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「えっ!私が亡・叔父の借金を背負うの?」~「泣く相続人」にならないために知っておくべきこと

竹内豊行政書士
突然「故人の借金を払え!」と言われたらどうしますか?(写真:イメージマート)

突然届いた亡・叔父の督促状

山田竜一さん(仮名・48歳)が在宅勤務で自宅で仕事をしていたある日、チャイムが鳴ったのでインターフォンを取ると「内容証明郵便のお届けです!」と言うではありませんか。「なんだろう・・・」と思い郵便を受け取り開封するとそれは貸金業者からの「支払督促状」でした。まったく心当たりがない健一さんは「新手の詐欺に違いない」と思いその場で破り捨てようとしましたが、気になって一応読んでみることにしました。するとそこには次のように書かれていました。

山田竜一様

突然のお手紙失礼いたします。

貴殿の叔父・山田寅二郎様が2022年10月27日にお亡くなりになりました。寅二郎様は当社から金500万円を借り入れていましたが、未返済が300万円あります。そこで、唯一の相続人である貴殿に残金をご請求いたします。本書面到着から10日以内にお支払いいただきますようお願いいたします。

2023年2月27日

東京都千代田区麹町1丁目2番〇号

電話 03-1234-567×

まことファイナンス

代表取締役社長 加藤 誠 

音信不通だった叔父

寅二郎さんは放浪癖があり、20年程前から音信不通になっていました。両親の葬儀にも連絡が付かず参列しませんでしたし、唯一の兄弟である竜一さんの父・寅一郎さんが1年前に死亡したときも連絡が付きませんでした。

知らぬ間に「代襲相続人」になっていた

内容が理解できなかった竜一さんは、内容証明に書かれてある貸金業者に直ぐに電話をしました。

竜一さんが「御社から督促状をもらいましたが、なんで私が叔父の借金を支払わなければならないのですか?」と尋ねると、担当者と名乗る男性は

「寅二郎様は当社からの300万円の未返済金を残して亡くなられました。そこで、当社で相続人を調べさせていただいた結果、死亡時に配偶者も子どももおらず、両親と唯一の兄弟である貴殿の父・寅一郎様も亡くなられているため、寅一郎様の一人息子であり、故人の甥の貴殿が代襲相続人として故人の借金を引き継ぐことになるのです」と答えました。

竜一さんは「仮にこれが事実だとしても、私は相続を放棄しますよ。相続放棄をすれば叔父の借金を背負う義務はないですからね!」と反論しました。

すると、担当者は「確かに相続放棄をすれば故人の借金を負担する義務はなくなります。しかし、誠にお気の毒ですが、叔父様は6か月前に亡くなられています。相続放棄は、亡くなられてから3か月以内に家庭裁判所に申し立てなければ認められないのですよ」と答えました。

それを聞いた竜一さんは奈落の底に落とされたような絶望感に陥ってしまいました。

「代襲相続」とは

まず、代襲相続について見てみましょう。代襲相続とは、被相続人(死亡した人)の死亡以前に、相続人となるべき子や兄弟姉妹が死亡したり、相続欠格や相続廃除を理由に相続権を失ったときに、その者の子がその者に代わって、その者の受けるべき相続分を相続することをいいます(民法887条2項)。つまり、竜一さんは父・寅一郎さんの代襲相続人として叔父・寅二郎さんの残した負の遺産を引き継ぐことになったのです。

大ピンチ!竜一さんは「相続放棄」できるのか?

竜一さんが言うとおり、相続放棄をすれば、「初めから相続人にならなかった」とみなされるので、被相続人の財産を一切引き継ぐことはありません(民法939条)。

民法939条(相続の放棄の効力)

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続放棄には期限がある

しかし、貸金業者が言うように、相続放棄をするには家庭裁判所に申立てを行わなければならず、しかも申立てには期限があります(民法915条1項)

民法915条1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

ここで注意したいのが、期限のスタートは「相続の開始(被相続人の死亡時)」ではなく「相続人が相続の開始があったことを知った時から」というる点です。

少なくとも竜一さんは叔父・寅二郎さんが死亡したことを貸金業者からの督促状で知りました。しかも、20年もの間音信不通でした。したがって、督促状を受け取った2023年2月27日を「相続の開始があったことを知った時」と考えるのが妥当でしょう。したがって、家庭裁判所に相続放棄を申述すれば、受理される可能性は高いと考えられます。

「笑う相続人」ならよいけれど・・・

代襲相続人は「笑う相続人」と呼ばれることがあります。それは、思いもよらなかった叔父・叔母や祖父母の相続人になった結果、想定外の遺産を手にして笑いが止まらないといったことからそう言われています。

しかし、竜一さんのように、負の遺産を背負ってしまうリスクもあります。そうなると「泣く相続人」になってしまいます。万一、泣く相続人になってしまったら今回ご紹介した相続放棄という救済措置がありますので、法律専門家や家庭裁判所に相談してみてください。

なお、笑う相続人については、笑う相続人vol.1笑う相続人vol.2をご覧ください。

※本文は、民法を基に作成したフィクションです。登場人物・法人は全て架空のものです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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