たばこ代アップで税収は増加しているのか(2014年)
先日「たばこ代の何割が税金なのだろうか(2014年)」でも解説した通り、たばこ代金の約2/3は各種税金で占められている。そしてたばこ税(国税のたばこ税とたばこ特別税、地方税の都道府県たばこ税と市町村たばこ税、すべて販売本数あたりの額面で決定される)や消費税の引き上げに伴い、たばこ価格は漸次上昇している。原材料費の値上がりなど他の理由に寄るところもあるが、たばこは概して税金周りで価格が変更されていることになる。
それではたばこ販売による税収は、たばこ税などの引き上げに伴う価格値上げに従い、漸次上昇し続けているのだろうか。代金の多分を税金で占められていることもあり、特に喫煙者にとっては「自分の吸ったたばこでどれほどの税収が生じているのか」について、気になる人も多いはず。先日は消費税の引き上げに伴い多くのたばこもその価格が10円から20円上昇し、その実態をあらためて気にする人もいるだろう。
そこでたばこによる税収の推移を計算してみることにする。国税および特別税は財務省の統計一覧から逐次会計年度の確定値を抽出、地方税は総務省の地方財政白書内にある決算資料を基に確定値を抽出し、算出していく。なお今回の消費税率引き上げに伴うたばこの値上げ分については、当然まだ反映されていない。
想像とは裏腹に、実のところ前世紀末から、たばこ販売によるたばこ税の税収は2兆円強のままでほぼ横ばい。むしろたばこ消費量の減退で、2008年度あたりから税収も漸減してしまっている。販売本数毎に税金がかけられるのだから、本数が減れば減収となるのは当然の話。次のグラフは日本たばこ協会のデータを基にした、同期間におけるたばこ販売本数の推移だが、前世紀末をピークに漸減を続けている。
2013年度はようやく息を吹き返し、前年度比でプラスに転じたが、昨今の健康志向の高まりや、特に若年層におけるたばこ離れの顕著化を考えれば、ここからさらに大きな上昇に転じるとは考えにくい。
2010年度以降は2010年10月のたばこ税大幅引き上げにより、どうにか税収も息を吹き返し、2兆円切れをせずに済んでいる。とはいえたばこそのものの販売本数は漸減しており、ふたたび税収は減る動きを示している。
ちなみに「たばこ代金に含まれる税金」という点では消費税も同様だが、たばこ税と消費税は多様な体系面で性質が異なり、ひとまとめにするのには無理がある。仮に概算をしてみたが、たばこ販売で毎年徴収される消費税額は0.12兆円~0.20兆円の枠内で、上記グラフの大勢に影響は与えない。なお上記にある通り、消費税率の8%への引き上げは2014年4月であることから、今件の最新データ分となる2013年度ではまだ対象期間外となっているため、反映はされていない。
今件で算出した税収動向からは、世間一般に語られている「価格上昇に伴いたばこによる税収は漸増している」が単なる憶測で、税収は横ばいで推移しているのが確認できる。むしろ2008年度からの減少傾向を見る限り、たばこの消費量の減退に伴うたばこによる税収の減少を危惧し、税率を上げているようでもある。2010年10月より前の値上げのタイミング、2003年7月と2006年7月それぞれの直前に、やはりたばこ税の減収傾向が見られるところを見ると、その推測にも納得がいく(ちなみにグラフ中にある1997年度の凹み部分においても、その直後の1998年にたばこ特別税が新規導入され税収が増加している)。
つまりたばこ税率は、たばこ(税)による一定税収の確保のため、引き上げられていると考えれば道理が通る。「たばこ消費量が減る」「税収が減る」「税率を上げて1本当たりの税収を増やす」「税収が回復する」「たばこ消費量がさらに減る」の繰り返しで、たばこ価格の値上げが繰り返されることになる。元々健康志向の高まりにつれてたばこ消費量は減少傾向にあるが、値上げでさらに拍車がかかる次第である。
無論「税率引き上げによりたばこ代金が上がり、喫煙者の負担が増えることで、喫煙を抑えることができる」という健康面上の施策効果への期待も、たばこ税の引き上げの一因。しかし税収の実情の限りでは、大義名分に過ぎない気がしてならない。
昨今では再びたばこ代金の引上げが論議の対象として挙げられている。仮にその話が実現しても、これまで同様に一時的な税収の増加が生じると共に消費量は減退し、再び税収は漸減していくだろう。もっともこの2、3年は(震災の影響もあるが)販売実績は横ばいに移行しており、これがどのような影響を及ぼすことになるのか、興味をそそる話ではある。
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※今件記事は昨年掲載した「たばこ代アップで税収は増加しているのか」のデータ更新&現状反映版です