今夜10時から始まる、abemaTV初のオリジナルドラマ『#声だけ天使』は良質の青春ドラマだ。
昨年12月末、本日1月15日(月)夜10時からabemaTVで放送されるオリジナルドラマ『#声だけ天使』の試写会に参加した。
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本作は声優を目指して池袋にある声優専門学校に通うケンゾウ(亀田佑樹)たちイケてるボイスサービス(仮)(以下、イケボイ)というユーザーから届いたリクエストメッセージに声を当てて送り届ける会社を作る物語だ。
第一話で描かれるのは、アニメやゲームが盛り上がっていて、声優志望の若者がたくさんいるが、そこはとてつもなく狭き門だという身も蓋もない現実だ。
オーディションに受かるのはアイドルとしても通用するようなルックスのいい若者ばかりで、建造たちはバイトに明け暮れる中で八方ふさがり。
キラキラとしたアニメやゲームの虚構の世界と冴えない現実とのギャップを前面に打ち出すことで立ち上がってくる現代のリアリティが胸に迫ってくる。
おそらくこういう風景はアイドルやお笑い等、あらゆる場所に広がっているのだろう。
盛り上がってはいるが、日本のポップカルチャーは人材もコンテンツも飽和状態である。人気者の席には昔から活躍する人たちが座っていて、数少ない若者枠をオーディションやひな壇で競わされている。
数が少ない椅子を巡ってレッドオーシャンと化している既存の世界に飛び込むのか、まだ誰も飛び込んでいないブルーオーシャンを目指すのか? ケンゾウたちが選んだのは後者だった。
ケンゾウこと岸田建造を演じる亀田佑樹を筆頭に出演者はオーディションで選ばれた人々。
いわゆる民放地上波のテレビドラマでは中々見ることができないメンツだ。
物語はベンチャー企業を立ち上げる持たざる者たちの青春物語に、イケボイに応募して来た謎の美女・サクラ(仁村紗和)とケンゾウの恋愛ドラマへと進展していきそうな気配だが、物語の基盤となるイケボイの物語がしっかりしていれば、多分大丈夫だろう。その意味で理想の第一話である。
AbemaTVだからこそ作れるベンチャー精神に溢れた青春ドラマ
無料で楽しめるインターネットTV局を提唱するAbemaTVは「亀田興毅に勝ったら1000万円」や稲垣吾郎、香取慎吾、草なぎ剛が出演した「72時間ホンネテレビ」などのバラエティ番組が昨年は話題となっていたが、オリジナルドラマの制作は本作が初となる。
この二番組のやり方の延長で考えるなら、テレビや映画で活躍する知名度の高いディレクターや俳優を連れて来て大々的にアピールすることもできたはずだ。
しかし、『#声だけ天使』は、出演俳優や原作・脚本を担当する劇団・扉座を主催する横内謙介を筆頭に作り手は新進気鋭の者たちが集まっている。
持たざる者たちが集まって何かを立ち上げるベンチャー形式のドラマは、Netflixで放送されていた70年代後半のヒップホップ黎明期を描いたバズ・ラーマン監督のドラマ『ゲットダウン』を思い出させるが、何よりこれから伸びていくだろうAbemaTVの快進撃と重ねて見てしまう。
横内を抜擢したのは、このドラマのエグゼクティブプロデューサーにしてabemaTVを立ち上げたサイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋。
“居場所がないなら自分たちで作ろう”というベンチャー精神で本作がみなぎっているのは、ITベンチャーとして藤田がイケボイと同じように這い上がってきたこととも無縁ではないだろう。
こういう物語は民放地上波やNHKではあまり作られない。作られたとしても、朝ドラで描かれているような過去に活躍した女性の偉人伝として懐古的に語られることがほとんどだ。
今のテレビが若い視聴者を想定していないという背景はあるが、それ以上に仕組みが完全に完成している老舗のテレビ局からは、イケボイのような新しいことをする人たちを応援する物語は作りにくいのではないかと思う。
一方、前回紹介したdTVの『花にケダモノ』もそうだが、abemaTVやNetflixといったインターネットの配信メディアから、こういった若者向けドラマが次々と生まれている。
以前は番組制作能力の差から連続ドラマが作られるのはだいぶ先だと思っていたが『#声だけ天使』を見ていると、いよいよその差が縮まって来たなぁと思う。
いつの時代でも、新しい試みは最初は受け入れられにくいものがあると思うが、本作が話数を重ねることで盛り上がり、新しい連続ドラマの流れを生み出すことを願っている。
今の若者に必要なのは、過去の成功物語ではなく現在進行形で足掻いている、持たざるものたちの逆襲の物語であるはずだから。