大人の絶望的な「無知」が子供の悲劇的な「死」を招く
致死量相当の食塩を摂取した1歳児
2015年8月、盛岡市の認可外保育施設で当時1歳の女の子が「食塩中毒」によって死亡するという、何とも痛ましい事件があった。病院に搬送された女の子の体内の食塩摂取量が、致死量相当の約5gであったということが新聞で報道された(7/20 朝日新聞DIGITAL)。
身体に必要不可欠な塩分であっても、過剰摂取すれば死に至る。人間の塩化ナトリウムの経口致死量に関しては、過去の中毒事故などから判断するしかないが、体重1kgあたり0.5g〜1gの塩化ナトリウム摂取で毒性を示したというデータがある(日本中毒情報センター)。1歳女児の平均体重はおよそ9kgなので、このデータに照らし合わせれば4.5g〜9gが致死量相当となる。
この事件では、保育施設の元経営者が傷害致死容疑で逮捕されている。容疑者は「具合が悪そうだったので塩分補給のつもりで与えたが、危害を加えるつもりはなかった」と容疑を否認している。ここで容疑者の行動が故意だったのか過失だったのかは論じないが、仮に過失だったとした場合、その知識の無さが1歳児の命を奪ったということになる。
そもそも子供は大人ほど汗をかかない
盛岡の事件は真夏の8月におこった。夏の熱中症対策として水分や塩分を補給する、ということは多くの人が認識しているところであろうが、そもそも暑い夏の時期であっても、長時間屋外にいたりスポーツをするなど特別な場合はさておき日常的な活動の範囲内であれば、大人子供に関わらず塩分を余分に摂取する必要はない。
また環境省が公開している「日常生活における熱中症 子どもと高齢者の熱中症予防策」によると、乳児や小児は発汗機能が非常に低く、大人とは体温調節の仕組み自体が異なるとされている。発汗は体温を下げるために行われるが、子供の場合は発汗よりも皮膚からの放熱で体温を下げるので、実際には大人の半分ほどの発汗量だというのだ。つまり、子供の熱中症対策としては意図的に塩分を摂取する必要はなく、水分をしっかり補給した上で涼しい環境で過ごせば良いということだ。
熱中症にならないためにどうしたらいいか。それを乳児や幼児が判断することは当然不可能で、保護者や保育施設の管理者など周囲の大人が適切な判断と処置をすることが重要になる。大人が間違った知識を持って対処すると、大切な子供の命が危険にさらされるということだ。
大人の無知が子供の死を招く
今年4月にも、東京で生後6カ月の男児が「乳児ボツリヌス症」に罹り死亡するという痛ましい事故があったが(4/7 日本経済新聞)、これもやはり大人の無知が引き起こしたものだった。
ボツリヌス菌の種のような存在である「芽胞」は、蜂蜜に含まれていることが知られている。このボツリヌス菌の芽胞は大人が摂取しても無害だが、1歳未満の幼児の場合は腸内環境も整っていないことなどから、ボツリヌス菌の芽胞が含まれている蜂蜜を摂取すると、腸管内でボツリヌス菌が増殖し毒素で呼吸困難などの症状を引き起こし、重篤な場合は死に至ることもある。
離乳食に蜂蜜を入れるということは、正しい知識を持つ親であれば絶対にしない行為である。しかしこの男児は、約一ヶ月ものあいだジュースに蜂蜜を混ぜた離乳食を食べていたという。離乳食を与えた親は蜂蜜が乳児ボツリヌス症を引き起こすことを知らなかったという。厳しい言い方をすれば、親が無知であったばかりに我が子を死なせてしまったのだ。
免疫力のある大人なら大したことがなくても、乳児や幼児の場合は一大事になる。子供が口にする食べ物に関しては、徹底的に注意を払わなければならない。食に対しての正しい知識を得て、適切な与え方をして、与えたあとは子供の状態を常にチェックしなければならない。大人の無知が子供の死を招くのだ。