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滑り止め不正使用で投手を全面擁護するピート・アロンソが主張する根本問題とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
滑り止めの不正使用で投手を全面的に擁護するピート・アロンソ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【現在のMLB内で最大の関心事とは】

 今も日本では、大谷翔平選手がMLB関連の主要ニュースであり続けているが、実はここ最近MLB内で、最大の関心事になっているものが他にあるのをご存知だろうか。

 すでに米主要メディアが報じているのだが、MLBが近日中に投手による滑り止めの不正使用に関する取り締りを本格化させ、週明けから新ルールが運用される見通しだと言われているのだ。

 MLBから正式発表された時点で、改めて詳細については本欄で報告させてもらうつもりだが、新しいルールが運用されるようになれば、滑り止めの不正使用が確認された投手は数日間の出場停止処分を受けることになると言われている。

 新ルールが正式発表されれば、投手たちから反発が起こる可能性は十分にあり、今後の動向が注目されている。

【今季から滑り止めの不正使用に厳格だったMLB】

 これまでMLB界で投手による滑り止めの不正使用は公然の秘密であり、そこに踏み込むのは、ある意味禁忌とされてきた。

 ところがMLBは今シーズンから、投手が投げるボールの回転率の急激な上昇などを理由に、今シーズンから規約により厳格に対応し、不正使用を取り締まる方針を打ち出していた。

 すでにご存知の方も多いと思うが、5月27日のホワイトソックス対カージナルス戦で、ジオバニ・ガイエゴス投手が審判から滑り止めの不正使用が疑われ、帽子の交換を命じられたことに抗議したマイク・シルト監督が退場処分を受けるという騒ぎが起こっている。

 また今月に入りMLBから、マイナーリーグの4投手が滑り止めの不正使用により出場停止処分を受けたことが発表されている。

 さらにジョシュ・ドナルドソン選手ら野手からも、滑り止めの不正使用を疑問視する声が挙がるなど、投手に対する疑惑、不満は高まりつつあった。

【投手を全面的に擁護するアロンソ選手】

 そんな状況下にありながら、「投手は滑り止めを使用するべき」と投手を全面的に擁護する野手が出現した。メッツの若き主砲、ピート・アロンソ選手だ。

 MLB公式サイトでメッツを担当しているアンソニー・ディコモ記者は、アロンソ選手のオンライン会見の動画をTwitter上で公開している。それによると彼は、「投手は何でもいいから滑り止めの使用を許されるべきだ」としている。

 アロンソ選手の主張を要約すると…

 ・投手はしっかりボールをコントロールできるよう、その材料が何であれ、滑り止めの使用が容認されるべきだ。

 ・投手が投げるボールは年々速さを増している、打者としても99マイルのボールが当たれば危険が伴う。そのリスクを減らすためにも、投手は滑り止めを付けってしっかりボールをコントロールしてほしい。

 ・打者もバットが滑らないように、様々な滑り止めを使用している。ボールが滑るのが分かっているのだから、投手の滑り止めを使用すべきだ。

 つまりアロンソ投手は、滑り止めの不正使用を取り締まることが問題の根本的な解決にならないとしているのだ。

【元凶は毎年のように変化し続けるMLB公式球】

 さらにアロンソ選手は、今回の騒動の根本的な問題は滑り止めではなく、毎年のように変化し続けるMLB公式球だと断言している。

 「最も意識すべきことは、MLBがFA市場や年俸調停に関連して、毎年のように公式球を操作していることだ。毎年のようにボールが変化していることが最大の問題だと思う。

 バスケであれ、フットボール、テニス、ゴルフなど、他のスポーツのボールは変わっていない。ボールが毎年のように変化していけば、投手としてもそれに対応するために滑り止めも必要になってくるだろう。それが責められるのは不公平だ。自分はまったく気にならない」

 すでに本欄でも度々報告しているように、MLBは今シーズンから公式球を低反発球に変更しており、その影響もあってか、シーズン開幕からMLB史上稀に見る投高打低傾向が続いている。

 またアロンソ選手が指摘するように、ここ数年は現場から自分のところにも、毎年のように公式球の縫い目が変化し続け、投手たちが指にマメができるなど、その対応に苦慮しているという声が届いていた。

 さらに現時点では、回転率の上昇が滑り止めの不正使用によるものだという主張が主流になっているが、今シーズンから使用されている低反発球との関連性については全く論じられていないのもおかしい。

 本当にMLBは、投手の滑り止めの不正使用だけ取り締まるだけでいいのだろうか。今後アロンソ選手の声が、もっと注目されていくべきではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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