Yahoo!ニュース

英アマゾンで自費出版・ベストセラーを出した作家に聞いてみた

小林恭子ジャーナリスト
ウィルキンソンさんのウェブサイト

日本でも、いよいよアマゾン・キンドルのサービスが開始となった。キンドルを使って、自分で電子書籍を出版するサービスも使えるようになるが、果たして、これが新たな出版ブームを作ってゆくのだろうか?

今年4月、ロンドンでブックフェアが開始されたとき、自費出版で本を出し、ベストセラーとなった2人の話を聞く機会があった。2回に分けて、紹介したい。(筆者の「英国メディアウオッチ」掲載分の転載です。数字は4月当時のもの。)

アマゾンのブースにアルバイトみたいな若者が座っていた。話を聞くと、彼自身が自費出版した作家であると知って、驚いた。それも、30万部以上を売っていて、英国のアマゾンサイトのベストセラー(昨年発売の処女作「LOCKED IN」ほか)を生み出した人物、ケリー・ウィルキンソン氏(31歳)であった。これまでにアマゾン・キンドルから出した小説3作はシリーズになっていて、犯罪の謎解きがテーマだ。

同氏のホームページ

http://kerrywilkinson.com/

アマゾンのページ

http://www.amazon.co.uk/Kerry-Wilkinson/e/B005DD1EJA

―どうやって本を売ったのですか?

ケリー・ウィルキンソン:マーケティングは自分でやりました。ソーシャルメディアを主に使いました。自費出版をやるとき、ここが一番難しいですね。

―どれぐらい売ったのでしょう?

これまでに3冊を書いて、トータルでは30万部を売りました。

―どれぐらいが利益になったのですか?

販売額の35%です。というのも、最初、98ペンス(約127円)で売ったからです。アマゾンでは、1・49ポンドの以下の作品のロイヤリティーは35%なんです。これ以上になると、70%になります。

最初は英国でよく売れていましたが、フランスのチャートでも上に入り、ドイツやスペインでもよく出ました。

―作家になる前の仕事は?

BBCでスポーツジャーナリストとして10年働いてます。

―ジャーナリストであるのに、何故小説を書こうと思ったのですか?

小説が書けるということ証明したかったから。できるかできないかを証明するには、書くことだと思いました。自分で自分に証明したかったのです。

―将来は紙でも小説を出すのですか?

マクミラン社から契約をもらっています。(すでに「ロックトイン」はペーバーバックに。)

―今まで、失礼ですが、あなたの存在に気づきませんでした!新聞の書評欄とかをよく見るほうなのですが。

何度か、取材されたことはありますよ。ガーディアン紙にも出ましたし。でも、新聞や雑誌の記事に出ても、売り上げにはまったく影響がありませんでした。出たからと言って販売部数が上昇するということはなかったのです。

―最初の作品はどれぐらいの期間で書き上げたのですか?

約2ヶ月です。トータルで9万8000語でした。

―事実を積み上げて、分析するのがジャーナリストですね。事実を書く、ノンフィクションの世界から、フィクションの世界に移ったわけですが、どうやって別世界に飛び移ったのでしょう?

うまく説明できませんが、自然にできてしまったのです。やってみたら、できた、と。

―アマゾンの自費出版では、自分で書いて、ボタンを押せば、出版されてしまいますね。編集者が介在しない点については、どうでしたか?

代わりに何人かの友人や知人に、事前に読んでもらいました。

―今後は?

紙も、電子書籍も含め、どちらもやって行きたいですね。

***

こぼれ話:どことなく、余裕しゃくしゃくの若者であった。いとも簡単に出版できてしまうことに驚きを感じたが、ベストセラーになるのは本当にすごい。しかし、同時に、本の価格を最初1ポンド以下にしたということについて、いささかのショックを受けていた。1ポンドでは(新聞は買えるが)、コーヒー一杯も飲めないのだ。たくさん売れれば一定の利益は出るようになるだろうが、そこまで安くしなきゃいけないのだろうか?(関連のアマゾン・キンドルの話、次回に続きます。)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

小林恭子の最近の記事