北朝鮮警察に一歩も引かず立ち向かう、ある男性の「勘違い」
北朝鮮の多くの家庭では、暖房の燃料として練炭を使っている。焚口に練炭をくべて火を付け、温めた空気を床下に通して温めるいわゆる「オンドル」だ。床には油紙を何重にも敷いてガスが漏れないようにするが、それでも一酸化炭素中毒事故が後を絶たない。
人民班(町内会)では、夜に家々を回り、その家の人が一酸化炭素中毒になっていないかを確かめる取り組みを行っている。
不幸にも中毒になってしまった場合は、病院の高圧酸素室に入って治療する。ただ、同国には設備の整った病院は少ないためか、根拠不明な様々な民間療法が言い伝えられている。
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によれば、道内の徳川(トクチョン)市では、一酸化炭素中毒事故が多数発生している。軽症の場合は、ひどい頭痛がするとのことだが、その治療薬として市民の間で認識されているのは、覚せい剤だ。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)
徳川市外貨稼ぎ事業所に勤めるAさんは、何の気なしにこんな言葉を口にした。
「死にたくなれば、一酸化炭素中毒に最も効き目がある『ピンドゥ』を持っていた方がいい」
「ピンドゥ」とは、中国語の「冰毒」で覚せい剤のことを指す。または「オルム(氷)」とも呼ぶ。英語では「アイス」だ。Aさんは、覚せい剤を使って助かった人の例を挙げて、使用法まで丁寧に説明するなど、使用を推奨するような発言を繰り返した。
こうした発言をしたことが密告されたのか、Aさんは先月中旬、徳川市の反社会主義・非社会主義グルパ(韓流、風紀取り締まり班)に逮捕された。
取り調べでもAさんは、自分の言っていることに何ら間違いがないと言い張った。
「去年の冬に一酸化炭素中毒で死にそうになっていた人を4人も覚せい剤で助けた」
覚せい剤がどれだけ有効かを述べる一方で、当の本人は「使ったことはない」と述べた。さらに自説を並び立て続けた。
「市民は覚せい剤やアヘンを麻薬ではなく、救急薬品と考えている」
「市民が薬より信じているのが麻薬だ」
「(死にそうになっている)人を生き返らせるのに、なぜ取り締まりの対象なのか」
これに対して、反社会主義・非社会主義グルパも、麻薬や覚せい剤が社会に蔓延しているのは、医薬品不足と関係している点を認めた。また、「病院の医師に匙を投げられた人民を生き返らせる覚せい剤やアヘンを取り締まる根拠が弱い」と弱気な姿勢を見せたという。これは極めて異例のことだ。
(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」)
Aさんに対する判決はまだ出ていないが、当局が薬物関連犯罪を重いものと考えている以上、無罪放免とはいかないだろう。
本当に「信じられる薬」を誰もが自由に買える日が来るのはいつになるだろうか。