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割高な日本のLNG調達コスト引き下げの第一歩 ~TOCOMがLNG取引所を創設へ~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

東京商品取引所(TOCOM)は8日、液化天然ガス(LNG)などを相対で取引する店頭取引(OTC)市場を年内に設立する方針を正式に発表した。シンガポールの石油仲介会社ギンガ・ペトリアムと提携し、当初はガソリン、灯油などの石油製品を中心に、将来的にはLNGや電力なども取引対象に含めた総合的なエネルギーOTC市場を創設する計画になっている。

石油製品のOTC市場は、既にジェー・オイル・エクスチェンジ(JOX)などの既存市場もあるために競合が予測される。ただ、まずは現物スポット市場の成長を促すことで、価格ヘッジとしての先物取引に対するニーズを掘り起こすことを目的としている。

国内商品先物市場では、厳しい勧誘規制などの影響で市場の縮小傾向が続いており、TOCOMも2013年3月期は連結ベースで辛うじて経常利益を計上しているものの、取引所単独では依然として損失計上を繰り返している。

こうした中、OTC市場における取引仲介や清算業務を新たな収益源として成長させると同時に、その副次効果として先物市場の拡大も目指している模様だ。

■LNG現物市場の次ぎは、世界初のLNG先物上場を見据える

一方、日本経済全体への影響という観点では、世界的に見て割高な日本向けLNG価格の低下を促すための第一歩と評価できる。

原子力発電所の稼動停止で国内の火力発電所向けのLNG需要は急増している。しかし、日本の輸入するLNG価格は高止まりする原油価格の影響を強く受けているため、天然ガス価格との関係で決まる欧米諸国などと比較して極めて割高な価格での調達を迫られている。

経済産業省のLNG先物市場協議会が今年4月に発表した報告書では、「現行のLNG取引の大半は、原油価格に連動する価格式(フォーミュラ)による長期・相対契約になっている(原油連動型契約)。このため、世界的にはシェール革命等により天然ガス事態の価格は相対的に安定して推移している一方で、2000年代半ばから原油価格は、金融危機や中東の地政学的リスク等により不安定に推移してきたため、我が国が輸入するLNG価格は大きく変動してきている」と総括されている。

現在、日本のLNG価格は、シェールオイルの増産が進む米国との比較では、4倍近い高値での調達を迫られている。貿易収支の悪化や電力価格の高騰による企業・市民活動へのダメージを阻止する上でも、国際的に見て割高なLNG価格をいかに引き下げるかが、重大な関心事になっている。

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そこで必要とされるのは市場の需給を国内LNG価格に反映させることだが、足元ではLNGのスポット取引は全体の1割程度と言われており、まずは国内からの価格発信機能を強化することで、経済合理性の高いLNG価格を発見することになる。

その上で、今後はLNG取引のヘッジの場として世界で初のLNG先物市場を創設し、需給を反映した指標価格をTOCOMから発信することで、割高なLNG価格の是正を促す流れになる。経済産業省は2014年度中にLNG先物を上場する方針を示しており、TOCOMもこの方針に沿う形で、LNG先物市場への第一歩となるOTC市場の創設に踏み出したのが、今回の発表である。

この計画が成功すれば、LNG調達コストの大幅な引き下げが可能となるため、今後1~2年が勝負の時になるだろう。ただ問題は、どの程度まで実需家の参加が見込めるのかが不透明なことに加えて、コンプライアンス不況に陥った国内商品市場に、その受け皿になるだけの投機マネーを供給する能力があるのかが疑問視されることだ。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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