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「柴崎はスペイン1部でも活躍できる」。テネリフェ監督が語る、柴崎を攻撃の中心に据える理由。

豊福晋ライター
ピッチで柴崎に指示を出すマルティ監督。会話も問題ないという。(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

柴崎岳の評価がスペインで急激に高まっている。

リーグ戦では5試合連続で先発し、前節のアルコルコン戦では初ゴールも決めた。

地元メディア選出のマンオブザマッチではすでに常連だが、前節はリーグ連盟の“今節の最優秀選手”のひとりにもノミネートされた。

すでに1部はシーズンが終わっているため、現在サッカーファンの注目を集めるのは1部昇格争いだ。そんな中、終盤戦の主役のひとりとなった柴崎の名は、全国に広まりつつある。

先発に固定していることからも、監督の柴崎への評価が高いのは明らかで、会見でも称賛することは多い。

それでは、具体的に柴崎のどの部分を評価しているのかー。

ホセ・ルイス・マルティ監督をテネリフェの練習場で直撃した。

パウザを与える存在

「一番はチームに“パウザ”を与えられること、だ」

柴崎の能力について問うと、マルティはそう答えた。“時間”や“タメ”というニュアンスである。彼は続けた。

「ピッチの上で常に冷静で、タメを作ることができる。彼にボールが渡ればゲームが落ち着くんだ。フリーの選手を探すのもうまい。今日のサッカー界では、そういう選手を見つけるのは簡単じゃない」

事実、ここ数試合、テネリフェのサッカーには変化が見られた。

以前は勢いよく前線へロングボールが届けられたが、今ではそこに一工夫はいるようになった。柴崎がそのための時間を作り出し、2列目から連動して崩す回数も増えた。

テネリフェにはエースFWのアマトをはじめ、ドリブラーのスソ、アーロンなど、縦への勝負が持ち味の選手が多い。はまれば爆発的な攻撃力になるのだが、単調にもなりやすい。

縦への攻撃が中心だったチームに柴崎が入り、欠けていたタメとつなぐ意識が加わり、攻撃にも幅が出つつある。

それこそが、マルティが柴崎に求めていたものだった。

周囲を驚かせた言語力

練習場の芝の上では、柴崎がチームメイトと笑いながらロンドをこなしている。

1部昇格のプレーオフ進出が近づき、チームの雰囲気はいい。

「想像していたよりも、ガクの最初の適応には少し時間がかかったかもしれない」とマルティは振り返る。

「しかしそれも普通のことだ。彼は日本からやってきたわけだし、ヨーロッパという環境や、スペイン語という言語への適応など、簡単じゃなかったと思う。私は過去にマジョルカでアキ(家長昭博)と一緒にプレーしていたから、日本人にとってスペインへの適応がどれだけ大変かはわかっている。ただ、ガクはピッチの上ではすぐに溶け込んだ。私は急がせずに適切なタイミングを見て慎重に起用したが、それ以降は彼が自らポジションをつかんだ。素晴らしいプレーを見せてくれている」

家長のボールテクニックは秀逸だった、とマルティは言う。しかしややシャイで、コミュニケーションをとるのは難しかった、とも。

「ガクはコミュニケーション面では全く問題ない。驚いたのは、彼のスペイン語の習得のスピードだ。我々は当初、通訳をつける予定だった。でもあまりにも習得が早いので、実際に通訳をつけたのは最初の4、5日だけ。その必要がなかったんだ。練習メニューを説明しても、ガクはすぐに理解してこなす。複雑なメニューも、一度手本を見せればあっさりとね。頭がいいんだろう」

テネリフェの練習を見ていても柴崎はチームに完全に溶け込んでいる。練習が止まることもなければ、誰かが付き添って説明するわけでもない。コーチ陣の説明に耳を傾け、チームメイトをよく観察している。

指揮官が感心するのは技術面だけではなく、そんな柴崎のピッチの上での知性だという。

「ガクのプレーを見ているとインテリジェンスを感じる。もともとパス能力の高さは知っていたが、実際に見て驚いたのはマークを外す動きの質だ。スペースを見つけるセンスがあり、ものすごくスピードがあるというわけではないが、飛び込んでいくタイミングが素晴らしい。だから得点にも期待しているんだ」

スペースを察知する能力

初得点も、柴崎のマークを外す一瞬の動きから生まれている。指揮官はこの長所を活かそうと考え、攻撃の中心、4−2−3−1のトップ下に固定した。

「初得点を決める前のレバンテ戦も、4、5回スペースへのいい飛び出しがあった。そこにボールが出てこなかったのは残念だったが・・・。どこにスペースができるのかを読む目が鋭い」

柴崎はトップ下に入り、パスを散らしてはスペースへ飛び込んでいく動きを繰り返している。左サイドもこなし、加入当初はボランチの一角でも試された。

「マークを外して空いたスペースへ飛び込んでいく才能は、現在のトップ下のように、前目のポジションで生きてくる。ベストポジションは左サイドかトップ下だろう。運動量もあり、ポジショニングのセンスもいいのでボランチでも使えるが、私は相手のエリアに近い位置で起用し、得点に絡む能力をできるだけ生かしたい」

現役引退後、監督になってからはまだ2年目。マルティの夢はもちろん、テネリフェを1部に昇格させることだ。

彼にはある確信がある。

「ガクは1部でも活躍できる。その資質があるし、1部のリズムにさえ慣れれば、あのレベルで十分やれる」

柴崎の契約は半年間。彼の未来は、チームが1部に昇格できるかどうかにも影響される。

来季、1部の舞台にふたりの姿はあるのか。超えなければならない壁は、あと少し残っている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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