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米国に続き、欧州企業もエネルギーコスト軽減へ ~シェール革命の余波続く~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

ノルウェーの石油・天然ガス会社スタトイル(Statoil)は、欧州北部向けの天然ガス供給価格について、石油価格との連動を取り止める方針を明らかにした。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の取材に応じたスタトイルのEldar Saetre副社長は、「(天然ガス)市場の自由化と顧客からの要望に応えるため、従来とは違った(価格決定)手法での天然ガス売却を前向きに実施する」と表明している。

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欧州では、天然ガスは石油製品の代替品として評価されてきた経緯から、過去数十年にわたって天然ガスの取引価格は石油価格に連動して設定されるのが一般的だった。しかも長期売買契約での安定調達・供給が優先されていたことで、シェール革命で米国内の天然ガス価格が08年のピーク時から約3分の1の水準まで値下がりしたのに対して、その2~3倍の高値圏で取引されるのが主流となっている。

その一方で、イギリスやオランダなどのガスハブ拠点ではガス取引の自由化が進んでおり、石油価格との連動ではなく域内需給を反映したスポット価格の形成が始まっている。これは、当然に石油価格連動の長期契約価格を大きく下回るものになっており、もはや従来のように天然ガス需給とは関係のない論理で高値誘導を続けることは難しくなっていることが、今回のスタトイルの決定からも窺うことができる。

具体的には、ドイツ、英国、オランダ、ベルギーなどで当該地域のガスハブ拠点の価格を参考にした値決めを行うとしており、いよいよ欧州地区でも脱石油の動きが本格化することになる。これによって、天然ガスは石油の代替品としての位置付けから脱却する動きを加速させることになり、米企業に続いて欧州企業もシェール革命の大きな恩恵を受ける時期が近づいている。

従来から一部では、欧州スポット価格やアメリカのヘンリーハブ価格に連動させる動きが報告されていた。しかし、スタトイルは石油・天然ガス企業の売り上げとしては北欧諸国で最大であり、同社が天然ガスの価格決定方式を変更したインパクトは大きい。

もちろん、天然ガスの供給サイドとしては、現在の石油価格連動の高値が好ましいことは間違いない。しかし、シェール革命で安価な天然ガスがほぼ無制限で採掘できる状況になる中、もはや独自論理での高値誘導は不可能になっている。これは国際エネルギー機関(IEA)の調査部門もかねてから指摘していたことであり、エネルギー企業が今後も競争力を維持するために、天然ガス価格の脱石油の流れが必要不可欠になっている。

まだ南欧では原油価格連動の長期契約も多く残されているが、まずは北欧から天然ガス価格の値下げ圧力が強まる中、既にシェール革命の恩恵を享受している米国に続いて、欧州企業に対しても追い風が吹き易くなっている。欧州はパイプラインで天然ガス供給網が連結されていることもあり、割高な天然ガス価格は安値方向に収斂されることになるだろう。

■日本のガス価格引き下げは今後の課題

こうなると気になるのは日本企業のエネルギーコスト環境であるが、脱原発の流れの中で、逆に従来よりも割高なコスト環境を強いられている。このため、欧州同様に天然ガス価格の脱石油化を進めたい所だが、欧州に存在するような天然ガスのスポット市場が存在しないため、現状では石油価格連動形式から抜け出せていない。

この状況を打破するための第一歩が、11月9日付けの「割高な日本のLNG調達コスト引き下げの第一歩 ~TOCOMがLNG取引所を創設へ~」で紹介した、東京商品取引所(TOCOM)のLNGスポット市場、その先にあるLNG先物市場の創設となる訳だ。これはメディアでの取り扱いも小さく余り大きな話題にはなっていない模様だが、米国のみならず欧州企業もシェール革命の恩恵を享受し始める中、日本もこの流れに乗ることができるか否かを占う試金石になり得る動きである。日本のLNG需給を反映したスポット価格・先物価格を発信できる状況にならない限りは、日本企業がシェール革命の恩恵を受けるのは難しい状況になる。

業界では、特定企業と共同での店頭取引(OTC)市場創設に反対の声もあると聞くが、そのようなことは些細な問題である。日本経済のためにも、TOCOMの新しい試みの成功を祈りたい。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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