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アメリカ財務省、ロシア軍使用の軍事ドローン開発のイラン企業に部品供給した中国5企業と1個人に制裁

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

これが初めてではない米国によるイラン製軍事ドローン関連の制裁・影響は軽微

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。

2022年10月にはロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んでいき爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウを攻撃して、国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義を無視して軍事施設ではない民間の建物に攻撃を行っている。一般市民の犠牲者も出ている。

ウクライナ軍も迎撃を行っているが、ロシア軍のウクライナでの攻撃を支えている兵器の1つがイラン製軍事ドローンである。そんななか、2023年3月9日にはアメリカ財務省はイランの軍事ドローンを開発しているイランの企業「イラン航空機製造工業」に部品を供給した中国企業5社と個人1名を新たに制裁対象に加えた。アメリカ人との取引を禁止するほか、アメリカにある資産を凍結する。

ブライアン・ネルソン財務次官は「ウクライナでイラン製軍事ドローンによる攻撃によって民間人に犠牲が出ており、イラン政府はこれらの軍事ドローンによる攻撃に直接関与している」と語っていた。

アメリカの当局によるイラン製軍事ドローン開発に対する制裁はこれが初めてではない。2023年1月31日にはアメリカ商務省はイランの軍事ドローンを開発している企業など7団体に輸出規制を課した。これに対してニュ―ヨークのイラン国連代表部はロイターの取材で「イランの軍事ドローンは全てイラン国内で製造されているため、米国による制裁はイランでの軍事ドローンの開発に全く影響を与えない。このことはウクライナで迎撃されて破壊されているドローンで西側諸国の部品を使用しているドローンは、イラン製ではないことを強く示唆している」と語っていた。

2023年1月には米国のメディアCNNがウクライナで使用されていたイラン製軍事ドローン「シャハド」を分解してみたところ、部品52個のうち40個がアメリカ企業13社によって製造されたものであり、残りの12個がカナダ、スイス、日本、台湾、中国の企業によって製造されたものであると報じていた。

2023年2月3日にはアメリカ財務省が、イランの軍事ドローン企業でロシア軍がウクライナで攻撃に使用している「シャハド」シリーズを開発している「パラバル・パルス(Paravar Pars)」のCEOやタングシリ司令官ら8人に資産凍結などの制裁を科すと発表した。アメリカ政府は2022年9月にもイランの軍事ドローンメーカー「パラバル・パルス」に制裁を科していた。

アメリカの当局によるイラン製軍事ドローン開発に対する制裁は今回が初めてではなく、このように何回も今まで発動してきた。だが、今回はイラン企業に部品を提供している中国企業5社に対しての制裁であることから、いつもよりもアメリカでの報道も大きい。だが実質的にこの中国企業5社に対する制裁でイラン製軍事ドローン開発に大きな影響が出たりすることは考えにくい。

この中国企業5社以外にも仕入先はあるだろうし、軍事ドローンは特殊な部品や素材を使用しないでも製造できる。そのため特定の企業と取引を中止させられたりしても開発と製造に大きな影響はない。

インフラ施設などにイラン製ドローンで攻撃
インフラ施設などにイラン製ドローンで攻撃写真:ロイター/アフロ

ロシア軍のイラン製軍事ドローンをめぐる動向

米国の国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は2022年7月11日にホワイトハウスの記者会見で、イラン政府がロシア軍に対してウクライナ紛争で使用するためのドローン数百機を提供する可能性があると語っていた。7月からロシア軍に攻撃ドローンの訓練も行っていた。米国のシンクタンクの戦争研究所は、イラン政府がロシア軍に対してイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」を46機提供しているとの調査結果を発表していた。米国CNNの報道によると、ロシア軍はイランでウクライナでの戦闘のために、イラン政府が提供した攻撃ドローンの操縦訓練を行っている。CNNによるとイラン製の攻撃ドローン「シャハド129」のほかにイラン製の監視・偵察ドローン「サーエゲ(Shahed Saegheh・Shahed191)」もロシア軍に提供されるということだった。つまり2022年7月からイラン政府がロシア軍に軍事ドローンの提供で協力していたと見られている。

ロシアのプーチン大統領は2022年7月19日にイランを訪問し、最高指導者ハメネイ師、ライシ大統領と会談していた。ハメネイ師はイランとロシアの中長期的な協力関係をプーチン大統領に呼び掛けていた。

2022年8月には米国国防総省のパット・ライダー報道官は「イランの飛行場からロシアに向けて軍事ドローンが輸送された。ロシア軍はイラン政府からイラン製の軍事ドローン数百機をこれから調達する予定。入手した情報によると、今回輸送されたイラン製の軍事ドローンはすでに多くの不具合(numerous failures)が生じている」と語っていた。

2022年9月からイラン製のドローン「シャハド136」と「マハジェル6(Mohajer6)」がウクライナでの攻撃に使用されるようになった。ロシア軍が以前に使っていたロシア製の軍事ドローンに代わって多くのイラン製ドローンで攻撃を行っており、ウクライナ軍によっても迎撃された写真や動画も公開されている。また2022年9月にウズベキスタンで開催されていた第22回上海協力機構首脳会談で、イランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領は会談し、NATOの脅威は欧州だけでなく世界共通の脅威であると語っていた。

2022年7月にイランを訪問したプーチン大統領
2022年7月にイランを訪問したプーチン大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2022年9月の上海協力機構首脳会談でのイランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領
2022年9月の上海協力機構首脳会談でのイランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2022年10月にウクライナ軍は「ロシアにはまだ約300機のドローンが残っています。さらにロシア軍は数千機のドローンを購入する予定があります」と公式SNSで伝えていた。また、ロシア軍はウクライナ攻撃と欧州からの軍事支援阻止のためにキーウに近いベラルーシにもイラン製軍事ドローンを配置すると報じられていた。

そして2022年10月には首都キーウへの攻撃にイラン製の軍事ドローンが多く使用されていた。イラン製の軍事ドローンはロシア軍のウクライナ侵攻のために開発されたものではなく、イランにとっては敵国であるイスラエルを標的にして使用することを念頭に開発されたものだ。そのためロシア軍がウクライナで使用しているイラン製の軍事ドローンの攻撃力、破壊力についてはイスラエルのメディアも強い関心を示している。

同じく2022年10月には米国国務省の報道官のネッド・プライス氏が「イラン軍の兵士がロシア軍が支配しているウクライナのクリミアに入ってロシア軍に攻撃ドローンのトレーニングをしている」と記者会見で述べていた。だがイラン政府はロシア軍への攻撃ドローンの提供は否定していると報じられていた。

2022年11月5日にはイランの外務大臣のアブドラヒアン氏が、ロシア軍がウクライナに侵攻する数か月前にイラン政府はロシア軍に攻撃ドローンを提供していたことを初めて公式に認めたと国営イラン通信が報じていた。それに対してウクライナのゼレンスキー大統領は「イラン政府がロシア軍に少数しか提供していないはずはない。キーウにも大量の軍事ドローンでの攻撃がある。イラン政府はまだ嘘をついている」と批判していた。

米国メディアのワシントン・ポストが2022年11月に、イランの軍事ドローンをロシアで生産していくことに両国が合意したと報じていた。さらに2022年11月17日からイラン製軍事ドローンの使用が報告されていないことからイラン製軍事ドローンは枯渇したのではないかという予測を英国国防省が発表していた。2022年11月の英国メディア、ザ・ガーディアンの報道によると、ロシア兵に「シャハド136」の操縦方法を教えていたイラン人軍事顧問をウクライナのクリミアでウクライナ軍が10月に殺害した。

2022年12月になってからロシア軍ではイラン製の軍事ドローンによる攻撃を再開し、ウクライナの民間施設やエネルギー施設を攻撃しており、オデーサなど主要都市では電力供給が停止されてしまい150万人以上の市民生活にも大きな影響が出ている。また首都キーウにもイラン製軍事ドローンで襲撃をしている。そして12月17日に、ウクライナ国防省情報局のスポークスマンのアンドリ・ユソフ氏が、ロシア軍がイラン製軍事ドローンを追加で調達したことを地元メディアで伝えていた。12月20日には英国下院でウォレス国防大臣が「イランはロシアにとって最大の軍事支援者になっている。ロシア政府はイランから300機を超える神風ドローンの提供を受けた見返りに、ロシアは中東と国際社会の安全保障を損なう"高度な軍事部品"をイラン政府に提供する計画がある」と語っていた。

2023年1月にはウクライナ軍情報部が、ロシア軍は1750機のイラン製軍事ドローンを調達しており、そのうち約660機を既に使用しているとの見解を発表。2023年1月には米商務省はイランの軍事ドローンを開発している企業など7団体に輸出規制を課した。イラン国連代表部はロイターの取材で「イランの軍事ドローンは全てイラン国内で製造されているため、米国による制裁はイランでの軍事ドローンの開発に全く影響を与えない。このことはウクライナで迎撃されて破壊されているドローンで西側諸国の部品を使用しているドローンがイランのものではないことを強く示唆している」と語っていた。

2023年2月には米財務省が、イランの軍事ドローン企業でロシア軍がウクライナで攻撃に使用している「シャハド」シリーズを開発している「パラバル・パルス(Paravar Pars)」のCEOやタングシリ司令官ら8人に資産凍結などの制裁を科すと発表した。英国防省は2023年2月25日にウクライナ情勢に関するレポートを発表。英国防省は2023年2月15日からイラン製軍事ドローンが使用されていないことから、イラン製軍事ドローンの在庫が枯渇したのではないかという見解を示していた。だがそんなレポートが出た直後にロシア軍はイラン製軍事ドローンで奇襲してきた。

英国防省は2023年2月25日にウクライナ情勢に関するレポートを発表。英国防省は2023年2月15日からイラン製軍事ドローンが使用されていないことから、イラン製軍事ドローンの在庫が枯渇したのではないかという見解を示していた。だがそんなレポートが出た直後にロシア軍はイラン製軍事ドローンで奇襲してきた。

そして、2023年3月9日にはアメリカ財務省はイランの軍事ドローンを開発しているイランの企業「イラン航空機製造工業」に部品を供給した中国企業5社と個人1名を新たに制裁対象に加えた。

イランの兵器のほとんどは1979年まで続いた王政時代にアメリカから購入したもので、現在はアメリカとの関係悪化による制裁のためアメリカから購入できないので、特にドローン開発に注力している。イランの攻撃ドローンの開発力は優れており、敵国であるイスラエルへも飛行可能な長距離攻撃ドローンも開発しているので、イスラエルにとっても脅威である。イスラエルのガザ地区の攻撃の際にはパレスチナにドローンを提供してイスラエルを攻撃していたと報じられていた。またイランでは開発したドローンを披露するための大規模なデモンストレーションも行ってアピールもしていた。

▼イラン製軍事ドローン「シャハド136」解説動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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