争花嫁」になったのです。

 「戦争花嫁」は、戦後の日本に占領軍として駐留していた、米国の軍人と結婚して渡米した女性たちを指す言葉です。その数は4~5万人とも、10万人ともいわれています。

 当時は「戦勝国の軍人と結婚して故国を捨てた女性」といったイメージを持たれ、世間から白眼視された人も少なくありません。

『カムカムエヴリバディ』の安子

 戦争花嫁たちの回想やインタビューによれば、米兵との結婚・渡米を選んだ事情は様々です。

 戦後の混乱の中で、自分にとっての明るい未来が見えなかったという人もいれば、それまでとは違った生き方を望んだ人もいたようです。

 小夜を見ながら、同じ朝ドラということで、『カムカムエヴリバディ』の安子(上白石萌音)を思い出しました。

 大切な一人娘との関係も含め、すべてに絶望した安子を救ったのが、占領軍のロバート・ローズウッド中尉(村雨辰剛)です。

 安子が、ハリウッド映画のキャスティング・ディレクター「アニー・ヒラカワ(森山良子)」として来日するのは、それから半世紀が過ぎた頃。

 孫のひなた(川栄李奈)を介して、娘のるい(深津絵里)との和解も実現しました。

小夜にも「幸多かれ」

 小夜もそうですが、戦争花嫁の女性たちには、リスクを覚悟で「自分の人生を切り開こう」という強い意思を感じます。

 とはいえ、あの時代、それは簡単なことではなかったはずです。なぜなら、国内外の社会背景が現在とは大きく異なっていました。

 公民権運動が起きる前のアメリカでは、主に黒人に対する人種差別は今とは比較にならないほど激しいものがありました。

 また、日本人を含むアジア系に対する偏見も当たり前の厳しい時代でした。そんな時代を戦争花嫁たちは生き抜いていったのです。

 小夜にも「幸多かれ」と祈りたくなります。

 そして、いつかスズ子が元気でいるうちに、小夜がひょっこりアメリカからやって来て、うれしい再会を見ることができたら……。

 そんなことを思う、第16週でありました。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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