【長野市】世界平和を信じて、唄う、踊る、発酵する!ドキュメンタリー映画「発酵する民」が市内で上映中
権堂アーケードの中ほどにある映画館「長野相生座・ロキシー」では、さまざまなドキュメンタリー作品が上映されています。監督さんの舞台挨拶などの機会が多く、近い距離で生のお話が聴けるのが魅力です。
6月10日に上映がスタートした「発酵する民」の監督・平野隆章さんが11日、舞台挨拶に訪れるということでお話を聞きに行ってきました!
思いを唄にして踊る!
映画の舞台は神奈川県の鎌倉。2011年の東日本大震災で発生した福島の原発事故の後、平野さんが鎌倉の脱原発パレードの取材先で出会った女性たちから手紙をもらったのが映画制作へのきっかけでした。
「私たち、盆踊り部をつくったので来ませんか?」
女性たちが結成した「イマジン盆踊り部」は、オリジナル唄と昔からある唄を唄い、演奏し、お祭りなどで盆踊りを踊ります。数人から始まり、今はもっと多くの人が鎌倉、葉山を中心に集まってきているそうです。
平野さん「私自身はみんなで何か一つのことをするのが苦手なタイプだったんですが、彼女たちの盆踊りは、そんな自分でも『いいな』って思えました。彼女たちが『一丸となってバラバラに生きる』みたいなことを言っていて。バラバラで生きていていいというのをすごく大事にして生きている人たちだから、踊りを揃えて完璧なものを目指していくのとは違った魅力があるなと。自分と似ているなと思って、だんだんはまっていきました」
彼女たちのつくる独創的なオリジナル唄は魅力的ですが、盆踊りの先生に踊りの型を教わったり、新曲をつくるときは先生に相談したりと、文化としての盆踊りも大事にしているそうです。
人間の都合優先でない生き方
映画に登場する「発酵盆唄」は、「発酵」をテーマにしたという驚きの盆踊り。映画の中でも、女性たちが味噌づくりをし、パン屋さんが自家製酵母でパンを焼き、酒屋さんは酒造り…と、メンバーたちの身近に「発酵」があります。
平野さん「たとえば、パン屋さんに『何時頃撮影に行けばいいですか?』『何時頃にパンができ上がりますかね?』と聞くと『それは来てみないとわからない』と言われます。パンは酵母と一緒に生活してつくっていくので、時間の感覚が人間社会とは違います。お酒造りも一年かかります。発酵に携わることを考えると、自分の都合では進められないというのもあって、撮影にも7年かかりました」
映画を制作するにあたり、はじめの企画段階では「3.11」から入ったといいますが、彼女たちを取材し、発酵と出合うことによって内容がどんどん変わっていったそうです。
ある日、自家製酵母のパン屋さん「パラダイスアレイ」のパンを食べ、「びっくりするほどおいしかった」という平野さん。パン屋さんから「いつもと一緒のパンだけど、食べる人の状態によって体の受け止め方も違ってくるんだよ」と言われ、涙が出そうになったといいます。
平野さん「自分のことでいっぱいいっぱいになっていたのだと思いました。自分だけでなく、他にも生きているものがいるのを感じさせられ、発酵に魅かれ、発酵って面白いと思いました」
世界平和を真剣に願う
撮影は新型コロナウイルスが流行し始める前に終えたそうですが、もともと平和への思いをこめて踊る「イマジン盆踊り部」。戦争が続くウクライナに思いを寄せ、より切実な気持ちがこもります。
平野さん「イマジン盆踊り部の活動は、人から見たら小さな規模かもしれませんが、平和を信じてやっている、その気持ちは心に伝わってきます。世界平和を願う、それを笑ったり、バカにしないような作品にしたかった。その気持ちがなかったら何もできない。それくらい大切なことですから」
みんながそれぞれに存在していて、多様であって、でも俯瞰してみるとみんながひとつの盆踊りの場をつくり上げていて。彼ら自身が発酵する存在で、全ての人々が発酵し互いに作用しあっているのだと、小さな鎌倉の街から宇宙規模で思考が広がっていくような映画でした。
ゴールのない、答えのない不思議な映画、なのにこの高揚する感覚はなんなのか。自分もこの世界とつながっているのだと実感できるからなのではないかと思える、それくらいのスケール感を感じました。
映画「発酵する民」は6月23日まで、長野相生座・ロキシーで上映しています!