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なぜ日本のメディアは同じ性質の「ノンテンダー」と「戦力外」を区別するのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
稲葉GMが使用して以来「ノンテンダー」が広く使用されるようになった(写真:アフロスポーツ)

【日本メディアが多用し始めた「ノンテンダー」】

 最近のスポーツ報道をチェックしていて、すっかり新用語として頻繁に使用されるようになったのが「ノンテンダー」ではないだろうか。

 そのきっかけになったのが、日本ハムが海外FA権を有する西川遥輝選手、国内FA権を有する太田泰示選手と秋吉亮選手に対し、来シーズンの契約を提示しないことを明らかにした際、稲葉篤紀GMが発表した声明だろう。

 「3選手と来季以降のプレー環境について協議した結果、選手が取得した権利を尊重し、ノンテンダーとすることを選択しました。選手にとって制約のない状態で、海外を含めた移籍先を選択できることが重要と考えた結果です。昨年も、ノンタンダーの村田透投手と再契約した例があるように、ファイターズとの再契約の可能性を閉ざすものではありません」

 FA権を有する3選手をノンテンダーにしたことから、メディアの中には「ノンテンダーFA」と表記する社もあった。ちなみに後々説明するが、MLBにはノンテンダーはあるが、ノンテンダーFAというものは存在しない。

【ノンテンダーこそ事実上の戦力外】

 これまでノンテンダーは一般の人々にとっては耳慣れない表現だったはずだが、MLBに精通する人たちからすれば、まさに業界用語ともいえるものだ。

 MLBは毎年オフに「テンダー期限日」が設定されており、各チームはその期日までに、保有選手の来シーズン以降の契約を提示する意思があるかどうかを判断しなければならない。

 そこでチームから「契約の意思無し」の通達を受けた選手たちはノンテンダーとなり、FA選手の仲間入りをする。まさに日本ハム3選手とまったく同じ扱いを受ける。

 ただ稲葉GMが使用するまでMLBの専門用語だった面が否めなかったため、個人的にノンテンダーを使用する際は必ず「事実上の戦力外」という注釈を入れるようにしていた。

【DFAとノンテンダーの大きな違い】

 これまで日本のメディアはMLBの人事的措置に関して、40人枠から外す「DFA(Designated For Assignment)」を事実上の戦力外と説明する傾向が強かったが、これは明らかな間違いだ。

 この点に関しては、本欄でも何度となく指摘させてもらっているのだが、DFAされた選手はウェーバーさえクリアになれば、マイナー契約に切り替わるものの自らの意思でチームに残留できるし、メジャーに再昇格するチャンスもある。

 実際MLBでは一度DFAされた選手がそのままチームに残り、再びメジャーに再昇格したケースは枚挙に暇がない。

 また今シーズンの筒香選手はレイズからDFAされた後、結果的にウェーバー期間中にドジャースにトレードされてはいるが、DFAの判断を下したエリック・ニアンダーGMは、筒香選手のチーム残留を希望する発言を行っている。

 こうしたDFAに対し、事実上の戦力外と説明するのは明らかに相応しくないだろう。

 一方のノンテンダーは前述通り、ノンテンダーされた時点で自動的にFA選手になってしまうのだ。まさにNPBで行われている、通告と同時に自由契約になる戦力外と何も変わらない。その性質上、間違いなくノンテンダーの方が事実上の戦力外なのだ。

【戦力外選手でもチームに残留している】

 にもかかわらず日本のメディアはその点を無視し、これまでの戦力外とノンテンダーをあたかも別物のように取り扱っているのだ。

 確かに稲葉GMが説明するように、ノンテンダーになってもファイターズとの再契約の可能性を閉ざすものではない。だがそれは戦力外選手も同じだ。実際今オフも、戦力外になった選手たちの中に育成契約に切り替えてチームに残留しているケースが多数存在している。

 それを踏まえた上で、日本ハムとしては野球協約に則ったかたちで来シーズンの契約を結ぶ意思がなかったからこそ3選手をノンテンダーにしたのだと考えれば、やはり事実上の戦力外に他ならない。

【いびつなNPBのFA制度】

 こうした矛盾を引き起こす要因になっている1つが、MLBと比べ、いびつなNPBのFA制度にあるように思う。

 まず根本的な部分としてMLBでFA権を行使するかどうかは選手に委ねられていない。MLB在籍日数が6年に達し、シーズン終了と同時に契約が終了すれば、対象選手は自動的にFA権が行使される。

 つまり日本ハムの3選手もMLB式なら、シーズンが終了した時点で日本ハムの支配下から外れ、全員が自動的にFA選手になれているのだ。

 しかもMLBの場合、FA選手に対し前所属チームが「クォリファイングオファー」を提示しない限り、金銭補償や人的補償も一切発生しない。自由に全チームと契約交渉できる。

 どうしてもNPBのFA制度には、様々な制限が存在しているとしか思えない。

 その上NPBでは、国内FA権取得に出場選手登録が累計8年、海外FA権で同9年が必要となってくる。どうしてもFA権を取得するまでに、選手としてのピークを過ぎてしまう選手が出てきてしまう。

 今こそFA制度の見直しをしていかないと、今後は日本ハムのみならず他チームでもFA資格選手をノンテンダーにするケースが出てきそうな気がする。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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