姉は弟の遺体を切断しトイレに流したのか:残忍な犯行で弱者の行為としての犯罪
具体的な事件報道をきっかけに、私たちの心の問題と社会の問題を考えます。
■遺体は家の中で捨てた
遺体を損壊遺棄した疑いで逮捕された女の取り調べが続いています。
報道によると、逮捕された女(25)は、ささいなことで弟(21)と口論になり、もみ合いになった結果、刃物で殺してしまったと供述しています。遺体の一部は凍っていて、「冷蔵庫に入れた。においを防ぐためだった」とも話しています。
報道によれば、この家庭は、両親が離婚し母親が家を出ています。その後は、父親が子育てをしていましたが、その父親が亡くなった後は、二人だけで暮らしていました。逮捕された女性に関しては、アルバイト先でも明るく元気で、一番評判が良かったと語る人もいると伝えられています。
■これまでの事件における遺体の切断と遺体処理
バラバラにされた遺体が発見などされれば、世間は猟奇殺人事件かと注目します。
しかし、一般に遺体を切断する一番の理由は、遺体を処理するためです。女性一人で、大きな男性の遺体を運べません。ドラマのように、簡単に袋に入れて自動車で山奥へ運び埋めることなど、簡単にはできません。
ただ、これまでに起きた遺体処理のために遺体を切断した事件では、できるだけ早く遺体を遺棄しようとしています。
これまでの事例では、分断された遺体は、ごみ捨て場などに遺棄されます。分断した遺体をバッグに入れ、タクシーや電車で運んで捨てた事件もありました。しかし、ある程度の大きさと重さのあるものを、危険を冒して捨てに行くのも大変です。
今回の事件に限らず、殺害した遺体すべてをトイレに流せれば、遺体なき殺人事件として立件さえ難しくもなるでしょう。しかし、家庭のトイレに流せるほど小さく切断するのはかなり時間と労力がかかります。
■弱者が起こす殺人事件も
殺人も遺体損壊も、言うまでもなく大きな犯罪です。ただ、映画にあるように遺体をドラム缶にコンクリート詰めにして海に沈めるようなことは、複数の共犯者がいたり闇世界に力を持っていたりする犯人の行為です。
遺体の切断も自宅に置いたままにするのも、猟奇事件の場合もありますが、しばしば孤独で力のない加害者が行う行為です。これまでの犯罪事例では、残忍な犯行と報道された事件だからといって、必ずしも残忍な性格の人が起こしたけわけではありませんでした。
たとえば、めった刺しにされた遺体が発見されれば、人々もマスコミも、残忍な犯罪として、とても凶暴な犯人像を思い浮かべます。しかし、法医学者として著名な上野正彦先生は、「めった刺しするのは弱者の犯行」と語っています。
そして、「運びやすい、捨てやすいように、(遺体を)細かく解体する。残忍な性格だからやっているのではない」とも語っています(上野正彦著『死体の犯罪心理学』)。
一般的に言えば、ささいなことで人を殺害するのは重罪です。しかし同時に、これまでの事件においては、ささいなことで殺害に至るまで感情と行動を抑えられなった人は、そこまで心理的に詰められていた人々でした。
どのような事件でも、殺人の加害者を安易にかばうことはできません。残忍な犯人もいるでしょう。ただ私たちの社会には、犯行前に何らかの支援があれば防ぐことができた「弱者の犯罪」も、たくさんあるのだとは思います。
*加筆修正(22:50):一般論として書いた部分が、直接今回の事件を指していると誤解される部分があったために一部修正し、上野先生の言葉などを加筆しました。